第20話 新たな訪問者

 レイ達が海ほたるに飛ばされて三日後の早朝。

 海ほたるの建物の横にあるヘリポートに、レイ、未結、甘菜の三人が並んで立っていた。少しの時間が経つと南から朝日に照らされた、V428輸送機が飛行して来る。ローターを上に向け変形させ、ヘリポートの上まで来たV428はゆっくりとヘリポートへと着陸した。

 後部ハッチが開き、中から一人の男が降りる。


「あっあれは…… 大神さん!?」

「本当だ!? なんで!?」


 後部ハッチから出て来たのは身長が二メートル近くある、筋骨隆々な大柄な男性だった。彼はレイと同じ灰色の迷彩柄の戦闘服に身を包み、黒髪で短く前髪がそらった髪形で、体はごついが目が優しくやや気弱そうに見える。男の名前は大神伸一おおがみしんいち、年齢は二十九歳。V428からヤマさんではなく、大神が降りて来てレイと未結は驚いたのだった。二人を見た大神は右手をあげ笑顔になる。


「よぉ。レイに如月。久しぶりだな」

「久しぶりです」

「こっこんにちは」


 右手をあげ挨拶する大神、レイと未結はすぐに頭をさげた。そっとレイの袖を甘菜が引っ張る。


「誰? レイ君?」

「あぁ。この人は大神さん。俺と先輩の訓練教官を担当してくれたことがあるんだ」


 大神に手を向け甘菜に紹介するレイだった。甘菜は小さくうなずくと大神の前に立った。


「そうなんですね。初めまして私はレイ君の従姉の温守甘菜と言います。レイ君がお世話になりました」

「姉ちゃん!」


 深々と頭を下げ甘菜を慌ててレイが止めようとする。甘菜はレイに止められても頭を下げ、ゆっくりと顔をあげた大神は笑顔で甘菜に右手をあげて挨拶をする。


「これが噂のレイの保護者さんか。よろしくな」

「はい。レイ君のお姉ちゃんで保護者です」

「もう! 二人とも!!!」


 大神の挨拶に胸を張って答える甘菜、レイは不服そうに口をとがらせるのだった。ふとレイは大神を見てあることを思い出した。


「あれ!? でもちょっと待って! 大神さんって……」


 レイが大神の顔を驚いた顔を見た。直後にぴょこっと小さな人影がV428の後部ハッチに現れる。


「こらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! 大神さん!!! 何でさっさと先に行くのよ!! おろして!!」

「えっ!? だって山神博士が一人で降りられるっていうから……」

「うるさーーーーーい!!! 早く助けて!!!」


 ハッチの上でムッとした表情をする杏がレイに見える。慌てた大神は大柄な体を小さくかがめて杏の元へと向かう。彼女を抱きかかえた大神がレイ達の元へと戻って来る。第一兵団第三部隊の隊長である大神の任務は杏の護衛なのだ。彼は杏が開発部から外に出るときは必ず同行する。

 大神に抱きかかえられた杏がレイ達の元へと運ばれてきた。大神はレイ達の前に杏を下す。左脇にタブレットを抱えながら、右手でスカートをさっと払ってニカッと歯を出して笑う杏だった。


「ありがとう。大神さん」

「いえ。今度から怖いなら怖いってちゃんと言ってくださいね」

「考えとくわ」

「えぇ……」


 不機嫌そうな杏にしょんぼりする大神だった。二人のやり取りを見た三人は、杏のわがままに苦笑いをするのだった。

 しょんぼりとする大神の横で、笑っている杏にレイは出不精で外に出るくらいなら研究をしていたいはずの、彼女がここにいるのを疑問に思う。


「いつも外に出たがらないのに…… なんで杏ちゃんがここに?」

「レインデビルズの死体があるんでしょ? ちゃんと調査しなきゃ。今後の武器開発にも生かせるかも知れないしね」


 かわいくウィンクして答える杏だったが、ふと力が抜けたような表情をしてつぶやく。


「他の部隊は私達にここの調査が決まってホッとしてたけどね」

「まぁ。町の外に出たがる部隊なんてないですからね」

「でも、生態調査部は乗り気だったじゃない!」

「あそこは山神博士よりも変人がいますからね」

「あはは。そうだよね…… ちょっと! 大神さん! 変人ってなによ! 失礼ね!!」


 両手をあげて大神に怒りだす杏、やばいという表情で杏から顔を背ける大神だった。レイと甘菜と未結は笑っていた。

 二人の後ろからヤマさんが駆け寄って来た。


「レイ! 如月! 甘菜さん!」

「「「ヤマさん!」」」


 三人はヤマさんの元へ駆けていく。レイはヤマさんとがっちり握手して互いの無事を喜ぶのだった。


「おぉ!? 本当に生きてた! あんた達もしぶといねぇ」


 ヤマさんの後ろから加菜もやってきて未結と甘菜の背中を軽く叩く。V428には加菜とヤマさんの他に戦闘服を着た大神の部下五名と作業服を着た整備員が五人乗っていた。再会を喜ぶ特務第十小隊の後ろに十名が整列すした。杏が整列した十名を見て口を開く。


