第25話 麗しの恩師

 ピンク色のパワードスーツは右腕を前に出した。パワードスーツは拳の前に、指を覆うような長方形のガードがつき、敵を殴りつけられるようになっていた。左肩に黒い文字で四、三の漢数字が書かれている。


「レイちゃむ!! もう! うちが教えたでしょ! 戦うときはレイちゃむは熱くなりやすいんだから! 冷静にって!」

「この声…… まッ万理華さんですか!?」

「チャオー!! あったりー!! じゃあ行くね」


 両手をレイに向かって大きく左右に振った、屋上のピンクのパワードスーツは飛び上がる。放物線を描いて大河とレイの二十メートルほど前にピンクのパワードスーツは着地した。


「さぁもう大丈夫だよ!」


 右手を開き胸の前に置いてレイ達に声をかけるピンクのパワードスーツの操縦者だった。


「あっ有栖川!? どうして君がここに?」


 ピンクのパワードスーツを見て大神が声をあげる。このパワードスーツに乗っているは、有栖川万理華ありすがわまりかという。第四遠征団第三部隊の隊長で、ツマサキ市の北部にあるネーブルタウンの防衛責任者を務めている。彼女は褐色色の肌に金色に染めた長い髪に丸い茶色の瞳で、長いまつ毛にぱっちりをした目をしている。口はやや大きくぷっくりとして、ピンクのリップを縫ってテカっており鼻は高くなく丸い。

 ちなみに大神と万理華は訓練所の同期で、普段は硬い口調の彼だが、彼女の前だと軽口を叩けるほど親しい。


「えぇ!? 大神っちを迎えにだよぉ。サプライーズ!」

「「「「「……」」」」」


 両手を広げて明るく大神に答えた。しかし、万理華の答えを聞いた大神と特務第十小隊の四人の間には、大河が吹き付けてような冷気が駆け巡っていく。


「ぴえん。みんなしおーーー!!」

「はぁ…… いいからこいつを何とかしろ!」


 万理華が叫び声をあげる。大神はあきれて首を横に振り大河を指す。


「おーけーまるー! やっちゃうよ!」


 嬉しそうに右手の親指と人指で丸を作って大神に見せる万理華だった。万理華は大河に体を向け視線を合わせる、視線に合わせて両肩に装備されたミニガンの銃口が大河に向けられた。直後にミニガンの銃口が火を噴く。


「舐めるなよ」


 大河が左腕を振り下ろした。アイスブレイドが銃弾を叩き落とす。大河は左腕を見えない速度で左右にエックスの文字を描くように振り、飛んで来る数多の銃弾をアイスブレイドで叩き落としながら前に出る。


「死ねええええええええええええええええ!!!」


 銃撃が止むと叫びながら大河は駆け出した。右手に持った大剣を振りかざし、万理華との距離を詰める。彼女の前に来た大河は大剣を振り下ろす。


「あれれ!? 強いねぇ。でも…… 負けないよぉ!」


 距離を詰めて来た大河に感心する万理華だった。彼女は振り下ろされる大剣に向け左拳を突き出した。大剣と拳とぶつかりあって音が響く。大河はかまわず大剣を押し込み、万理華は踏ん張って耐える。同時に大河は肘を曲げ、左腕を引きアイスブレイドの剣先を万理華の腹に向けた。

 大河は左腕を突き出した。万理華の腹へと伸びていく。


「残念。近距離はうちは得意なんだ!!!」


 迫って来るアイスブレイドを、万理華は体をそらしてかわした。


「なっ!?」


 大河が声をあげる。彼は伸ばしたアイスブレイドを持つ伸ばした左腕の手首を万理華につかまれたのだ。同時に彼女はは左拳を突き上げ、大河の大剣をはじき返す。そのまま左手を相手の首の裏へもっていきつかむ。右脇をしめ大河の左手と体を自分の近くへと持っていく。両足を反転させ腰を相手の腰に当てるように移動する。腰に大河を乗せるようにして跳ね上げ左手を押し出し右手を引いた。


「ドリャアアアアアアアアアアアア!!!!」


 気合の入れ叫びながら万理華は大河を投げ飛ばした。斜めに回転するように投げ飛ばされた大河は放物線を描き近くの建物の壁へ向かう。


「おしい! さすがに簡単には倒されないか……」


 大河は途中で体勢をなおし、甲冑型のパワードスーツのふくらはぎ背面と肩のスラスターを点火し、壁の途中でなんとか止めた。スラスターの炎が小さくなり大河はゆっくりと地面に着地する。


