第6話 『今こそ俺強え無双をする時が来たぞ!』
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「で、オマエのその固有スキルとやらでダンジョンの場所がわかると?」
「はいそうです」
「その代わりにジョブチェンジしたいから手伝って欲しいとにゃ?」
「是非ともお願いいたします」
あの後俺はサラーマさんとサナさんに質問攻めをされたため、視聴者の皆さんの提案を受けて取引を持ちかけた。
何でも、心眼スキルは目隠ししてても感覚で何がどこにあるのかがわかるスキルで、主に暗闇の中や、暗闇状態を付与してくる敵と戦う際に重宝されるらしい。
心眼スキルがあれば目隠ししててもお風呂に入れるしトイレにも入れる。 つまり視聴者の皆さんに見られたくないものを隠せるというわけだ。
「別にナイルくんのその話が本当なら別にいいんだけどにゃー。 なんでモンクにジョブチェンジしたいのかにゃ?」
「新入りだったらソルジャーかレンジャーで無難だと思うけどな」
「えーっと、そのですねー。 モンクはこう、何と言いますか……」
何も言い訳が思い浮かばなかった。 そもそもモンクはコメントを見る限り打撃性能に優れるアタッカーらしいのだが、メリットというメリットが特に浮かばないのである。 強いていうのなら心眼スキル習得が一番早いらしい。
『モンクは状態異常に強い耐性があるど』
『おいおい、モンクになりたいっていう俺に、文句でもあんのか? とでも言っとけ』
『さむw』
『打撃はダメージ効率は微妙だけど、その分どのモンスターにも通用しやすいからね』
『自バフもできるから単騎でも戦えるぞ』
『混合拳気を習得したいんですとでも言っとけw』
「モンクはその、状態異常にも耐性ありますし、打撃なら相手を選びませんからね! 自分で自分をバフできるから一人でも戦えますし!」
「まあ確かに、モンクと言ったら一匹狼ってイメージがあるからな」
「ナイルくんは一人で旅したいのかにゃ?」
視聴者たちの助言のおかげで何とか納得してもらえた。 一部ふざけてコメントしている人たちもいたがまあいいとしよう。
しばらく腕を組み合わせて唸っていた二人だが、サラーマさんがリュックの中から丸まった紙切れを出してきた。
あれは何となくだが紙質と状況からどう言ったものなのかを察することができる。
この世界の地図だ!
「ちなみによ、シリス様の体があるっていうダンジョン、試しに一箇所だけ教えてくれねえか? それが本当だったら協力してやる」
サラーマさんが細目を向けながら地図を俺の目の前に広げてきた。 俺はチラリとコメント欄に視線を向ける。
『チュートリアルのダンジョンに戻ろう』
『サンドリア神殿だ!』
『そこ高難易度w』
「えーっとですね、先ほど探索していた樹海に一つあります」
「マジなのかにゃ?」
「マジです」
サナさんとサラーマさんが同時にじっと見つめてくるため、俺は喉を鳴らしながら姿勢を正す。
しばらくの沈黙を挟むと、サラーマさんは盛大な吐息を漏らしながら肩をすくめた。
「ま、ダメ元で行ってみるのも悪くねえな」
「もしナイルくんの言っていることが本当なら、サナたちはとっても活躍できるのかもしれないにゃ!」
「だな、じゃあ早速場所を教えてくれナイル!」
立ち上がりながら荷物の整理を始めたサラーマさんたちを横目に、俺はそっと胸を撫で下ろしながら立ち上がった。
△
先ほどの樹海に戻る途中、俺はサラーマさんから貸してもらった地図を見ながら視聴者たちとダンジョンの位置を照らし合わせていた。
後ろをついてきているサラーマさんとサナさんにはスキルを使ってシリスの体がある部分を聞き出していると説明しているため、遠慮なく視聴者たちとガヤガヤ喋っている。
「ってことは俺がさっきゴブリンにおっ飛ばされたのがここら辺ですか?」
『そこはさっきの拠点だよ』
『おっ飛ばされたって初めて聞いたw』
『は、新参者め! ナイルたんはしょっちゅう言ってるぞ』
「ここがさっきの拠点ってことは、この辺っすかね?」
『こいつもしかしなくても方向音痴か』
『逆です』
『まずは地図を正しい方向で持とうか?』
「もっとわかりやすく教えてくださいよー!」
などとやりとりをしていたのだが、ふとした拍子に背後を歩いていたサナさんたちの小言が耳に入る。
「ねえねえサラーマさん。 ナイルくんマジで誰と話してるのかにゃ?」
「俺に聞かれても知らねえよ。 あいつよくわかんない言語を用いたりするからよ」
「もしかしてこの国の人じゃないんですかにゃ?」
完全に怪しまれている。 とは言ったものの地図を見るのはほんの少しだけ苦手な俺は、視聴者たちが投稿してくれるコメント欄からうまくダンジョンの位置を探さなくてはならないため必死なのだ。
地図と睨めっこしていたら前方に先ほどの樹海が見えてきた。 外から見るとやはり
「とりあえずさっきゴブリンと戦ったところに向かわないとわかんないなー」
「ああ、さっきオマエがボコボコにされてたところか? それなら俺が案内してやるぞ?」
「え? ナイルくんゴブリンにも勝てないのかにゃ?」
「うるさいですよ。 あん時はちょっと突然の出来事で対応ができなかっただけですから」
ありがたいことにサラーマさんが先ほどゴブリンと遭遇した地点に案内してくれるということなので、その間に視聴者たちがわかりやすく道案内する方法を模索してくれることを祈る。
サラーマさんの後を追って数分歩いていくと、先ほどゴブリンがたむろしていた場所にたどり着いた。
今頃気がついたのだがそこの場所だけ床が石床になっていて、何かの建物があったのではないかと想像できる。 ここ以外は普通に木の根やら苔やら葉っぱやら泥が敷き詰められた足場のため、非常に歩きずらかった。 そして湿気も強くて臭かった。
「おいおい、これは予想外だな」
サラーマさんは顔を引き攣らせながら木陰に隠れたため、俺とサナさんもその後ろにくっつく。
すると先ほどサラーマさんが葬ったゴブリンの近くで少し大きめのゴブリンが二体、小さいゴブリンが五体徘徊していた。
「ゴブリンジェネラルが二体に、普通のゴブリンが五体か」
「サナが片方相手しようか?」
「つってもな、ナイルはゴブリン相手にも遅れをとるやつだ、一人にさせるのはちょっと……」
気まずそうな顔で俺をチラ見してくるサラーマさん。 何だその失礼な視線は。
『悲報、ナイルたん足手まとい扱いw』
『おいおいナイルたん、君の実力を見せてみろ!』
『今こそ俺強え無双をする時が来たぞ!』
視聴者たちがめちゃくちゃ煽ってくる。 まあ、少々自信はないけど、小さいゴブリンくらいなら何とか倒せるだろう。
「お二人とも、ご安心ください。 俺なら一人でも戦えますよ!」
「まあ、オマエがそう言ってくれるなら信じてやらんでもないが、やばくなったら逃げるんだぞ」
「足引っ張るんじゃにゃいよナイルくん!」
散々な言われようで少々文句を言ってやりたいところだが、さっきの失態があるから何も言い返せない。
「よっしゃ気を取り直して初陣だ! 痛いのは嫌だからノーダメージでクリア目指しますよー!」
『防御力極振りにするんじゃないの?』
『そういうところだよナイルくん』
『頑張れナイルたん!』
視聴者たちに茶々を入れられながらも、俺は装備していた傭兵の片手剣を握りしめてゴブリンたちに立ち向かっていった。
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