第7話 『ナイルたん初ダンジョン攻略だ!』

「眷属召喚! サーベルキャット!」


「大木両断!」


 ゴブリンとの戦闘が始まっていた。 サナさんが何らかの魔法を使い、自分の足元に浮かばせた魔法陣から大きめの猫を召喚した。


 全身黄褐色の毛並みに黒い斑点がちらついていて、手足が長く大きさは後ろ足で立ったらサラーマさん並みに大きい。


 対してサラーマさんは巨大な斧をフルスイングしてゴブリンジェネラルを吹き飛ばしている。 あれは斧で切るというよりも叩き潰すって感じだ。


 二人はゴブリンジェネラルを一体ずつ相手取っており、闘い慣れしているような鮮やかな手並みで立ち回っている。


 そんなことよりも、俺は二人の戦いぶりを見て真っ先に思ったことがある。


「二人がさっき叫んでたのって必殺技? 何あれカッケー!」

 

 『正確に言えば闘技スキル』

 『どっちもレベル3で覚える初期スキルじゃん』

 『眷属召喚はレベルアップで化けるど』

 

 コメント欄をチラ見しながらふむふむとひとり頷く。


「ナイル! ぼさっと突っ立てんじゃねえ! 囲まれちまってるじゃねえか!」


「ナイルくん! 足引っ張るなって言ったじゃにゃいか!」


 声をかけられてハッとする。 いつの間にか囲まれてしまっていた。 だがしかし、今はそれどころではない。


「ソルジャーの必殺技は何ですかね? ジャンプ?」

 

 『他ゲームの技名持ち出すなw』

 『確かクイックスラッシュ』

 『月牙○衝』

 

「ジャンプだけにね……って! 誰だ嘘ついてるやつw」


 悪意のあるコメントに小言を挟んでいたら、ゴブリンたちは一斉に飛びかかってきた。 素晴らしい連携だ、取り囲んだのなら同時に攻撃を仕掛ければ対応が困難になる。


 集団戦の理を存分に発揮した、当たり前だがなかなかできない連携攻撃。 取り囲まれて逃げ場がない状況ではかわすことは難しいだろう。 だがそれは——


「シャアァァァァァ!」


 ——普通のプレイヤーならって話。

 

 『あれは伝説の!』

 『回転斬りだw』

 『お前ら騙されるな、あれはただ回転しながら切ってるだけだ』

 

 全方位から襲い掛かるゴブリンを一気に叩き切る単純だが効率的な斬撃。 俺は軸足回転しながら襲い掛かるゴブリン五体を真っ二つに切り伏せた。


 一瞬の出来事だったがその様子を視界の端に捉えていたサナさんとサラーマさんは、大口を開けている。


 これは、ずっと言いたかったあのセリフが言えるのかも知れない。


「あれ? もしかして、威力低すぎました?」

 

 『こいつ言いやがったw』

 『無自覚俺強え主人公がいいそうなセリフ第一位』

 『それ誰情報?』

 

「あ、いや……お前もしかして! さっきは手を抜いてやがったのか?」


「ちょっとサラーマさん! よそ見しちゃダメにゃ!」


 俺が素っ頓狂な声で二人に声をかけたのだが、そのせいでよそ見していたサラーマさんをゴブリンジェネラルの棍棒が襲っていた。 俺は咄嗟に地面を蹴り、すぐさまゴブリンジェネラルに肉薄。


 どうやら同接数のボーナスで敏捷が上がっているため素早く動けるらしい。


黒湖御剣流くろこみつるぎりゅう鰐翔閃がくしょうせん!」


 懐に潜り込んだ俺は勢いを殺さず飛び上がりながら剣を振り上げる。 するとゴブリンジェネラルは真っ二つになり、仰向けに倒れてしまった。


 一瞬の出来事だったため理解が追いつかなかったのか、サラーマさんは突然目の前に現れた俺を見ながら絶句している。

 

 『ナイルたん超ノリノリやん』

 『さてはこいつ、技名ずっと考えてやがったな』

 『あっぱれでござるよ』

 

 華麗に着地した俺は、剣についた真っ青な血を払い、背中にある鞘ではなく何もない腰に剣を収める(ふりをする)。


「どうしたでござるかサラーマ殿。 まさか俺、またなんかやっちゃいましたか?」

 

 『いい加減黙れw』

 『この背負い投げ太郎がw』

 『急にイキりだしたw』

 

 すかした顔でサラーマさんに手を差し伸べる俺。 するとサラーマさん、ゴクリと喉を鳴らしてから口を開く。


「……おいナイル、鞘がついてんのは背中だぞ?」


 そこはツッコまんでええ。

 

 

