【11/07】バスでの旅
アパートを出てすこしばかり街道を歩く。
このオルレイ市は中世の建物がいまだに残っている古臭い都市だ。
しかしそれだけのことはあり、この連合国に四つある主要都市の中で一番大きい。
錬金術師たちも大勢住んでおり、師匠を筆頭とした三賢人は全員この近隣を拠点としている。
そんな街並みを歩いていると、バスが走ってきた。
ここから三賢人”穏健派”コルゴー・レオブジンの邸宅には少しばかり遠い。
乗せてもらうとしよう。
「バスに乗るなんて何年ぶりかな」
窓から流れていく景色を見ながらそう呟くエリィ。
師匠が出不精だったのもあるが、師匠の家は駅に近かった。
たしかにバスに乗る必要などなかっただろう。
「レオブジン氏とはどういう関係だったんだ?」
「別に。ただの協力者さ。よく研究のレポートを送り合っていた……と記憶しているけどね」
「その手紙が師匠の家からはすっかり見つからなかったんだよ」
「さてね。不都合なことでもあったんじゃないかな。残念ながら僕も詳細は覚えていないよ」
そううそぶくエリィは自分のことのはずなのに、どこか興味なさげだった。そろそろ俺は彼女が本当に師匠の記憶を完全に受け継いでいるのか怪しんでいる。
いや……既に実際、歯抜けがあることは言及していたが……。
要は師匠の”転生”は完璧ではなかったのだ。
つまり記憶の歯抜けがあったり、元の人格が残っているはず。
こいつが俺のアパートに来てから既に数日が経過している。
バーに行った日が初日。
それから職場で掲示板に書き込んだのが二日目。
こっそりとこいつに隠れて弟子に関して調べたので数日。
そして今日だ。
掲示板の内容はエリィには見せていない。
理由としては身元のハッキリしている錬金術師以外見られないように、"縛り"と"免許証挿入"の二重のプロテクトがかかっているからだ。
エリィに法的なことは関係ないが、"縛り"の方はやや危険だ。
ああいうのは霊力を利用した呪いのようなものになっているからな。
危うい橋をわざわざ渡る必要はない。
というわけで俺だけが内容を把握しているわけだが……。
正直、助かる。おかげでこいつに隠れて調査を進められる。
師匠の転生が完璧でないのなら、こいつは一体誰なのか。
目的はなんなのか。師匠の件にどう関わっているのか。
それを調べることがこの事件の解決に近づく方法だと思っている。
その内容をエリィに知られてちゃ、解決は遠のくばかりだからな。
「おや、我が弟子。どうやら着いたようだよ」
……などと物思いに耽っていると、バスが目的地についた。
ミミクリー丘前。この丘を登っていけばようやくレオブジン氏に会えるのだ。はたしてどのような情報が得られるかな。
三十分ほど丘を登ったところで豪勢な邸宅を見つけることが出来た。
十三世紀頃に建てられたその洋館は国家遺産に登録されているとかなんとか。漆喰が塗られたその豪邸はなるほど、たしかに登録されるだけのことはあるなという大きさだ。
塀の外からでもそれがわかる。
「相変わらずふざけた豪邸だねぇ。我が弟子、チャイムを鳴らしたまえ」
「……おまえが鳴らせばいいんじゃないか?」
「ガキが鳴らしたところでイタズラと思われるだろ?」
悪ふざけか、うやうやしく一礼して門の横にあるチャイムを押すことをうながすエリィ。やれやれ、と俺は溜息をついてそれを押した。
『お〜〜? なんやなんや』
わかりやすい西方の訛り。もしかして博識ニキだろうか?
それにしては声が高い。まるで女性のものだ。
「すいません、わたくしスミス・ルルブレンド一等捜査官と申しますが……」
「おお〜〜! ほんまに来たみたいやな! 入って入って!」
ガコン、と門が開く。アポをとった覚えはないんだが……。
まぁ、いい。話が早くて助かるというものだ。
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