その16の1「アルベルトとユニークスキル」



 魔弾の衝撃が、アルベルトを転倒させた。



 倒れたアルベルトの指で、決闘の指輪にヒビが入った。



 だが、まだ砕け散ってはいない。



 決闘用のフィールドも、いまだにその存在を保ち続けていた。



「あれ……? やりきれなかったか……。


 魔弾一発くらいなら耐えるんだな。


 この指輪って」



 一発当てればたぶん勝ちだろう。



 そう考えていたカイムは、攻撃の手を休めていた。



 指輪が砕けた後に追撃を入れれば、相手を負傷させることになるからだ。



 これが殺し合いなら、そんなぬるいことはしなかった。



 だがこれは学生の遊びで、相手はこの国の王子様だ。



 カイムが手心を加えた結果、戦いの決着は見送られた。



「見事だ……」



 カイムを称賛しながら、アルベルトは立ち上がった。



「魔弾銃の連射など、


 いたずらに弾を撒き散らすだけ。


 その程度のものだと思っていた俺の方が


 田舎者だったというわけだ。


 卓越した技量が有れば、


 量産品の魔弾銃も立派な武器になるんだな。


 ……参ったな。


 俺の不見識のせいで、


 エスターラの品位が下がってしまう」



「気落ちするようなことでは無いですよ。


 俺より銃がうまい人は


 あんまり居ないと思いますからね」



 そう言って、カイムはとある男の姿を思い浮かべた。



 エピックセブンの恩師。



 エピックワンの名を与えられた、最高のエージェントの姿を。



「見えてきたな。おまえの正体が」



 手痛い一撃を受けたアルベルトは、カイムの正体に当たりをつけたようだった。



 これほどの戦闘技能を持つ者が、ただの詐欺師であるはずがない。



 十中八九、ハーストに所属するトップエージェントだろう。



(完全にバレたかな。


 マニュアル通りに動くなら、


 ここまで正体を勘付かれた時点で


 とっとと逃げるべきだ。


 もっと乱暴な手段を使えば


 王子様の口を封じることもできるが……。


 そこまでする価値が有る任務なのか? これは。


 俺がやらされていることが


 ただの懲罰任務だと考えると、


 そのために他国の王子を傷つけるなんて問題外だ。


 それと、約束を破るタイプでも無い気がするんだよな。


 この人は)



 乱暴な選択肢を、カイムは投げ捨てた。



 そしてこう確認を取った。



「黙っていてもらう約束ですよね?」



「……そうだな。


 おまえが手心を加えなければ、


 倒れた時に追撃を受けて


 俺は負けていただろう。


 だが何にせよ、


 ルールの上では、俺はまだ生き残っている。


 果たしておまえが何者なのか。


 何のためにこの学校に来たのか。


 エスターラのために、


 正体を見極めねばならん。


 全力で勝ちに行かせてもらうぞ」



「どうぞ。


 しとめ損なったのは俺の不手際ですからね。


 文句は言いませんよ」



「悪いな。


 ……『朱鳥演武』」



 アルベルトは『スキル名』を唱えた。



 するとアルベルトの体から、魔術的な炎が湧き上がった。



「スキル……!」



 この世界の人々は、生まれつき特殊な能力を持っていることがある。



 それがスキルと呼ばれる力だ。



 スキルの中には、発動にスキル名の詠唱が必要になるものがある。



 必要が無くとも、格好つけや仲間への合図、ルーティンなどの目的で唱える者もいるが。



 アルベルトがそのどれに属しているのかは、カイムにはわからない。



 何にせよ、アルベルトが唱えたスキル名を、カイムは耳にしたことが無かった。



 どうやらこれはカイムにとって、未知のスキルのようだ。



「これが俺の『ユニークスキル』だ」



 ユニークスキルとは、常人が持ち得ない希少なスキルのことだ。



 ユニークスキルの持ち主は、平凡なスキルの持ち主に比べて、大成する確率が高い。



 才人の証だと言えた。



「武術の技量では、


 俺はおまえに敗れた。


 かくなるうえは、全身全霊をもって


 勝ちを拾いにいかせてもらう」



 アルベルトから湧き上がる炎のエネルギーが、カイムを威圧した。



 軽く観察しただけでも、アルベルトのスキルが並のものでは無いということはわかった。



「思ってた以上のモノが出たな……!


 これが学生のレベルかよ……!?」



 カイムは魔弾銃のダイヤルを回転させた。



 そして魔弾を氷属性に切り替えて射撃を行った。



 アルベルトは向かってくる魔弾を避けなかった。



 氷の矢は、アルベルトの炎に触れると霧散してしまった。



「ノーダメージか……!?」



 カイムが驚きを見せた。



 アルベルトは今、炎の魔力を身にまとっている。



 魔力の相性では、水は炎に勝つ。



 その常識に従って、カイムは水属性である氷の魔弾を発射した。



 だがアルベルトの炎は、氷の魔弾を跡形もなくかき消してしまった。



 彼の炎の威力は、カイムの魔弾の倍では済まないということだ。



「いくら使い手が優れていても、


 しょせんは量産品だ。


 その魔弾銃では、


 俺のユニークスキルを貫くことはできない。


 悪いが決めさせてもらうぞ……!」


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