その15の2



「はい。それじゃあ戦いましょうか」



「ああ。指輪をよこせ」



「あっ……」



「どうした?」



「指輪を買うお金が無いんだった……」



「締まらない奴め……!


 俺の指輪をくれてやる。これを使え」



 アルベルトは顔をしかめながら、腕輪から指輪を出現させた。


 

 そして一組の指輪の片方を、カイムに投げ渡してきた。



「ありがとうございます。


 代金は、後で必ず支払いますから」



「いらん」



「良いんですか?」



「カネを返せなどと言って、


 それを口実にエスターラに戻ってこられては


 たまらないからな」



「そうですか。


 それなら、俺が勝った時は、


 きちんと代金を返済させていただきますね」



「好きにしろ」



 アルベルトが指輪を装着した。



 カイムも同様にした。



 二人は歩み寄ると、お互いの指輪のイシを合わせた。



 決闘用の障壁が、二人を囲みこんだ。



 二人は背を向け合って、10歩離れた。



 そして振り返り、視線を交錯させた。



 瞳に戦意を滾らせながら、アルベルトは剣を構えた。



「どこからでもかかってくると良い」



「それでは遠慮なく……」



 カイムは学生服の懐に手を入れた。



 彼は上着の下にホルスターを装着している。



 そこにはチームエピックの標準装備、魔弾銃とナイフが有った。



 冒険者たちが使う派手な武器と比べると、こじんまりとしている。



 携帯性と汎用性に優れた拳銃とナイフは、スパイ向けの装備だと言える。



 カイムは冒険者学校においても、手馴れたそれらの武装を身につけていた。



 カイムは二つの武器から魔弾銃を選び、懐から抜き出した。



 アルベルトはそれを意外そうに見た。



「魔弾銃? 特注品か?」



「量産品のはずですけど。


 まあハイエンドのモデルではありますよ」



「それで俺に勝つ気か?」



「はい。まあ」



「……舐められたものだ」



 冒険者学校のセオリーでは、魔弾銃は決闘向きの装備ではないらしい。



 そんな装備を使うカイムは、アルベルトを侮っている。



 アルベルトの方はそう感じたようだ。



 果たしてカイムはアルベルトを侮っているのか。



 実際に、侮っている。



 アマチュアの学生などに、プロの自分が負けることなどありえない。



 小細工を見破られたことは棚に上げて、驕った気持ちを抱いている。



 とはいえ、この武器を選んだのは、そんな気持ちが理由となっているわけではない。



 カイムはこの装備で様々な強敵を打破してきた。



 武装の選択という一点に関しては、カイムには一切の驕りは無かった。



「行きます」



 カイムはオーソドックスな構えで魔弾銃のトリガーを引いた。



 発砲。



 雷の魔弾がアルベルトへと向かった。



 その程度の射撃は、アルベルトにとって脅威では無かった。



 軽々と回避してみせると、彼はカイムにこう言った。



「無駄だ。


 そこらに転がっている魔弾銃では


 ハイレベルの冒険者を倒すことなどできん。


 常識のはずだが。


 そんなことも知られていないような田舎から出てきたのか?


 おまえは」



「たしかに。


 魔弾をハイレベルの冒険者に当てるのは


 難しいと言われています。


 ……ですが、これならどうですか?」



 カイムは銃の側面についている小さなレバーを動かした。



 そしてアルベルトに宣言するかのようにこう口にした。



「フルバースト」



 カイムは再び発砲した。



 先ほどのような単発の射撃では無い。



 銃のフルオート機構による連射だった。



(連射だと……?


 それくらいで当てられるなら苦労は無い……!)



 下手な鉄砲をどれだけ撃っても意味は無い。



 そんな確信と共に、アルベルトは回避行動に移った。



 すると。



「っ!?」



 アルベルトが移動した位置に、即座に魔弾が飛んできた。



 アルベルトが動くのを見てそこに撃った。



 そう言うには鋭すぎるタイミングで、魔弾はアルベルトを襲った。



 アルベルトは慌てて第二波を避けた。



 その先にも鋭い軌道の魔弾がどんどん飛んできた。



「ぐ……!?」



(避けた先に弾が飛んでくる……!?


 俺の動きを読んでいるのか……?)



(ああ。読めてるぜ)



(どうしてこんな事ができる……!?)



(年季の違いってやつさ。先輩)



「このおっ!」



 アルベルトは回避困難になった魔弾を剣で弾いた。



 だが、さらに魔弾が来た。



 防御も間に合わなくなり、魔弾がアルベルトを打った。



「ぐうっ!?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る