第15話 新人冒険者一党が来た!

私、スペクト・プラウスはシェリグ・ゲイムの酒場のカウンターで珈琲をすすっていた。

「酒を頼んでくれねえかな、うちは喫茶店じゃなくて酒場なんだがね」

「勤務中です」

とはいえ、何もサボっているわけではない。

市場調査の一環なのだ。

一日平均有効実績冒険者数DAAの向上……迷宮に入るお客さんの数を増やすため、迷宮外コンテンツを中心にいくつかの施策を打ち出し、実装にこぎつけた。

その成果が出ているか、お客さんの反応はどうか、それを直に見るためなのだ。

そして私が目を付けたのは、調査の対象は隅のテーブル席に座る、新人冒険者一党パーティ


新人冒険者ニュービー!!

しかも、街の外から来た冒険者だ。ウチの訓練場ではまた就くことができない錬金術師がいる。

ぜひとも、この街に、ダーナ・ウェルの迷宮に定着してもらいたい。

手厚く保護してあげたい……いやしかし、私は迷宮関係者だ、依怙贔屓は良くない。


私は迷宮関係者だと身バレしないよう、最新の注意を払い、彼らの観察を続ける。

ひとりは人間ヒューマン戦士ファイター少年OTOKO

ひとりは飛天族ディヴァイン神女ヴァルキリーの少女。

ひとりは竜人ドラクル錬金術師アルケミストの少女。

ひとりは猫人族ニャラットの侍の女性。

ひとりは鉱人族ドワーフ狩人レンジャーの女性。

ひとりは森人族エルフ魔術師メイジの女性。


僧侶系呪文、魔術師系呪文、錬金術師系呪文の使い手が揃っており、バランスのいい一党だ。

僧侶系呪文担当が専門職ではない神女ひとり、というのが若干のネックだが、神女の成長速度は上級職にしては早い方なので、僧侶系呪文の習得速度の遅さも致命的な弱点というほどではない。


また一風変わっているように見えるのが、盗賊系職業の狩人をドワーフが担当しているという点だ。

これもデメリットのように見えて、そうではない。

盗賊系職業に必要な能力値は、素早さAGILITY運の強さLUCK

確かにドワーフは、その2つの能力値が低く、盗賊系職業には向かないとされているが、それは迷宮系冒険者の能力値算出方法にも問題がある。

ドワーフの持つ手先の器用さDEXTERITYを参照していないという点だ。

これは盗賊系職業の主たる役割である宝箱の開錠と罠の解除において、重要な能力値である。

これだけでもドワーフが盗賊系職業に向いている理由になる。

だが、それだけではないドワーフの代名詞たるSTRENGTH生命力VITALITYの高さがあれば、強力な弓矢を放つタフな後衛が出来上がる。

死亡と負傷が重大なリソースのロスとなり、『先手必勝、殺られる前に殺れ』が定石の迷宮探索においては、イエスな選択と言っていい。

※スペクト君の個人的な意見です。一般的な迷宮職業論とはかけ離れている場合もございます。


おっと、思考がそれてしまった。

引き続き、新人冒険者観察だ。

冷静にリサーチを続けなければ……。

「うん、これならダーナ・ウェルの迷宮でやっていけそうだ」

依頼掲示板クエストボードを見ていた人間戦士の少年が仲間たちに告げる。

イエーッス!!

私は心の中で快哉をあげた。

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