「じゃあ。加菜さん。三人のマジックフレーム2をお願いします。二人のは装甲は使えると思うんでバラしてください。如月さんのはこっちでメンテナンスします」


 杏の指示を聞いた加菜は胸を叩いて答える。


「あぁ。任せときな。みんな行くよ」


 加菜は整備員を連れ、レイ達のパワードスーツの元へと向かう。レイは加菜たちを見ながら杏に確認する。


「ここでパワードスーツを修理するのか?」

「うん。そうだよ」

「だったら俺たちも……」

「ダーメ! お兄ちゃんたちは私を案内してレインデビルズの死体の場所に!!」

「わっ!? ちょっと待って!!」


 眉間にシワを寄せ杏は首を二回ほど横に振った。彼女はレイの手を掴むと引っ張って彼を連れて行くのだった。


「山神博士!? 待って下さい! 先に避難民を……」

「レイ君! 待ってよ」

「わっわ!?」


 強引に杏に連れて行かれるレイを大神、甘菜、未結の三人が慌てて追いかけるのだった。ヤマさんがその後に続く。杏に引きずられながら、レイは彼女をトンネルのオウルベアが眠る場所へと案内した。


「すごい…… エーテルが……」


 杏は顎に手を置きアウルベアを真剣な表情で見上げつぶやいている。彼女の二メートルほど後方にレイは見守るように立ち、大神達はレイのさらに一メートルほど後に集まっていた。


「大神さん。僕たちは避難民の保護に向かいます」

「お願いします」

「じゃあ、甘菜さん、如月、案内してくれ」

「こっこちらです!」


 未結が前に出て、トンネルの奥を手で指し示し、ヤマさんを先導する。甘菜は彼女の横に立って一緒に歩くのだった。歩き始めてすぐにヤマさんは振り返りレイに声をかける。


「レイ! 僕たちは涼馬君の保護に向かう。お前は大神さん達と一緒に居てくれ」

「了解です」


 振り返りヤマさんに右手をあげ返事をするレイだった。

 十五分ほど後…… 杏は変わらずオウルベアの周りを歩きながら、ぶつぶつとなにやらつぶやき続けていた。記録するためか、時折タブレットをオウルベアに向け写真を撮っているようだった。

 人の声がして振り返ったレイ、ヤマさん達が涼馬の家族を連れて来ていた。ヤマさんは涼馬の母を背負い、涼馬の父は自分の妻を気遣っている。甘菜と未結は涼馬の祖父母に付き添い、家族の荷物を運んでいた。涼馬はレイを見つけて駆け寄って来た。


「レイお兄ちゃん!」


 元気に涼馬はレイに声をかける。最初に会った時にはレイにおびえていたが、二日の間に遊び相手になっておりすっかり仲良しになっていた。


「おぉ。涼馬か。ここからみんなで町に行けるからな」

「うん! さっきあのおじさんに聞いた! 飛行機ってのにのるんだよね! ありがとう! 町に行ったらまた会える?」

「あぁ。会えるさ」


 振り返りしゃがんだレイは、手を伸ばし涼馬の頭を撫でる。涼馬は嬉しそうに目をつむって撫でられていた。


「あっ!」


 レイが撫でるのを止めると目を開ける涼馬、彼は目の前にいる杏を見て声をあげた。涼馬は杏の元へと駆け寄る。今までの避難先では彼の同世代の子供はおらず、大人か小さな赤ん坊しか見たことがない涼馬にとって、初めて見る同世代の人に興味津々と言った様子だった。

 涼馬は走って杏に近づき彼女に声をかける。


「何してるの?」

「うん!? 調査してるのよ」

「ふーん。僕リョウマ! 君は?」


 自分を指さす涼馬、杏は振り返って面倒くさそうに自己紹介する。チラッと大神を見て杏だったが、彼は彼女の視線には気づかず微笑ましく二人の様子を見つめている。


「私は杏。山神杏よ」

「それなに? 手に持ってるの? それで何してるの?」

「タブレットよ。この機械の中に記録してるのよ」

「ふーん」


 小さくうなずいて知ってる風を装う涼馬だった。生まれた時から文明が崩壊していた彼は、もちろんタブレットや機械などは見たことはなく杏の言葉を理解していない。ある種の意地のようなもので涼馬は知ってるような顔していたのだ。

 涼馬はオウルベアを指さした。


「それ危ないから近づかない方がいいよ」

「いいのよ。私は」

「えぇ!? 僕と同じ子供なのに?」

「あぁ!!! もう! 大神さん!!! この子はなに? 早く連れて行って!」


 杏はついに涼馬の相手するのを面倒になり大声で呼ぶ。大神が慌てた様子で答える。

 

「あぁ! ごめんなさい。レイ! 頼む」

「涼馬! ほら! 早く行かないとおふくろさん達いっちまうぞ」

「えっ!? 待ってーー」


 レイの言葉に振り返った涼馬、トンネルの外に向かって行くヤマさん達を慌てて追いかけるのだった。


「姉ちゃーん! 涼馬を頼むー!」


 振り返った甘菜がレイに向かって了解と手をあげるのだった。


「まったく…… 何が子供よ…… 失礼しちゃうわ」

「まぁまぁ。山神博士が子供なのは事実ですし……」

「大神さん!!!! 嫌い!!!」

「えぇ!?」


 眉間にシワを寄せ叫ぶ杏だった。大神はしょんぼりとしてうつむくのだった。

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