第13話 レンタル錬金工房

「あの……錬金工房を借りたいんですけど……」

「はい、レンタル錬金工房ですね。期間はどのくらいになさいますか?」

「え、えと……先にお部屋を見せていただいてもよろしいでしょうか……」

「はい、それではこちらにどうぞ!」


竜人ドラクル錬金術師アルケミストファーラは、アーガインの冒険者の宿が始めたという『レンタル錬金工房』なるサービスに申し込もうとしていた。

ファーラは、別の街の訓練場で錬金術師になったが、その街の錬金工房は新米錬金術師が溢れていて、弟子を募集していなかった。

錬金工房がなければ、錬金術師の代名詞たる『アイテム錬成』ができず、働き口がなくなる。

途方に暮れていたファーラの耳に入ったのが、アーガインのレンタル錬金工房の話だった。

拠点となる街を変えることに若干の抵抗があったが、もともと身寄りがなく冒険者一党パーティの仲間たちも一緒に移転してくれると言ってくれたので、思い切って来てみたのだが……。


「わわ……すごいです」

興奮で竜の尻尾がふるふると揺れる。

人の好さそうな小人族ウィロー女将さんミナティに案内されたレンタル錬金工房は、狭いながらも充実した設備が為されていた。


「これなら一人で使う分には十分……いえそれ以上かも、です!!」

「気に入っていただけましたか?」

「はい!……あの、料金はいかほどでしょうか?」

「料金設定はこちらですね」

提示された値段は客室エコノミールームよりやや高く、高級客室スイートルームよりも安い値段だった。

「え、こんなに安く?」

これなら毎日ちゃんと錬金術関連の依頼クエストをこなせば、充分やっていける。

「はい。機材を含めて賃貸契約ですので、このお値段です……ただし……」

「ただし?」

「爆発などを起こして、部屋及び機材に被害を与えた場合は、その分を弁償していただきます」

人の好さそうな女将さんの笑顔が、悪魔の笑みに変わる。

アイテム錬成に爆発は付き物だが、よっぽど身の丈に合わない高度な錬成じゃない限り、そうそう爆発しない……はず。

「は、はひ! 肝に銘じます!!」

「はい、お願いしますね。それで契約はどうしましょうか」

女将さんの悪魔の笑顔が、天使の笑顔に戻る。

「とりあえず1週間契約をお願いします……」

悪魔の笑顔のままだったら、とても契約できなかった。


「あ、それと……」

「はい?」

「宿の方もお願いします……6人分」

心配そうに、遠くの物陰から見つめる一党パーティの仲間たちを見て、ファーラと女将さんは微笑んだ。

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