第9話 運営の思惑なんてユーザーが知るわけないっしょ!



 夢を、夢を。きっと夢を見ていた。

 ちりちり。じりじり。


 耳につく。

 あぁ、こういうのをホワイトノイズって言うんだっけ。


【Now Loding……】


 懐かしいねぇ。昔はよく待たされていたっけ。

 ことば、言葉、WORDことばの羅列。


 あぁ、知ってるよ。こういうのプログラムって言うんだ。一見、無意味な。でも一つ一つ、言葉に意味がある。ちょっとでも、組み合わせを間違えれば動作をしないんだから、ゲームを作るエンジニアはすごい、って単純に思う。


 ことば、言葉、WORDことばの羅列。

 流れていく。


 意味があるのか。

 ないのか。


 きっと、意味はある。

 スペード

 クローバー

 ハート

 ダイヤ。


 まるで、トランプの絵札。


 文字の羅列が流れて消えて、流れて消える。消えて流れる、その繰り返しなのに。

 どうしてか、そう見えた。

 これは夢、夢を。

 私は、きっと夢を見ている――。






■■■






♠:これは、どういうことだ?



❤︎:知らないわ! こっちが聞きたいくらいよ!



♦:落ち着いて。セーフモードは起動させましたから。現状、運営は問題ないはずです。



♣︎;第13章が完結できていてよかったよね。このバグじゃ、新たなシナリオを挟むのも怖いし。



♦︎:サブシナリオは、サーバーを別にしていて良かったですね。メインシナリオを同じサーバーなら、目も当てられないところでしたから。フレンド機能も活きています。当面はユーザーの目をコラボイベントに引き付けましょう。



❤︎:そんな悠長なことを言っている場合? だいたい、序章チュートリアルで【はじまりの村】が消えないなんて、そもそもあり得ないでしょ! 天球儀の隠れ里って設定だって、あれはライターの裏設定でしかないし! そんなプログラム、どこにも――。



♠︎:ふむ、一理あるな。プログラマーが、内密に入れ込んだにしては規模が大きい。その意図も掴めない。だが……。このバグの長期化も想定しておくべきか。



♣︎:コラボシナリオ、サブシナリオ、限定ユニットを連続で放出してみる? 次期シナリオまでの準備中って演出はできるかもよ?



♦︎:サーバートラブルも想定して、魔晶石の配布も検討しておきましょうか? いちいち承認をとってからでは、遅い可能性もありますよね?



♠︎:実験室ラボの連中は何も言わないだろうが、スポンサーは微妙かもな。まぁ、先手を打っておく必要はあるか。



❤︎:そんなことより、アイツはいったいなんなの? 不正アカウントじゃ無いの?



♦︎:AIの判定でも、違法プログラムは見受けられませんね。念のため、ユーザー検索をしておきましょうか。



♦︎:ID@saria_natuki



♣︎:データの引き継ぎを行っているけれど、違法性はないね。プログラムの改編もなし、と。念のため、バックアップデータは削除しているから、これ以上変なことはできないでしょ。



❤︎:ぬるくない?



♠︎:だったら、デバッグ権限から一段階引き上げようか。ただ、今はリソースが少しでも欲しい。システムに不具合が出た際は、すぐに呼び戻す。そのつもりでいろ。



❤︎:それで良いわ。



♦︎:それじゃ次ですね。今度は、違法ユーザーについてです。ようやくAIが検出しました。添付したデーターをご確認ください――。






■■■






 夢を、夢を。きっと夢を見ていた。

 ホワイトノイズ。


 今は、誰も彼も何を言っているのか理解できない。

 ただ、あの人が好きだったものを追いかける。


 なくしてから、初めて気付くことがあると知る。


 ワタシは、バカだ。

 本当にバカだった。


 これは夢、夢だ。

 夢なのに。


 どんなに望んでも、あの人の夢だけは見られない。


 あの人の表情すら思い出せなくなくて。

 私は、きっと夢を見ている――。




「お姉ちゃん……」


 この呟きすら、ホワイトノイズ。

 砂嵐に溶けて。

 延々と、夢を。

 そんな夢ばかり見ていた。

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