第16話 新人冒険者一党が行く!

「うん、これならダーナ・ウェルの迷宮でやっていけそうだ」

シェリグ・ゲイムの酒場の依頼掲示板クエストボードを見て、俺、ルシエン・アズコットは一党パーティの仲間たちに告げた。

ところでカウンター席で小さくガッツポーズしている魔族デモニックの男性は、お店の関係者かな?

何か、良いことであったのなら幸いだ。


俺の名はルシエン・アズコット。人間族ヒューマン戦士ファイター

実家は貧乏領主で、15歳の元服を機に迷宮都市への修行の旅に出された。

開祖が君主ロードとして、迷宮で活躍し領地を得たので、そういうしきたりが出来たのだ。

もっとも祖父から迷宮での冒険の話を聞かされていた身としては、待ちに待った修行だ。


「うん! 若ならば、この試練!! 見事成し遂げられるでしょう!!!」

彼女は飛天族ディヴァイン神女ヴァルキリーのヴェル・ヌート、同い年の幼馴染……というより乳母の実の娘なので、ほぼ姉弟に近い。

少々、試練試練と口うるさいが玉に瑕だ。

「そして死してのち、その魂は戦士の園に迎えられるのです」

あと、俺の死亡後の人生を勝手に決めるのもやめてもらいたい。

それと若呼びもやめてもらいたい。


「あの……錬金術関連の依頼クエストも、私がこなせそうなのがあります」

「助かる、頼むよ。ファーラ」

竜人ドラクル錬金術師アルケミスト、ファーラ。

元はウチの屋敷で働いてくれていた新人メイドだったが、錬金術師の素養を見出され、訓練を受けてもらい転職。

今回の武者修行の旅についてきてもらうことになった。

「ただ……この日替わり依頼デイリークエストっていうの……締め切りが夕方までなので……」

「そうだな、帰還タイミングの判断が重要になってくるな」

日替わり依頼デイリークエスト、最近導入された依頼形式だ。

締め切りがその日の夕方までとタイトな分、報酬が良い。またその名の通り依頼が毎日更新される点が大きい。

「ファーラ、君への負担が大きくなるが、やってくれるか?」

「はい、若様。喜んで!!」

だから、若様はやめてほしい。


「カリーナ、時間管理は頼めるか。君が適任だ」

「はいよ、若旦那」

カリーナは、鉱人族ドワーフ狩人レンジャー。いや領内で一番の狩人。

クロスボウの扱いなら国一番だと俺は思う、その腕を見込んでスカウトして一党に入ってもらった。

そして、若旦那はやめてほしい。


地図製作係マッパーは、アレゼルに任せたい」

「よかろう、若君。攻撃呪文ならお手の物だ」

「いや、使ってほしいのは座標表示ビュマピスとかの呪文なんだけど」

魔術師メイジのアレゼル、都会育ちの森妖精エルフで、幼年学校時代からの学友。もう一人の幼馴染だ。

攻撃呪文を使いたがる性格を除けば、いいやつなんだが……。

「しかし若君よ。迷宮での戦闘は先手必勝、殺られる前に殺れが基本だと聞くぞ。攻撃なくしてなんのための魔術師呪文か」

「そうです、見敵必殺! 悪即斬です!!」

ヴェルが追従する、嫌なところで気の合う幼馴染ふたりだ。

君ら確か中立Neautral属性だったよね。


「……小猫丸こねこまる先生、過不足な点があれば、適宜ご指導お願いいたします。あとあのふたりの手綱もお願いします」

最後に猫人族ニャラットの侍、小猫丸先生だ。

先生は、利き腕を負傷して冒険者を引退、以後ウチの剣術指南役として雇われていたのだが、実家からのお目付け役も兼任という名目で一党に参加してもらった。

「ふふ……。指導に関しては、相分かった。しかし一党の手綱を握るのも指導者の務めでござるよ、若殿」

「はい、肝に銘じます」

先生を連れてきたのは、もうひとつ理由がある。

迷宮都市の高位の僧侶系呪文快癒ラヴィを先生に受けてもらいたい。

快癒ラヴィ……病やケガ、すべての状態を癒し、健全な状態に戻すという奇跡に等しい呪文。

それならば、先生の利き腕も治せるかもしれない。

快癒ラヴィを頼める伝手を見つけるか、ヴェルが使えるようになるまで精進してもらうか、俺自身が君主に転職して習得するのでもいい。

なんとしても、修行の期間内で、先生を癒してあげたい。

「なんでござるか、若殿。そんなに見つめられると照れるでござるよ」

「あの……若殿と呼ぶのはやめてほしいんだけど……」

小猫丸先生がそっと近寄って耳打ちする。

「そうでござるな。この中の誰かと深い仲になったら考えてあげるでござるよ。ちなみに拙者の発情期は近日でござる」

「若殿と呼んでください」

その手のトラブルはご免こうむりたい。


ともかく、俺たちはこの6人で迷宮に挑む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る