もう知ってる

「お、おはよぅ」


 隣の席の子は、息を吸った後にそう言った。

 困った様に上げられた口角と、少し顰められた眉。

 裏返りかけた声を、言い直して戻していた。



 彼女は、ずいぶん後に言ったのだ。


『あの時ね、すごく緊張してて。青春みたいな、甘酸っぱいような気持ちだったんだよ』


 なんて可愛らしいんだろう、そう思った。


『色をつけるとしたらピンクやレモン色?でも、自分には似合わないだろうなって色だね』


 はにかんだ様に笑う彼女と友達になれて、嬉しいのは私の方だ。


 あの時、私はあなたのことを何も知らなかった。


 自分に自信がなさげですぐに下がる眉も。

 本を読むと夢中になってしまう性格も。

 部活で引退するまでの苦労と名残惜しさも。

 せっせとスタンプを貯めているパン屋も。


 でも、もう知ってる。


 知れるほど、わたしたちは一緒にいたのだ。


 それが、たまらなく嬉しい。


「ねえ、あのさ」

「ん?」


 明日は、来週は、来年の今頃は。



「次の授業、おくれるよ!」



 これからも楽しみだね!




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まだ知らない君へ こたこゆ @KoTaKoYu

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