第24話 神聖装甲
「レイ君…… 誰だろう?」
「番傘衆でもないのにレインデビルズがうようよいるこの町に入れるってのは……」
甘菜が首をかしげて黒いローブの人間を見つめている。
先頭を行く大神の横に二式のパワードスーツを着た四名が並んでアサルトライフルを向ける。大神はハルバードを両手に持って一歩前に出た。
「僕はこの部隊の責任者です。道をあけてもらっていいですか?」
黒いローブの人間が胸の裾をつかんだ。同時に四丁のアサルトライフルが火を噴いた。けたたまし銃声が鳴り響く、銃弾の起こす風により、砂埃が巻き起こり黒いローブの人間が見えなくなる。モニターを通して見える音と光に甘菜は驚き一瞬だけ目をつむるのだった。
すぐに銃声が止まった。ゆっくりと煙が晴れていく……
「こっ氷の壁だと…… 貴様! 何者だ!?」
大神が驚きの声をあげた。黒いローブを着た人間の周りに透明な氷の壁がいつの間にかできていた。大神の部下四名が撃った銃弾はすべて硬い氷の壁によって阻まれ、壁の中で止まった銃弾の弾道が白くひび割れた氷で示されていた。
黒いローブを着た人間が右腕を大きく横に動かした。着ていた黒いローブが脱げ地面に投げ捨てられる。同時に氷が音もなく砕け、バラバラと地面に銃弾が転がった。
「なっなに!?」
目を大きく見開いて大神が信じられないという表情をする。未結の千里眼を通して画面を見ていた、特務第十小隊も全員が同様の表情に変わっていた。
黒いローブを脱ぎ捨てた人間は、西洋の甲冑のような青白く輝く鎧を身に着けていた。背中の中央に身の丈ほどありそうな大剣が見える。甲冑は静かに右手を大剣に手をかけ抜く。
「我はヘスティア様に仕えし
大剣を抜くと甲冑が声をあげた。声と同時に甲冑の肩の装甲やふくらはぎの背後から勢いよく青白い小さな炎が噴き出した。甲冑は改造されパワードスーツとなっており、操っているのは大河だった。
「パッパワードスーツだと…… マジックフレーム2は我々にしか……」
大河が着ている甲冑がパワードスーツだと気づき、大神が驚愕の声をあげた。大河は右手の人指し指を立ては顔の前で左右に振った。
「違う。これはヘスティア様の奇跡の
走り出した大河が叫びながら両手で大剣を持って振りかざす。
「下がれ! 僕が相手する」
大神はハルバードを持って前に出た。大河は大神の脳天を狙って大剣を振り下ろす。
「ぐぅ!!」
激しい金属音がした。とっさに大神はハルバードの柄を、両手に持って上空にかかげ大河の剣を防いだ。大神と大河は大剣とハルバード越しに対峙する。
大神の細長いバイザーに小さな白い光が二つが表示され左右に交互に動きだす。
「レッレイ君…… トラックの荷台が!?」
前を指さした甘菜、警護していたトラックの荷台の扉が自動で開いていた。開いた小型トラックの荷台から何かが飛び出して来た。
「なっなにあれ!? お犬さん?」
荷台から飛び出したのは、二機のロボット犬だった。ロボット犬だが大きさは犬というよりトラに近い。細長いくの字に曲がった四本脚に平たい背中のロボット犬たちは、トラックを飛び出すと左右にわかれトラックを挟むように走って大神の元へと駆けていく。
「あれが大神さんの武器だよ。陸上戦闘用ドローンの
ハチとナナと呼ばれる機械犬たちは、大神がエーテルを介して操作している。ナナは近接に特化しており前面に鎧のような強固な装甲を持ち、体の横から湾曲したサーベルのようなブレードを出して走りながら敵を七つに切り裂く。ハチは背中にミニガンを装備し、体内に二千発の銃弾を内蔵している。状況に応じてミニガンから火炎放射器や大型テーザー銃などに換装できる。ハチは正確な射撃で敵をハチの巣にする。
なお、大神の武器の名前は全て杏が付けている。
「機械のお犬さんが大神さんの武器なの?」
「うん。それに犬だけじゃないよ!