 △

 いつの間にかサナさんが召喚したサーベルキャットが、もう一体いたゴブリンジェネラルの首を噛みちぎっていたらしい。


 サナさんの職業はレンジャー。 武器は弓で主に動物を召喚して戦ったり地形を利用した罠を作ったりする職業らしい。


 対してサラーマさんの職業はウォーリアー。 一撃の攻撃力とHPが高く、耐久力にも優れるが敏捷と魔力がかなり低い。


 二人の職業をコメント欄で教えてもらい、ひとり納得しながら頷いた。 ゴブリンたちは瞬く間に討伐したため、俺たちはここら辺にあるというダンジョンを探索し始めたのだ。


 後ろを歩いているサラーマさんは未だ俺に戸惑いの視線を向けており、


「なあナイル。 お前って一体何者なんだ?」


「俺はしがないソルジャーです」


「あーいや、そういうことを聞いてるんじゃなくて」


「ナイルくん今レベルなんなのかにゃ?」


 言い淀むサラーマさんを押し退けて今度はサナさんが質問をかけてくる。 俺はポケットに入れていたスマートフォンを操作して、自分のステータスを確認した。


「さっきの戦いでレベル四になりました。 おお、早速スキルが増えている!」

 

 黒湖ナイル

 職業:ソルジャー ・Lv.4

 体力:57

 魔力:16(+43)

 攻撃力:18(+43)

 防御力:16(+43)

 素早さ:15(+43)

 幸運:17(+43)

 

 戦闘スキル

 ・初級剣術

 ・クイックスラッシュ

 

 固有スキル

 ・信者の助言

 ・信者の声援

 

 どうやらレベルアップに応じてスキルが増え、ステータスは職業によって上昇率が変わるらしい。 レベルが上がれば最低でも全ステータス+1は増える計算と予想していいだろう。


 ソルジャーは全てのステータスが満遍なく上がるらしい、そのためこのようにバランスの良いステータスになっている。 なるほどこの職業が初心者にオヌヌメオススメというのは納得だ。


「あの身のこなしでレベル四? てっきりもうレベル二十とかそこらなのかと思ったにゃ」


「なんであんなに強えのに、さっきはゴブリンにボコボコにされてたんだよ」


「だから、色々諸事情があって対応が遅れたんですってば、さっきもそう言ったでしょ?」


 俺の動きを見てからというもの、後ろの二人は先ほどまでと対応がまるで違くなっている。 これぞ俺強え無双の醍醐味だな、なーんて思いながら鼻歌まじりに樹海の中を歩いていくと、コメント欄が目的地の近くに来たことを知らせてくれる。

 

 『そのまま右に曲がってー、しばらく歩いたら大木の根元を調べる』

 『その後は、上上下下』

 『みぎひだりビーエー』

 

「真面目に道案内してくれませんかね?」


 視聴者たちは八割がふざけたコメントを投稿しており、正しい情報を見つけ出すのが非常に難しい。 この流れももはや慣れてきたのだが……


 一人で視聴者たちとガヤガヤ喧嘩を続けながら歩くこと数分。


「お、ここですか?」


「本当にこんなところに遺跡があったのかよ」


「この感じだと地下に繋がってそうだにゃ」


 苔や大木の根っこに隠れていて角度によってはよく見えづらいのだが、年季の入ったダンジョンの入り口を発見した。

 

 『本来ならサラーマさんが見つけるんだけどねー』

 『中に真っ黒な節足動物がわんさかいそうじゃないか?』

 『やめろ想像しちまうだろう』

 

「本当ですよ、変な想像させないでください」


 突然口を開いた俺に対し、サラーマさんとサナさんが同時に視線を向けてきたのだが、「すいませんこっちの話です」と謝罪を入れて誤魔化す。


 サラーマさんは入り口周辺の地形を確認し、サナさんは眷属召喚を使って召喚したサーベルキャットに中を探らせる。 なんて便利なんだレンジャーという職業は。


「ざっと見た感じ中に入った瞬間倒壊したりはしなさそうだな」


「入口周辺しか探れてないけど、中にいるのはゴブリンとかキラーラビットとかの初級モンスターがほとんどだにゃ! けどなんだかにゃあ、人間の匂いもしたらしいにゃ」


 「人間の匂い? まあモンスターはそんなに危険じゃなさそうだし大丈夫じゃねえか?」


 二人が念入りに遺跡の調査をしている間、手持ち無沙汰だった俺は視聴者たちから職業について色々聞いていた。 二人はすでに俺の独り言に慣れているおかげか特に言及はしてこない。


 改めて準備が整ったようで、二人は武器を構えながら木の根っこに腰掛けていた俺に視線を送ってくる。


「どうするナイル。 この遺跡を見つけたのはお前だ、このまま三人で攻略するか、アジトに戻って上の連中に報告するか、お前が決めろ!」


「サナ的にはせっかく見つけた手柄、サナたち三人で独占したいんだにゃ!」


 二人は遺跡発見者である俺の意見を尊重してくれるようだ。 俺は迷わず立ち上がって臀部についた汚れを払う。


「無論、手柄は俺たちで独占するしかないっすよ!」


 俺の自信に満ちた声を聞き、ニヤリと口角を上げる二人。

 

 『ナイルたん初ダンジョン攻略だ!』

 『さっきの戦闘を見る限り、このダンジョンのレベルだとあくびが出そうだがw』

 『もうそこほっといて高難易度行こうぜ?』

 

 視聴者たちも初めてのダンジョン攻略に期待を寄せてくれている。 ような気がする。


「よし、それじゃあ突入するぞ二人とも、前衛は俺が引き受けるから中衛はナイルに頼む、サナは後衛でシンガリと周囲の警戒だ!」


 俺たちはサラーマさんの指示に元気よく答え、三人縦一列に並んで遺跡内部に侵入していった。

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