第2話 入学式当日

「まだか?」

 どこからかそんな声が聞こえてきた。はじまってからもうすでに1時間30分もの間何人かの人が出てきて同じような話を繰り返している。この場には貴族、そして狭き門潜り抜けてきたエリートしかいないた人はさすがにいないようだが。そして何が「まだ」なのかというとおそらく…


「次はやっと私の番か~」


 隣の席ですべてを見通すような空色の瞳、透き通るような白い肌、神々しい金色の髪を後ろで束ねた少女がつぶやいていた。


「大丈夫ですか、リリア様?すごく眠そうですけど」

「大丈夫よ、昔からこのような眠くなる話に耐えることには慣れているから。にして もなぜ同じような話がこんなにもつづくのかしら、リハーサルなどはしてないのかし らね。」


 隣の席にダルそうな顔をして座っている少女こそリリア・モンテフォルテ、この国の第3王女であり今年の試験を首席で通った才女である。王族、貴族の受ける試験の目的はクラス分けである。この試験がどんなに悪かろうが落ちるということはないが2年間は変動がない、高水準な教育を受けるため、そして上のクラスに行くほどよりよい人脈を築くためことができるため多くの生徒が必死に受ける試験のためその試験で首席を取ることは簡単ではない。


「そもそもなんで私が首席なのよ、わざと最後の一問解かないでそのまま提出したのに。あなたならあの問題解けたでしょ。あなた、まさか…」

「えぇ、リリア様がそうすると思ったので僕は2問解かずに提出しましたので。それに王女であるあなたを差し置いて僕がスピーチするのはと思いまして。」

「あなた公爵家の長男でしょ、もう王位継承権のない私よりあなたの方がいいんじゃないかしら?」

「実家は姉様が継ぎますので、それに僕にはリリア様のような華はありませんから」

「どの口がいってんのよ…」


 そうこうしているうちにリリア様のスピーチの番になった。


「それでは今年の首席であるリリア・モンテフォルテによるスピーチです。」


 王女であるリリア様でも敬称略であることからもわかる通り学園内では身分のことを持ちだしたり匂わせる行為は禁止されている。そしてこれは主に教師に対しての規則である。難しい話ではあるが常に意識し続けるのとそうでないのでは天と地の差だろう。不定期に監査もあるので環境も整っている。


「本日、無事にこの入学式を迎えることができたのはひとえに学園関係者、家族、何より国民の皆様のご助力あってこそであり・・・」


 やはり大衆の前に立った時のリリア様はとても凛しい、とても同学年とは思えないほどに。彼女が壇上に上がるとこのホール内の空気が弛緩し、他の人たちの視線も上がったように思える。綺麗な肌、金色の髪に照明が反射している。制服である無地のシャツ、紺色のブレザーに濃い赤と赤銅色のチェックのリボン、リボンと同じ色と柄のスカートを着こなしている。


「以上です。ご清聴ありがとうございました。」


 丁寧にお辞儀をしてゆっくり席にもどってきた。


「ふー、これであとは学園長の話だけね。」

「とても凛々しかったです。綺麗でした、とても」

「あ、ありがとう」


「最後に学園長であるオリヴィアによる新入生に向けた挨拶です。」


 3年前即位したリリア様の姉であり第1王女であるアリス様は学園の伝統や校舎はそのままに運営を王国に属する機関からどの国からも独立している冒険者ギルドに移した。そうすることでより実践的な演習や忖度の排除などを実現した。冒険者ギルドは本拠地を持たず、どこの国にも属していないながら有望な若手や戦力の分布などの情報、資金力に関して匹敵する国はない。よって国に忖度なく若者を育むことができる。そして新体制となって初代の学園長が彼女というわけだ。


「若干17歳にして農民から資金も伝手もなく実力だけで最高ランクにのし上がった才人、5つある属性のうち4つもの属性の魔術を操り特性は3つ持ちという…」

「まさに神の子ですね。」


薄い青色ロングヘアが涼しげな印象を抱かせ鋭い紫色の瞳がこれまで潜り抜けてきた死線の数を訴えてきている。


「新入生の皆さん、こんにちは。私がこの学園の長を務めさせていただいてるオリヴィア・フォーサイスと申します。この学園では訓練場や色々な経験を持つ教師陣、豊富な書籍など皆さんが己を磨くための施設がそろっています。皆さんが助けを求めれば大人として答えにただりつけるように一所懸命にサポート致します。私がこの入学式という場で皆さんに伝えたいことは自分のための力は誰かのための力に劣るということです。昨今自分のために努力しなさい、自分のための選択をしなさいなどという風潮になっていますね。我が国は自分よりも他人を重んじる傾向がありそれが変わろうとしている。それはとても危険なことです。自分のための行動は自分の身を滅ぼします、そんなに人間は客観視できるようにはできていません。自分のための努力はつらいことにぶつかったとき必ずと言っていいほど諦めれるかハードルを下げてしまいます、人間は全員がそんなに強くできていません。私がなにを言いたいのかというとこの学園で自分より大切な何かを見つけてくださいということです。学園生活で遠征で大切な何かをぜひ見つけてください。そしてその大切な何かを想って日々過ごしてください。以上です。」


そういうと彼女は舞台の袖にはけていった。その途中こちらを見て怪訝な面持ちでこちらを見た気がした。


「以上で入学式を終わります。」


僕たちはホールから出ていきそのまま校門の前まで戻った。


「ようやく終わったわね。この後はどうする?よかったら一緒に散歩して帰らない?」

「いえ、僕は早めに帰ります。キーノが待っていますから。」

「あなたいつまであのメイドにべったりなわけ?まあいいわ、また明日ね。」

「ええ、また明日。」


そういうと僕らはそれぞれの帰路についたのであった。






「うまくしゃべれていたかしら」


どうにも彼と一緒にいると頭の回転が悪くなっちゃうのよね。


「にしても断られるってわかってても結構ダメージ来るわね。」


イツハがあのメイドに依存気味なのは知っていたからこの結果は予想していた。けれどまさかあんなにあっさりとだなんて。イツハとあのメイドとの間にはまだ私の知らない何かがある可能性があるわね。いつも首に何か巻いていることと関係しているのかしら。とにかく卒業までになんとか私という存在を彼の心に刻みこなないとね。


「あとこれ以上ライバルが増えないように学園では注意しないと」


この学園に入学した男の子は今年も数人のはず、しかも最上位クラスとなると一人の可能性が高いわね。まあ警戒すべきはクロエ先輩くらいかしらね。とりあずあのメイドをどうにかしないとね。


 

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