心酔
5年生になり、玲とクラスが別れた。
僕たちはお互いに別の友達ができ、4年生の時のように頻繁に遊ぶことは無くなった。
それでも、親同士が仲が良いので、よく電話をしたり、親に呼ばれて行き来したりはしていたが、会う頻度はどんどん下がっていった。
そして、子どもたちの仲の良さと反比例するかのように、僕の母と玲のママはより一層親しくなっていった。
中学に入ってからは、クラスも多くなり、学校で玲と会うこともなくなっていた。
そんなある日、小4の時の担任が退職するから、2人でお祝いを持っていきなさい、と双方の親に説得され、久々に2人で会った。
当時反抗期に入りかけていた僕は、今更また母達の監視下におかれる玲との交流など望んでいなかった。玲も同じだっただろう。
先生の家から出て、先に切り出したのは玲だった。
「僕、携帯買ってもらったんだ。葵は持ってる?」
得意げに玲は語る。
当時、携帯を持っている子どもなど学年で数えるほど少なかった。
「持ってないよ。」
「へぇ、そうなんだ!じゃあ、もう葵とは連絡できないね。残念だ。」
玲は嬉しそうに笑った。
毎日毎日、家の電話で電話していたのにね。
僕は冷静に答えた。
「うん、そうだね。」
そのあと、僕たちは一言も喋ることなく家に帰った。これが、僕と玲が交わした最後のセリフであった。
お互いに、これでよかったんだろう。
今はそう思う。
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あれからずいぶんと時が経った。
白髪混じりの母は、相変わらず玲のママと頻繁に会っている。
「玲のママは本当に人間ができた、素晴らしい人だ。」
「あの人はどんな病気にも打ち勝つ、奇跡の人だ。」
「人生でこんなに尊敬できる友達はいない。」
僕は時々冗談混じりでほのめかす。
「僕は、玲のママにトラウマを植え付けられたんだけどねぇ。」
母の返事はない。
「あぁ、昔、玲の家の隣に住んでた玲のママの彼氏さん」
—母は全力で否定する。
「普通は、そういう風に見えるかもしれないけど、あの人は絶対にそんな女じゃない!芯があって、自立している。本当に、仕事の付き合いだったのよ。」
あぁ、滑稽だ。
僕はずっと思っている。
もし万が一、玲のママがなにかの宗教でも始めてしまったら、母さんは完全に洗脳され、心酔して、僕のことなど忘れてのめり込んでしまうだろう。
そのくらい、玲のママにはカリスマ性があったし、母さんは玲のママに惚れ込んでいた。
僕の家には、いまだ、玲のママからのたくさんの贈り物と、知らない間に結婚していた玲の、幸せそうな披露宴の写真が飾られている。
了
共依存Ⅰ タカナシ トーヤ @takanashi108
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