【11/07】優雅な朝食

 朝目覚めると、何か柔らかいものに抱きつかれている感触があった。

 ほのかにいい匂いもする。当然、察しが悪くては捜査官などやってられない。俺は今自分がどのような状況に置かれているかすぐさま理解した。


 胸の辺りを確認すると、さながら猫のようにのしかかって寝る銀髪の少女が一人。その腕は俺の胸をまさぐっている。こいつは一人で寝れないのか。流石にベッドに入り込んできたことは師匠にはない。もっとも、俺が寝ているのはソファなのだが。


「むにゃ……」

「むにゃ……じゃねーよ」


 脳天にデコピンを喰らわすとのそのそと面倒臭そうに起き上がってきた。格好からして騎乗位の体制になる。もう少し下なら俺のウィークポイントにぶち当たる格好だ。これはよくない。少しばかりパジャマがはだけたエリィの格好も、朝の俺には辛いものがあった。もちろん性的な意味でだ。


 別に俺はロリコンではない。普段からピクリとも反応しないが、朝というのは屹立するものだ。それはもう色々なものが。一刻も早くこいつをどかしたいところだが、ソファの横にはテーブルがある。無理矢理降ろすのも危険だ。


「さっさと降りてくれないか?」

「おや? なんだい? 僕のこの体に欲情でもしたのかな? いいとも、欲望のありのままをぶつけるといいさ!」


 両手を伸ばして、迎え入れる姿勢を見せるエリィ。

 そんなことよりもさっさとどいてほしい。イライラした俺は奴の腰を掴んで、やんわりとソファの横に降ろした。その身体は驚くほど軽い。特別痩せ細っているというわけではないから、まぁガキの体重なんてこんなものということだろう。


「おやなんだい、つまらない」

「こっちはつまるんだよ」

「下半身がかい?」


 ニヤニヤしながら俺の下半身を見つめるエリィ。

 このガキ……と怒る気もなかった。見たければ見ろという気持ちだ。俺は立ち上がるとそのままトイレに行った。


 さて、本日の予定は三賢人の一人——"穏健派"コルゴー・レオブジンに会いに行くつもりだ。正直、俺が弟子をしていた時期に会った記憶はないが、調べたところ手紙での交流を頻繁に行なっていたらしい。

 師匠の家を調べてもその手紙は見つからなかったが、レオブジン氏の方ならば内容を把握しているはずだ。会いに行く価値はある。


 俺は朝のモーニングルーティンをこなし、普段のシャツとコートに着替え終えた。エリィはというと、白いエプロンドレスに着替えたかと思えば腹が空いたのか冷蔵庫からパンを取り出し、トーストにしていた。

 俺の分のパンもある。どうやら用意してくれたようだ。


「一応、卵とベーコンも用意したよ。普段、使い魔にさせていたから自分で作るなんてかなり久しぶりだね。師匠に作らせるなんて罪作りだねぇ、我が弟子は」

「うるさいな……」


 とはいえせっかく用意してもらったのだ。食わないわけにはいかない。

 俺はソファに座り、卵とベーコンを乗せたトーストをむさぼった。

 エリィも隣に座り、同じようにトーストを食べ始めた。師匠は普段から研究ばかりで生活習慣が終わっていたので、こうして朝食を食べるのは幾年かぶりのことになる。下手すれば十年以上間が空いているかもしれない。


「さて、我が弟子。本日の予定は?」

「おまえの知り合いに会いに行くんだよ。レオブジン氏には」

「おや……そりゃまたなんでだい? 僕と面識があるから第一容疑者ってことかな?」

「それもあるが、おまえがとってたという新たな弟子について聞きたい。おまえが答えてくれるんなら話は別だがな」

「う──ん、それは無理だ」


 テレビのチャンネルを弄りながらぽつりと言うエリィ。

 テレビには今日の天気予報が映っていた。可愛らしいお天気キャスターによればいつも通りの曇り空、とのことだ。


「なにせその記憶は僕の中にもないからね」


 いつになく嘆くかのような、心細いかのようなそんな表情をするエリィ。……しかしその言葉が正しければ、少なくとも師匠がこの体になった経緯に新しい弟子が絡んでいる可能性が高い。


 レオブジン氏に会いに行かなければなるまい。

 博識ニキも待ってることだしな!

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