その15の1「王子と決闘」



「おまえのような姑息な男は


 ジュリエットの友人としてふさわしく無い。


 故郷にお帰り願おうか。転校生」



「ちょ、ちょっと待って下さいよ……!


 何の権利が有ってそんな……」



「権利なら有る」



「え……?」



「俺はアルベルト=ヴィルフ。


 ジュリエットの兄で、


 ここエスターラの第三王子だ。


 父上のように強権をふるえる立場でも無いが、


 おまえ一人をつまみ出すくらいならなんとでもなる」



「マジか……」



「状況は理解できたようだな。


 それではお帰り願おうか。


 ハースト人」



(退学……?


 俺の潜入任務はこれで終わり……?


 初日で……?


 大失態だ……。


 準備不足だったなんて言って、


 それを聞き入れてくれるような甘い人じゃない。


 長官は。


 完全に失望されて、それで終わりだ。


 もう二度と、三つ星には戻れない。


 っ……! 何か無いのか……!?


 この状況を覆す何か……!)



 ミスを挽回する手段を求め、カイムは頭を回転させた。



(そうだ……!)



「決闘……!」



 それは決して冴えた回答では無かったかもしれない。



 だがカイムは、なんとかしてとりあえずの答えを搾り出した。



「何……?」



 カイムの言葉が予想外だったのか。



 アルベルトは少し困惑したような様子で目を細めた。



「王子。俺と決闘してください。


 それで俺が勝ったら、


 今回の件は見逃してください。


 俺が負けたら


 おとなしく学校を出て行きますから」



 ここは冒険者学校だ。



 だったら冒険者式のやり方で、アルベルトを説き伏せられないものか。



 カイムはそう考えた。だが。



「苦し紛れに


 藁にでもすがりたくなったということか。


 だが、どうして俺が、


 わざわざ決闘などしてやる必要が有る?


 おまえの罪は明らかで、


 罰も決まっている。


 挽回の機会をやるつもりなど無い」



 対するアルベルトの返答は、もっともなものだった。



 しかしカイムの方としても、その通りですと納得するわけにはいかない。



 言葉を重ねて食い下がろうとした。



「お願いしますよ。


 高貴なる者の慈悲というやつを


 お恵みしていただけませんかね?」



「王族の慈愛というものは


 無辜の民に対してそそがれるものだ。


 異国の詐欺師にくれてやるようなものは


 持ち合わせていない」



「そこをなんとか……」



「くどいぞ。


 痛い目を見ないとわからないのか?」



 しつこいカイムの言動に、アルベルトは不快そうな表情を見せた。



 彼はオリハルコンリングから剣を出現させると、カイムに殺気を向けた。



「剣を取った……ということは


 決闘成立ってことで良いですかね?」



「そんなわけがあるか!」



 アルベルトはカイムへと斬りかかった。



 脅しだろうか。



 普通であれば、いきなり人を斬り捨てたりはしないだろう。



 だがこの王子様は、賊の命くらいどうなっても良いと思っているのかもしれない。



 王子の慈悲を信じられなかったカイムは、鋭く後ろへと下がった。



 紙一重の位置を、アルベルトの剣が通り過ぎていった。



 アルベルトから見れば、カイムは薄汚い詐欺師に過ぎない。



 そんな男に剣を避けられたことが意外だったのだろうか。



 アルベルトは目蓋を大きく上げてカイムを見た。



「おまえはいったい……」



「何ですか? 決闘してくれる気になりました?」



「……良いかもしれんな。それも」



 カイムを戦士として認めたのか。



 アルベルトは決闘への意思を見せた。



「やった」



 これで首の皮がつながったかもしれない。



 そう思ったカイムは小さくはしゃいだ。



「だが、条件が有る」



「何ですか?」



 喜ぶのはまだ早いか。



 そう思ったカイムは、少し表情を引き締めてアルベルトの言葉を待った。



「俺が勝てば、


 おまえの素性に関して洗いざらい話してもらう」



 なんだその程度のことか。



 カイムは安堵して、アルベルトにこう尋ねた。



「良いですけど。


 嘘を言うとは思わないんですか?」



「真実を話すと、


 おまえが信じる全てに誓ってもらう。


 それで偽りを述べるのなら、


 おまえはその程度の


 下らない男だということだ。


 もはや興味も無い。


 国に帰り、二度とエスターラの地に


 足を踏み入れるな」



「わかりました。


 俺が勝ったら


 俺に不都合になるような全ての事に関して


 口をつぐんでもらいます」



「了解した。


 母なるエスターラに誓おう。


 ただし、おまえが祖国に害を為す存在だとわかった時は、


 この誓いは問答無用で破棄させてもらう」


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