第17話 アンクト寺院の新事業

「3F、x15y26にマーカー反応!」

「5F、x03y44にもマーカー! 6人分全滅コースです!!」

「遺体回収班AからFは低層フロアを中心に回りなさい! 遺体回収班GからNは再編成!! 中層全滅パーティの回収プランを立てますわよ!!」

アンクト寺院は蜂の巣をつついたような騒ぎだった。


「銭の種が向こうから次から次へと! オーッホッホッホ!! 笑いが、笑いが止まりませんわ!!」

「忙しそうですね」

上機嫌に指揮を執る狐人族フォクシアのゴモリー司祭にスペクトは話しかけた。

「ええ、それはもう!! 貧乏暇なし、金持ち喧嘩せずですわ!!」

意味が分からない。


とはいえ、ここに来たのはゴモリー司祭の訳の分からないことわざを聞きに来たのでも、高笑いを聞きに来たのではない。

「マーカーラベルの調子、問題なさそうですね」

「ええ、それはもう!」

マーカーラベル……新人冒険者支援施策の一環として開発したアイテムである。

札のような形状で、その名の通り貼り付けて使う。

貼り付ける対象は、迷宮内の冒険者の遺体だ。


貼り付ければ、遺体の座標がアンクト寺院の公式魔術窓ウィンドウに送信される。

アンクト寺院は遺体回収班を派遣し、蘇生した冒険者の仲間か、蘇生した本人から蘇生費用を徴収する仕組みだ。

冒険者の遺体にマーカーラベルを貼るのは、迷宮を探索して回る冒険者自身。

死んだ仲間に貼って回収を頼むも良し、迷宮で見かけた他の一党の死体に貼るも良し。

マーカーラベルを貼った冒険者には、報酬が支払われる。

もちろん、貼った方の冒険者の情報もアンクト寺院の公式魔術窓に送信されるため、悪用はできない。

アンクト寺院側も辻蘇生で、当てもなく遺体を探して回るより、はるかに効率的に金を稼……冒険者を蘇生できる。


しかも……。

「しかも!! あンのしみったれボッタクル商店をこき使ってやっているかと思うと、笑いが止まりませんわ、オーッホッホッホ!」

マーカーラベルの販売はボッタクル商店が請け負っている。

複数の組織にまたがる施策なのだ。

「ボッタクルの狸小娘がてんてこ舞いしている姿が目に浮かびますわ!」

さっき金持ち喧嘩せずとか言ってなかっただろうか。

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