【11/03】模擬戦
深夜の公園、というのはなんとも物寂しいものだ。
秋頃というだけあって、コートを羽織っていても少し肌寒い。
木々はすっかり紅葉にまみれており、夜天の黒と紅葉の赤が満ちている。
まぁ、つまりは……落ち葉の掃除が大変そうってことだ。
「こんなところに連れてきて……まさか外でヤるのが好きなのかい?」
「はぁ?」
そんな公園にいるのは俺とエリィの二人だけ。
エリィはどこから持ってきたのか知らないが、白い外套を羽織っていた。
シャツとスカート合わせても真っ白……さながら雪女だな。
「我が弟子ながら倒錯しているねぇ」
悪戯気に微笑んでわざとらしいしなりを作ってみせるエリィ。
S字にくねくねしているが、本当に凹凸がない。
ジジイの頃なら絶対しなかったような仕草だ。
このアマ、本当に師匠なのかそうでないのかよくわかんねぇな。
「ちげぇよ。おまえが本当に師匠なら戦闘スタイルも同じはずだ」
「ほう?」
「それを見せてもらおうかと思ってな。霊力の量、出力、属性、それは他人が模倣しようと思って出来るもんじゃない。正真正銘同じ魂が必要だ」
霊力。まぁ早い話がMPだ。その量、出力も簡単だろう。
属性……も火とか水とか土とか、そんな感じ。
属性が多いほどやれることが多くなるし、希少な属性ほど独自の技が使える。
ゲームを嗜んでいる人ならば理解しやすいと思う。
「なるほどね……いいだろう。で、戦闘相手は我が弟子でいいのかな? 久しぶりの模擬戦。楽しそうじゃないか」
「いや、コイツらと戦ってもらう」
俺はそう言うと、ポケットに入れていた薬莢を五つ地面へと放り投げた。
そこから土が盛り上がり、瞬く間に土人形が五体作り出される。
もっとも……俺が作り出したわけだが。
「シンプルにこいつらとやりあってもらうわけだ」
「ふぅん、多人数とヤるのは気が進まないけれど……我が弟子の頼みだ。良しとしようじゃないか」
「言い方がなんだかやらしいな」
「ふふふふっ」
くつくつとよく笑うやつだ。師匠もそうだったが。
さて、どう出るか。
師匠ならばこんなデクども何体揃えようとわけもないが……。
「よし、おまえら行け」
俺の号令を合図として、デクどもがエリィに襲いかかる。
エリィは仰々しく右手を上げると、それを勢いよく横に振った。
ゴウッ!!
――と。同時に横一文字に切断されるデクども。
そのまま崩れ落ち、土塊へとなっていく。
「へぇ……」
どうやら技の冴えは師匠と相違無いようだ。
しかし、この程度ならば再現はできる。
……もう少し、見せてもらうか。
ポケットから更に薬莢を取り出して放り投げる。
今度は十体。加えて少しアレンジしたやつもいる。
ふたまわりほど大きいのがそれだ。
「ほうほう、弟子どのはずいぶんやる気じゃあないか。かまわないよ? 僕としては君自身とやりあいたいけどね」
「こんなのジャブだろ、ジャブ。俺の修行時代はもっとえげつないのを前座に使われたぜ? ほら、対処しな!」
再びエリィへと迫るデクども。エリィは可愛らしく投げキッスをしてみせると、それらは網目状に切断されていく。一瞬にしてアレンジしたデク以外は土塊に戻ったが……。
アレンジしたデクだけは切断箇所を繋ぎ合わせ再生する。
元は土。霊力を練り込めば、そう簡単にはやられはしない。
「ゴアァアアアアアアアアアア!!」
デクがエリィへとパンチを仕掛ける。
仮に当たれば、脆弱な少女の肉体にそれなりの被害が加わるだろう。
骨は砕け、内臓にも被害が及ぶかもしれない。
しかし――そのパンチが命中する前に、デクは動かなくなった。
否、動けなくなったのだ。エリィから伸びる影にまとわりつかれて。
「流石にこの程度で僕をどうにか出来ると思ってはいないだろうね?」
「まさか。おまえが本当に師匠ならの話だがな」
「ふんっ」
影がデクを覆い、ぐしゃり、と握りしめるように捻り潰した。
それで終わりだ。しかし見たいものが見れた。
「やはりおまえも使うか。【バスカヴィル】を」
「当たり前だよ。僕の得意技じゃあないか」
あの影は師匠の十八番【バスカヴィル】という術式だ。
影状の使い魔を自由自在、変幻自在に操る。それだけの術式だが――。
その怪力、速度は凄まじいものがある。
先程の斬撃も【バスカヴィル】の触腕が打ち放ったものだ。
【バスカヴィル】を扱うには師匠の珍しい属性が必要となる。
もちろん同じ属性を持っていれば研鑽すれば使うことが出来るが、少なくとも使えないのであれば、それは師匠ではない。霊力――すなわち魂が違うということになる。
つまりはエリィは第一段階をいともたやすくクリアしたと言ってよかった。
「では模擬戦はこれぐらいにしておくか」
「ふぅん? 満足いったのかい?」
「ああ、見たいものは見れたしな」
遊び足りない子犬のようにぷらぷらと【バスカヴィル】の触腕を揺らすエリィ。
当然、検証を終えた以上は続ける意味はない。
こちらとしても相手が師匠でなかった場合に応じて、手の内は隠しておきたいしな。
「こっちとしては、君が僕の元を離れてからどれほど強くなったのか見てみたかったけどね」
「それはまたの機会にとっておいてくれ」
「ま、いいだろう。それじゃあ深夜の公園に連れ出した程度の御駄賃は用意してくれたまえよ? おいぼれに夜ふかしは堪えるのだからねぇ」
ふふん、と自慢げに踊るエリィ。
ジジイの頃にはヤラなかった仕草だが……それは足腰が弱っていたからだな。
あのじいさんが若返っていたら、小気味よく踊っていたと思う。
御駄賃か……と言ってもこんな時間に空いている店など少ない。
いや、一つあったな。これぐらいのガキを連れ込んでも文句を言わなそうな店が。
「いいだろう、ついてこい。案内してやるよ、ガキの遊びってやつを」
「おやおやそれは楽しみだ。意外と僕はそういう遊びをしてこなかったからね」
そう言って、俺たちは深夜の街並みを歩いていった。
星や月明かりよりも、街灯が照らす街並みはいつだって明るいものだ。
暗くて困る――などといったようなことはなかった。
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