その8の2



「ストレンジさん……」



 ルイーズの瞳が揺れた。



 カイムの外面は堂々としていたが、内面はやはり悩みにまみれていた。



(いや実際は1ミリもよくないけどな。


 俺はスパイだぞ?


 スパイが目立ってどうするんだ?


 けどまあ、こんな下手を打つようなヤツが


 スパイだなんて思われないかもな。


 ……はぁ)



 カイムはルイーズと一緒に教室を出た。



 そして廊下を歩き、食堂へと入った。



「広いな……」



 食堂の広さを見て、カイムは軽い驚きを見せた。



 広々とした食堂には、500を超える座席が並べられていた。



 席の2割ほどは既に埋まっていた。



「この学校は生徒が多いですからね。どこに座りましょうか?」



「さて。俺は初めてだしな。


 良い席を選んでくれよ。


 頼んだぜ。経験者」



「そう言われましても……。


 私はいつもは目立たないように、


 すみっこの席を選んでいるのですが」



「美人は大変だな。


 メシ食ってるだけで目立つんだから」



 お世辞のような言葉が、カイムの口から自然に漏れた。



「また……」



 ルイーズは居心地の悪そうな表情を浮かべた。



「ん?」



「いえ。お気に入りのすみっこの席に


 ご案内します」



 ルイーズに従って、カイムは隅の席へと移動した。



 そして腰を下ろすとルイーズにこう尋ねた。



「どうやって注文するんだ?」



「普通のレストランのように、


 給仕さんに注文をすれば良いんですよ」



「そうか。それじゃあ……」



 カイムは席から立ち上がった。



「どちらへ?」



「給仕に声をかけようと思って」



「特別な用事が有るとき以外は


 テーブルで待つのがマナーですよ」



(学食ってそういうもんなのか?)



「けどここって、


 普通のレストランより広いよな?


 気付いてもらえないなんてことは……」



「だいじょうぶです。


 これを……」



 ルイーズはテーブル中央に手を伸ばした。



 そこにドーム型の金属製の物体が有った。



 ドームのてっぺんには、銀色の魔石がはまっているのが見えた。



 どうやら魔導器のようだ。



 ルイーズの人差し指が、魔導器の魔石に触れた。



 そしてそのまま、魔石を下へと押し込んだ。



 ポチリと押しこまれた魔石は、淡い輝きをはなった。



 すると魔導器の上に浮かぶように、美しい光の模様が出現した。



「これが注文待ちの合図です。


 こうしておけば


 すみっこにひっそりと座っていても


 給仕さんが注文を取りにきてくださるというわけです」



「へぇ」



 そのとき、二人の近くのテーブルに、男子の二人組みが着席した。



 椅子に体重を預けるなり、男子の片方が口を開いた。



「聞いたか? あの『王子さま』がフラれたって」



「え? マジかよ? あの難攻不落の?」



「ああ。あの王子さまだ」



「相手は誰だよ?


 まさか女の子じゃないだろうな?


 ハァハァ……」



 男子の片割れが、なぜか興奮した様子を見せた。



「いや。普通に男子だが。


 今日A組に来た転校生だ」



 相手の男子がそう言うと、興奮していた男子はつまらなさそうにこう言った。



「そこいらの男子なんて


 興味ありませんなんて顔しといて、


 今さらかよ」



「その転校生ってのが


 すげぇイケメンらしいんだよ」



「結局は顔かよ。


 王子さまだなんて言われても、


 その辺に居る女子の一人に過ぎなかったってわけだ」



「なんかショックだよなー。


 べつに俺にチャンスが有ったってワケでも無いけどさぁ」



「そのツラじゃな」



「おいィ!?」


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