その12の2



 テイマーとは、ダンジョンの魔獣を使い魔にできる天職だ。



 強力な魔獣を使役できれば、大幅な戦闘能力の向上が期待できる。



 だが本人の戦闘力はそこそこで、直接戦闘には向かないと言われている。



「テイマー?


 ずいぶんと癖の有る天職だね。


 ……テイムした魔獣は?」



「ここに居るさ」



 カイムはそう言ったが、ジュリエットの瞳では、カイムの使い魔は確認できなかった。



 カイムは言葉を続けた。



「それで……得意距離だっけ?


 意識したことは無いな。


 こういう決闘自体、初めてなもんでな。


 良いからそろそろ始めないか?」



 相手が誰だろうが、どんな状況だろうが勝つ。



 それがプロとしてカイムに求められてきた絶対の条件だった。



 アマチュアの学生にハンデを貰うつもりは無かった。



「そうだね」



 ジュリエットは右手を前方へと向けた。



 すると彼女の手中に、長剣が出現した。



「剣を出した」



「オリハルコンリングの力さ」



 ジュリエットはそう言うと、自身の左手首を見せた。



 そこに赤い金属製の腕輪が見えた。



 希少ダンジョンメタル、オリハルコンは持ち主に応じてその色を変える。



 腕輪の赤は、ジュリエット自身の適性を表していた。



「この腕輪の中に、必要な装備を収納しておくことができる」



「なるほど。便利だな」



(オリハルコンなんて目立つもん、スパイには縁が無いが)



 物を自在に収納できるオリハルコンリングの機能は強力だ。



 冒険者の仕事だけではなく、暗殺や盗難などにも悪用できる。



 それゆえに、リングを探知する方法も多く発明され、実際に配備されている。



 そんなものを装備していれば、自分がカタギではないと白状しているようなものだ。



 一見スパイ向けのように見えるが、実は正反対の装備だと言えた。



 故にカイムは、オリハルコンリングの世話になったことは無い。



「まあね。


 さて、戦い方に要望が無いのなら、


 遠慮なく行かせてもらうよ」



 ジュリエットは剣を構えた。



 そして足元に魔法陣を展開すると、刀身に魔術の炎を燃え上がらせた。



「私の爆炎の力を見せてあげる!」



 炎の魔力と覇気を身につけ、ジュリエットは前に出た。



 だが。



(悪いがジュリエット……。おまえの負けだ)



「えっ……!?」



 ジュリエットは驚きの声を上げた。



 突然に、彼女の指輪のイシが砕け散ったからだ。



 指輪は魔導器としての機能を消失した。



 指輪が形作っていた決闘用のフィールドが消滅した。



 ギャラリーがざわめいた。



「何が起きたんだ?」



「見ろよ。ヴィルフさんの指輪が砕けてるぞ」



「ヴィルフさんの負け……ってコト!?」



「だけどどうして?


 転校生が何か技を撃ったようには


 見えなかったけどなぁ……」



「転校生がやったんじゃないなら


 いったい誰が……」



「まさか……」



 ギャラリーたちの視線が、なぜかルイーズへと向けられた。



「この決闘を終わらせたのは


 レオハルトさんじゃないのか?」



「えっ?」



 何を言っているのかと、ルイーズは疑問符を浮かべた。



「けど、レオハルトさんも


 何かをしたようには見えなかったぞ」



「普通なら無理だけど、


 あのレオハルトさんだぞ?」



「なるほど……!」



「うおおおおぉぉぉ!!!


 レオハルトさんは眼力だけで


 この戦いを決着させたんだぁぁぁ!!!」



「さすがはレオハルトさんだ。


 まさに氷の魔女……」



「一対一の決闘を


 証拠も残さずにブチ壊すなんて、


 レオハルトさんはルール無用だぜ……」



「ルールブックなんてレオハルトさんにとっては


 おケツを拭く紙にもなりゃしないって事なのか……!」



「違いますけど!?」



 ルイーズは否定したが、ギャラリーたちは聞こうともしない。



「まさかアレは……」



 クラスの自称情報通、ジョニーが口を開いた。



「知っているのかジョニー」



「レオハルトさんの52の関節技の一つ、


 万理裁定す叡智の波動-ジャッジメントオーラ-ではなかろうか……」



「そんな技が……!」



「無いですから!


 そのジャッジ、間違ってますからね!


 そもそもどこに関節技の要素が有るんですか!?」



 ルイーズは抗議した。だが。



「レオハルトさんは世界の関節を外す存在だからな……」



「意味が分からない!?」


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