第3話 担任は…

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「ただいま、キーノ」

「心配しておりました、なにせここ最近貴族を狙った通り魔が出るとのうわさを耳にしておりましたので。」

「そうなんだ、でも僕は大丈夫だ」

「そうでしたね、ご主人様には不意打ちは効かないんでした。それで入学式はどうでしたか?」

「リリア様が綺麗だったくらいかな」

「そうですか」

「でも今日はね、リリア様に終わった後誘われたんだけど断って帰ってきたんだ、早くキーノに会いたかったから」

「それは…、とても嬉しいです。」


 反射的にイツハ様を抱きしめてしまう、あぁ好きな人が自分を選んでくれることはこんなにも嬉しいものなのか。しばらくしてから私は名残り惜しさを感じながらもイツハ様に向き直り実家からの手紙の内容を伝えた。


「実家の方から手紙が来ておりましてエレオノールイツハの姉様が直近の休みには顔を出しなさいとのことです。」

「姉様、ですか」

「はい、イツハ様に会いたくて仕方がないみたいですよ。」


 エレオノール様はイツハ様を溺愛しているがゆえ二人の関係は歪である。そのため昔に一度イツハ様の心が壊れかけたことがあり、その時に私が寄り添うことでイツハ様の心を射止めたのだ。イツハ様は姉への好意と恐怖の板挟みになっているため姉の話をするとかなりの確率で重度のめまいを引き起こす。まあ、お二人の関係はいつか破綻することがわかっていたのでイツハ様の心が限界になるまで放置しておいたのだが。今は私がお二人の関係を保つための重要な要素であるためエレオノール様も私がイツハ様に付き添うことを許しているのだろう。


「大丈夫ですよ、私がずっとそばにいますからね。」

「うん、、、」

「えぇ、ずっとですよ。」


 イツハ様をもう一度、今度ゆっくりしっかりと優しく抱きしめた。中世的な顔立ちにこの艶やかな上質な赤ワインを連想させる黒に近い紫色の髪、身長の一回り私より小さく抱きしめていると折れてしまわないか心配になる華奢な腕と足。一生離れませんからね。




 今日は彼と校門で待ち合わせている。


「おはよう、イツハ」

「リリア様、おはようございます。」

「これからそのリリア様はやめなさいよね、呼び捨てでかまわないわ。」

「では以後そのようによばさせていただきます。」

「さあ教室にむかいましょ。」


 案の定教室に向かっている途中ちらちらと視線を感じる、彼への。男の子で最上位クラスは前例がないものね。まあ王女である私がそばにいる間はちょっかいをかけられることはないでしょう。


「ここですね」


 教室の扉を開けると自分たちの指定された席にそれぞれ座った。定刻になると教室に入ってきた。


「本日からこのクラスを担当するオリヴィアです。今日からよろしくお願いしますね。」


 これは想定していなかったわね


「すみません」

「どうしましたか?」

「学園長が担任を持つことってあるんですか?」

「就任しての二年間特別授業で担当す学園の運営をしているわけでもなくギルドからの依頼も大したことないものばかりで暇でしたし気になることもありましたので立候補させていただきました。一年の一番上のクラスを持ちたいとね。」

「気になることですか?」

「えぇ、まあ。その件は後々」


 彼女はそういいながらイツハの方を見ながら笑いかけた気がした。


「というわけでこのクラスのすべての授業を持つことになりました。これからよろしくお願いしますね。」

「「「「「「よろしくお願いいたします。」」」」」」

「では、このクラスの概要から説明していきますね。このクラスは一般の方の入学試験と貴族、王族のクラス分け試験の結果を加味して選出された学年上位7名で構成されています。今年は異例なことが2つあります。1つは一般受験の方がこのクラスに2名選出されています。例年は0人、数年に一度1人選出される程度です。学園創設以来初めてのことです。そしてこれも記録にないことですが男性がこのクラスに選出されています。ではなぜ男性が最上位クラスに選出されることがなかったか、リリアさん」

「はい、魔術には火水土雷風、そして無の属性があります。そしてその無属性とは少し特殊であり他の属性と違い使用する際に触媒となるものがいらなく防御力上昇、速度強化などの身体強化に使われます。そしてこれは女性であれば使え男性では使えないのです。普段から使い続けることで戦闘時にはon off ではなく出力を上げるという作業のみで自身の肉体の強化することができます。」

「正しいですね。私はイツハ君が特性でそれを補っていると考えています。ではイツハ君、特質について答えてください。」

「そもそも魔術と特性は物理学では説明できない事象を人間の手によって生み出す手段です。以上の点では同じことですが魔術と特性は触媒が必要か否かという点で異なります。特性は人がそれぞれ持っている魔術とは異質なものです。例えばリリアが先ほど言っていたように魔法は6つの系統に分類されその中で自分に適正があるものを極めていきます。しかし特性は分類することはできずその能力は抽象的なものもあれば具体的なものもあります。例をあげると“水中で呼吸ができる”、“嘘をついているかがわかる”、“未来がわかる”などです。そしてこれはその人特有というわけではなく他人と同じものを持っている場合や先生のように2つ、3つ持っている場合もあります。僕は先生の推測通り戦闘時は身体能力の差を特性で埋めています。」


 先生は満足げに笑うと


「正しいです。さすが学年首席と次席ですね。ということはイツハ君の特性はとても有用なのでしょうね。そして魔術を使用する際には触媒が必要であるとのことでしたが触媒についてハリエットさん」


 そう先生がいう薄ピンク色の髪をウルフカットにした赤い瞳の少女が席を立った。


「触媒は結論、何でもいい、です。魔術をしようする際、第3者のモノを介する必要があります。それは木の枝でも布でも一応魔術は発動します。ですが素材による伝導率の違いなどから真に何でもいいというわけではなく適したものというのが存在します。木の枝でも折れて数か月のものと数日のものでは後者のほうが伝導率は高かったりします。伝導率と魔術の精度、威力は比例の関係なので触媒に何を使うかはとても大切です。」


 とてもハキハキ元気よく発言していたのでクラスの雰囲気が明るくなった気がした。


「正解です。さらに無属性の場合は効率よく魔力が体内を循環しているほうが出力の制御もやりやすくなり魔力の無駄もなくなるので日頃から意識しましょう。では最後に自己紹介しましょうか。一人欠席ですが彼女については最後に私の方からお伝えします。使える魔術の属性と特性についてをお願いします。自分の詳しく言いたくない人に嘘をつかれても困りますので個数だけでも結構ですよ。それでは学年首席からお願いします。」


 私は深くため息を吐くと席を立った。


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