その14の2



 猫車は、やがて男子寮前へと到着した。



 カイムを含む男子生徒たちが、座席から立ち上がった。



「それじゃ」



 カイムはジュリエットに短く声をかけた。



「うん。また明日ね。ストレンジくん」



 男子の集団に混じり、カイムは猫車をおりた。



 そして足を冒険科男子寮の玄関へと向けた。



 そのとき。



「カイム=ストレンジ」



 誰かが後ろから声をかけてきた。



 芯の通った男の声だった。



 カイムは声の方へと振り返った。



 そこに赤髪の男子生徒が立っているのが見えた。



 ジュリエットと同じ髪色だな。



 カイムはなんとなくそう考えた。



 男子の首元に視線を向けると、そこには青いネクタイが見えた。



(このネクタイは……三年生か。


 先輩には礼儀正しくしろと


 参考にしたテキストにも書いてあったな)



「何でしょう? 先輩」



「話が有る。来い」



(ちょっと横柄な人だな。


 まあ先輩だから従っておくか。先輩だからな)



 テキストの教えを実践すべく、カイムは先輩の後ろについていった。



 赤髪の少年は、寮の近くの林の中へと入って行った。



 どうにも雲行きが怪しいな。



 カイムはそう思いつつ、平静を装ってこう尋ねた。



「それで話というのは?」



「しらばっくれるつもりか?」



「えっ……」



 赤髪の少年は、カイムを責めているように見えた。



 どうして自分が責められなくてはならないのか。



 無辜の学生である自分が。



 カイムには心当たりしかなかった。



(まさか俺がスパイだってバレた?


 俺の学生としての振る舞いが


 あまり上等じゃないかもしれないという事は


 自覚してはいたが……。


 まさか初日で正体を見破られるなんて……。


 朝の時点で妙に視線を集めてたもんな。


 ハァ。


 けど、いったいどれだ?


 俺のどういう部分がこいつに


 俺がスパイだっていう確信を与えたんだ?


 ……まだ挽回が効く状況かもしれない。


 こいつの言う通りに


 ちょっとしらばっくれてみるか……?


 ダメだったら……国境まで逃げるかなぁ?)



「そんな事を言われましても、


 いったい何のことなのか……」



「それでごまかせるつもりか?


 それとも……。


 同じような事を何度もやっているから


 どれの事だか区別がつかないということか?」



「ええと……?」



「まだとぼける気か。


 ジュリエットの指輪に細工をしただろう。


 俺の目をごまかせると思うなよ」



「ああ。そういう話ですか……」



(決闘で目立ちたくないからやったのに、


 逆に目をつけられることになるとはな。


 相手はしょせん学生。


 見抜かれることは無いだろうと思って甘く見てた。


 ……このクソたわけを三つ星エージェントとして雇用していた組織が有るって


 マジなのですか?)



「他にもたんまりと余罪が有りそうな口ぶりだな」



「いえ。滅相もありませんが……」



「ふてぶてしいな。


 ハーストの冒険者学校というのは


 ずいぶんと品性に欠ける所のようだな」



「いえいえ。


 俺以外はみんな良い子ばかりですよ」



(知らんけど)



 カイムはハーストの冒険者学校になど通ったことは無い。



 だが祖国(?)の名誉のため、一応はフォローを入れておくことにした。



「どうだか。


 ジュリエットの指輪に細工をしたという事は


 認めるわけだな」



「そうですね。


 まあ、そこまで確信を持たれてしまっては


 いまさら言い逃れもできないでしょうし。


 いやはや、お見事な慧眼です。


 それで……これからどうするつもりですか?」


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