その13の1「カイムとパーティ」


 一方、カイムたち。



(なんか外野が盛り上がってるな?)



 カイムが外野の様子を眺めていると、ジュリエットが声をかけてきた。



「キミはいったい……どんな技を使ったんだい……?」



 敗因がわからないのだろう。



 彼女の表情には苦悶にも似た動揺の色が見えた。



「いや。俺はおまえに攻撃はしてないぜ」



「だったらどうして……!?」



「ひょっとして、その指輪が


 不良品だったんじゃないのか?」



「不良品って、


 これは決闘に使うものだよ?


 万が一の事が無いように、


 品質管理はしっかりしてるはずだ」



「いくら注意してても、


 人が造ってるんだから、


 万が一ってことも有るだろ」



「そんな……」



「ルールは何でもアリで、


 指輪のイシが砕けた方が負け……だったよな?


 そっちからすれば不本意な決着だろうが、


 俺の勝ちってことで良いよな?」



「っ……! 仕切り直しを要求する!


 何でもアリって言うのは、


 戦い方の話であって、


 戦いすら始まっていないっていうのは


 話が違うだろう……!?」



 ジュリエットがこう言ってくることは、カイムには予想できていた。



 カイムが健全な青少年であれば、ジュリエットの言い分を呑んだだろう。



 だがカイムには、ジュリエットとまともに戦うつもりは無かった。



 言葉で言いくるめて終わりにする。



 そう決めていた。



「そうは言うがな。


 その決闘に使った指輪は


 そっちが用意した物だろう?


 俺はわざわざ16万メルクも出して


 そいつを買わされたわけだ。


 すぐに砕けるような指輪を。


 俺は指輪に違いは無いかと聞いたが、


 おまえは心配することは無いと答えた。


 その結果がコレだ。


 俺はもし、


 自分の指輪が同じように砕けてても


 負けは受け入れるつもりだった。


 指輪の二択に負けてたら、


 負けたのは俺の方だったワケだ。


 恥をかいて、32万メルクの借金も負う。


 そういうつもりだった。


 結果を見れば、運に助けられたワケだが。


 けど、そうか。


 そっちはそうやって言い訳をするんだな?


 王女サマ」



 あらかじめ言葉を用意していたのだろうか。



 カイムはすらすらと言い分を口にした。



「っ……。


 わかったよ……。


 この決闘は……私の負けだ……」



 カイムの堂々とした態度に、ジュリエットは反論する気をなくしたようだ。



 悔しそうに俯く彼女に、ターシャが歩み寄った。



「ジュリエットさま……」



「だいじょうぶだよ。ターシャ」



 ジュリエットはターシャに笑みを向け、こう続けた。



「べつに、一緒にお昼ごはんを食べるだけだからね。


 これが夜のディナーだったら


 ちょっと警戒しちゃうけど。


 だいじょうぶ……。


 けどまさか……こんな形で黒星が付くとは


 思って無かったけど……あはは……」



 ジュリエットは気の抜けた笑いを漏らした。



 少しかわいそうだな。



 カイムはそう思ったが、いまさら方針を変えるつもりも無かった。



 それで平然とこう言った。



「それじゃ、明日からよろしく頼むぜ」



「うん。わかったけど……。


 それはそれとして、


 結局キミは、ダンジョン実習のパーティは


 どうするんだい?」



 冒険者学校は、ダンジョンを攻略する冒険者を育成する学校だ。



 週に2回、実際にダンジョンに潜る実習が有る。



 さらに休日においても、生徒たちによる自主的なダンジョン攻略が行われている。



 ダンジョンには複数人で潜るのが基本だ。



 冒険者たちは連携のため、固定メンバーでパーティを組むことが常識となっている。



 だが転校生であるカイムは、まだパーティが決まってはいなかった。



 カイムは手招きをしてルイーズを呼んだ。



 そして彼女がすぐ近くまで来るとこう言った。



「ルイーズのパーティにでも


 入れてもらおうと思ってたんだけど……。


 まあ、ルイーズが嫌じゃなけりゃだけど」



「嫌だなんて、とんでもありません。


 ですが、よろしいのですか……?」



「何が?」



「私のパーティは、


 メンバーが私一人なのですけど……」



「うん……?」



「ですから、


 私以外のメンバーが存在しないのです」



「メンバーが一人って、


 それ、パーティじゃ無いじゃん」



「ひとりパーティです。パーティひとりです」



「左様か」



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