「有栖川に大神…… 冷静になった若造か…… さらに…… これはさすがに分が悪いな」


 万理華と大神とレイに順に視線を向けた大河、最後にトラックでライフルを構える未結を見て小さく首を横に振った。


「申し訳ありませんヘスティア様……」


 大河がつぶやくとアイスブレイドが白く光り出し彼の体も虹色に光り出す。直後にアイスブレイドが消え、白い冷気が周囲に吹き出す。あっという間に白い冷気の煙が大河を包み込み彼の姿が見えなくなる。

 

「逃がさないよ!」


 白い冷気の煙に向かってミニガンを発射した万理華だった。すぐに白い冷気は消えたがその場に大河の姿はなかった。


「いない…… 逃げられちゃったね…… しょぼーん」


 ミニガンで穴だらけの地面を見て残念がる万理華だった。


「如月!」

「ダメです…… 見つけられません…… 周囲にはもういないようです」


 首を横に振ってヤマさんに答える未結だった。

 ヤマさんと未結の通信を聞いていた万理華は小さく息を吐き、首を横に振って大神の元へ行く彼の背中を軽く叩く。


「大神っちぃ。あの青いのはなんだったの?」

「あれは…… 大河団長だよ」


 万理華は大河の名前を聞き目を大きく見開く。


「うそ!? 大河パイセンなの!? あの人は死んでるっしょ……」

「いや。死体は見つかってないから二年前の事件以降行方不明って扱いだよ……」

「間違いじゃないの?」

「元部下の僕が言うんだ間違いじゃない。あの氷の剣に何度命を救われたことか……」


 大河は元番傘衆で武瑠が就任する前の第一兵団の団長を務めていた。二年前のとある事件の際に行方不明になっていた。大神は大河と同じ部隊に居たことがあるのだ。


「そっか……」


 寂しそうにつぶやいた万理華は大神の肩を軽く叩いて振り向いた。彼女は小型トラックの上に乗っているヤマさんと未結に向かって両手をあげ手を振る。


「ヤマパイセンにみゆみゆも久しぶりー!」

「こっこんにちは」

「相変わらず元気そうだ」

「えへへへ」


 二人と言葉をかわすと、次に万理華はレイの元へやって来る。彼の元には甘菜が居て二人は並んで立って居た。万理華が近づくとレイは右手をあげ挨拶をする。


「レイちゃむー! この子は?」

「俺の従姉だよ」

「あぁ!! あのうわさの!」


 万理華は甘菜に体を向けると右手を差し出した。


「うちは有栖川万理華だよ。レイちゃむの訓練教官だったの! よろしくね」

「温守甘菜です」


 差し出された手を握り甘菜は万理華と握手を名乗る。首を傾け万理華は小さくつぶやく。


「甘菜…… じゃあかんちゃんだね」

「かっかんちゃん!?」

「うん!! かんちゃん! かわいいっしょ?」


 急に呼び名を決められ動揺する甘菜だった。二人の後ろに大神に近づいて来て甘菜に声をかける。


「有栖川は自分でつけた名前で呼ばないと忘れちまうんだよ」

「そうなのー! うちギャルだからさ」

 

 ピースさせた右手をパワードスーツの顔の前に持っていく万理華だった。反応できない甘菜、彼女のパワードスーツの中で困った顔をしていた。


「はぁ…… ギャルってとっくに三十路……」

「なんか言った? 大神っち?」


 大神のつぶやきに即座に手を下し、目を細め冷めた目で大神をにらむ万理華だった。万理華の視線の動きに呼応して、彼女の両肩に乗ったミニガンが大神に向けられる。回転し始める銃身を見た大神は慌てて口を開く。


「なっなにも言ってない!」

「大神っちは勘違いしてるみたいだから言っとくけどあたしはアラサーだから!」


 自身の胸に右手を持って来てアラサーを強調する万理華だった。首をかしげて二人の様子を見ていたレイがつぶやく。


「アラサーって三十路を超えてもアラサーって言わなかったっけ……」

「レイちゃむ! 聞こえてるよ。うちの訓練もう一回うけたいみたいだねぇ」

「いっいえ! 遠慮します!!!」


 声がして慌てて振り向いたレイ、彼の後ろに万理華がいつの間にか立って居て腕を組み見下ろすようにして自分をにらみつけていた。


「ダーメ。再訓練ね!」

「ええええ!? そんなあああ!」


 首を横に振る万理華に絶望して声をあげるレイだった。レイ達のやり取りを聞いていたヤマさんは苦い表情でく口を開く。


「とっとにかく。ここから移動しましょう。敵はあの男だけではないでしょうから」

「おぉ! さすがヤマパイセン! 大神っち達がうちらの町に補給によると思ってたから準備できてるよ。おいで!」


 万理華が道の先を指さして先導を始めた。レイ達は彼女が守護する町ネーブルタウンへと向かうのだった。

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