レイは空を指さして笑い甘菜は、彼の指の先を見上げて首をかしげるのだった。
「チィ!!!」
ナナが大河の左から飛び上がった。飛び上がると同時にナナの胴体からブレードが飛び出し、ブレードの刃の軌道は正確に大河の首を捉えていた。ナナの接近に気付いた大河は左手を離しブレードの軌道に持っていく。大河の手に氷塊が現れたナナのブレードと大河の氷塊がぶつかった。硬い氷を斬れずにブレードは途中で止まった。大河は左手を押し出した。ナナの体は飛ばされ大河の二メートルほど先に着地する。
「甘い!」
左手を今度は自分の右に向けた大河、彼の手の先にはハチがいて、ミニガンを大河に向けていたのだ。大河の右手から冷気が吹き出した。吐き出した強烈な冷気の白い煙がハチの周囲に立ち込め、ハチは真っ白な煙につつまれてしまった。
「まだだ!」
「クソ!」
大神が両手でハルバードを押した。片手になったことで大河は体勢を崩し押し返されたしまう。姿勢をくずされ大河は後ずさりしてしまう。大神からの追撃を警戒し体勢をなす大河だった。
「はっ!?」
大河の額に赤い点が表示された直後に地面が炎をあげた。レイ達がいる場所の数十メートル上空に機体の下部にレーザーを装備した大型のドローンが突如現れた。先端が丸く太くなったクジラのような機体に細長い翼が生え、機体の後部に左右に水平尾翼と、斜めに二枚の垂直尾翼がある。この大型ドローンはピヨチャン、正式名称はVM1117ナイトハンターという。
「ねえ!? レイ君? 急に飛行機が現れたよ!?」
「隠してたんだよ。大神さんの特殊能力…… 気化でな」
「気化?」
空を見上げて声をあげる甘菜にレイが答える。
大神の特殊能力は自分の体や武器を気体にする気化だ。攻撃はできなくなるが気体になり、敵の視覚から消えることで気づかれずに行動できる。
「避けたか……」
自分のすぐ前の燃え上がる、地面から視線をまっすぐ前に向けた大神が悔しそうにつぶやく。彼の視線の先にはゆらめく炎の向こうに見える大河の姿が見えていた。
「やるじゃないかロボット犬にレーザードローンか。しかも、そのすべてをほぼ同時に動かすとは…… 腕をあげたな大神よ……」
「はっ!? なんで僕の名前を…… クソ!! いけ!」
大神がハルバードの先を大河に向け、ナナが走り出し大河に飛び掛かった。
「まだわからないか…… これなら思い出すか!!!」
飛び掛かって来るナナに視線を向けた大河、彼は左手を握り軽く力を込める。大河の左拳から鋭い氷が吹き出していき剣のようになっていく。白く氷ついた大河の拳から剣が生えた。同時に冷気が周囲に吹き出し大神の前の炎が消えて地面に白い霜が降りる。
大河は飛び掛かったナナに向かって氷の剣を振り下ろした。大きな音がしたナナの体に氷の剣がぶつかる。ナナは吹き飛ばされ近くの建物の壁に向かって飛んでいく。しかし、壁にぶつかる直前にナナの体は揺れるようにしえ消え、直後にナナは壁の前に地面に立った姿勢で現れた。
「ふん…… ぶつかる瞬間に気化したか…… 本当に成長したな。大神よ」
「すべてを凍らせる
「思い出したようだな。さぁ。ご神体をもらうぞ!」
右手に大剣、左手に氷の剣を持った大河が大神を見つめていた。
「みんな! 大神さんを助けて!」
レイ達に杏からの通信が入る。視線をトラックの上にいるヤマさんと未結に向けるレイだった。ヤマさんが前面を指さしてレイに合図を送った。
「俺が相手を叩く。先輩とヤマさんは援護を頼む。姉ちゃんは左から大神さんを守って」
「了解だ」
「わっわかりました」
「うん。頑張るね!」
甘菜が盾を構え小型トラックの左を走って前面へと向かっていく。太刀を両手に持って構えたレイは、視線を別枠に小さなウィンドウへと向けた。直後……
「チィ!!」
瞬間移動でレイの体は大河の右側面へと出た。レイは大河に向かって横から太刀で斬りつけた。太刀は鋭く大河の胸へと伸びていく。しかし…… 大河はレイの動きに素早く反応し。右手に持っていた大剣を前にだしレイの太刀を受け止める。大きな音が周囲に響く、レイの太刀は受け止められてしまった。
「クソ! 反応しやがった……」
太刀を受け止められ顔をしかめ悔しそうにするレイだった。
「勝負に水を差すような無粋なするな!!!!」
右腕を斬りつけるようにして前にだす大河、レイは大剣で押され後ずさりする。地面が削れ砂煙をあげ二メートルほど後方へとやられたレイだった。彼は姿勢を直し、太刀の切っ先を大河へと向ける。
「勝負? 悪いなこっちは任務なんだ」
「何者だ?」
胸に左手を置いてレイは大河に名乗る。
「俺は特務第十小隊のレイだ」
「特務第十小隊…… 夜会を邪魔し我がブラザー悟を殺した者達か」
「黙れ!!! 悟を殺したのはお前たちだ!!!」
大河から悟の名前が出てレイは瞬時に全身が熱くなるのを感じた。冷静さをかいて彼は大河に向かって怒鳴りつける。
「若いな……」
ニヤリと笑った大河は、軽く左手を動かしアイスブレードで、地面を払うような仕草をした。
「なっ!? しまった!?」
「終わりだ! 若者よ! 永遠の氷の中で冷静になるがいい」
左右からレイの首に向け大剣とアイスブレイドを振り下ろす大河だった。レイは必死に体をそらして二つの剣を避けようとした。直後にけたたましい銃声が鳴り響く。無数の銃弾がレイと大河の間を通り過ぎて行った。大河は剣を戻して後ろに飛んでレイと距離を取る。
「クソ! 誰だ!!!」
銃弾が飛んで来た方向に体を向け、怒鳴りつける大河だった。
「ふぅ。たっ助かった……」
小さく息をはくレイだった。レイも大河と同様に視線を、銃弾が飛んで来た方向へと向けた。
レイの目に大きなスーパーマーケットの屋上に大きな人影が見える。カメラをズームさせるレイ、スーパーマーケットの屋上に二門のミニガンを肩に装備した、ピンク色の装甲の一式C型が屋上に立ち腰に手を当てていた。
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