第11話 ある転生冒険者クンのその後

俺……あ、いや僕は転生冒険者……だった男だ。

転生して数か月、この世界の過酷さに挫折した僕は、力ではなく知識でこの世界で成り上がろうと考えた。


そう!

エロ漫画やエロ小説やエロ同人やエロゲーやエロアニメ、エロRPGで培った、このエロ知識で!

僕は今、異世界でエロ小説家をしている。


「はい、けっこうです。原稿いただいていきます」

「ありがとうございます!」

シェリグ・ゲイムの酒場の片隅のテーブル席。

目の前に座る、メガネをかけたガタイのいい豚鬼オーク編集さんが、魔術窓ウィンドウに書かれた僕の原稿にOKを出してくれた。

この世界では中空に文字を表示できる魔術窓ウィンドウが普及していた。

本来、中空に魔法陣を描いたり、冒険者のステータスの表示に使うものだったが、

一般化して以降、書物などにも使われることが多くなったらしい。

言うなれば、携帯端末のいらない電子書籍のようなものだ。


「先生の小説、評判いいですよ」

「本当ですか!」

「はい! 人間種の男性から特に好評をいただいていますよ!!」

「あの……オークの方とかの評判は?」

僕の小説『オーク大帝の凌〇侵略戦記』は、戦記物……の体裁をとったエロ小説である。

主人公はオークの青年(モデルは目の前にいるオーク編集さんだ)、彼は戦争に駆り出され瀕死の重傷を負ったところをメインヒロインの人間の聖女と出会い、

エロ同人的な展開を経て、強力な遺伝子を持つ子を成して軍団を作り、部隊長、将軍、大帝へとのし上がっていく。

さらに森妖精エルフの女魔術師、飛天族ディヴァインの姫騎士たちと次々にエロ同人展開を経て、兵力を拡大していくサクセスストーリーだ。


主人公をオークとしたのは、迷宮で雑魚敵扱いされている亜人族の地位向上を目指したのだ。

差別はいけない、他人を見下してはいけない、初期能力値がなんだ! レベル1がなんだ!

オークより弱い這いよる金貨クリーピングコインに勝てなくったっていいだろう!

「あ……いや……こういった異種〇モノは、基本的に人間種にしかウケなくてですね……」

「そうなんですか!?」

驚きだった。少なくともオークの皆さんは受け入れてくれるものだとばかり……。

「我々オークにとっても、異種〇はあまり馴染みがないですからね~」

「えええ!!」

この世界ではオークは異種〇しないのか!?

「そりゃそうですよ、魔法と医療の補助があるとはいえ、妊娠出産は命懸けですからね。わざわざ他種族と子を成すより、同種族と子供作りますよ」

「まあ、そうですね」

言われてみれば納得である、そういえばこの世界はオークさんもゴブリンさんも雄雌両方揃っているのだった。

オーク編集さんも常々、嫁さんと娘さんの写真を見せて可愛いと自慢してくる。

くそっ、なんでファンタジー世界のオークがリア充なんだ!?

うらやましくなんかないぞ!


「人間種くらいですからね、結婚神殿の補助なしで異種交配ができるのは……」

結婚神殿……その名の通り、婚姻を司る神を奉っていて、その神殿で祝福された男女が神殿内の寝台で眠ると、神の鳥が赤ちゃんを運んできて、例え大鬼オーガ小妖精フェアリーの異種夫婦であろうと子供を授かるらしい。

種族は親のどちらかのもので、ハーフと呼べるほど形質が混ざった種族は存在しない。

本来、結婚神殿のみが異種族間の婚姻と出産を司るものらしい。

ただし、人間種とだけは結婚神殿の祝福無しで、異種族との子供を成すことができる。

故に、東方の明日来あすらいという国の文字(漢字みたいなものらしい)で『間にある人』の意味する『人間』と呼ばれているのだという。


「ウチの商売としても、メインのターゲット層はやはり人間種となります。なにせ発情期の無い種族ですから」

言い換えれば、年がら年中発情期の種族ということでもある。

「じゃあ、いろんな種族のヒロインを出すよりが、人間種にしぼった方が良いのか……」

「いえ、そうではないです。例えば以前、3月号のヒロインをエルフにするようにお願いしたことがあったじゃないですか」

「はい、ありましたね」

『オーク大帝の凌〇侵略戦記』は雑誌連載と単行本、2つの形態で出させてもらっている。

3月号執筆時、オーク編集さんが珍しく「どうしても今月号はヒロインをエルフにしてほしい」と頼み込んできたことがあった。

僕はプロットを少し入れ替えて、エルフヒロインの出番を早めたのだった。

「3月号の発売時期がちょうどエルフの発情期だったんですよ、おかげで売れ行きは好調でした!」

「え? 発情期だと売れるんですか? 逆なのでは?」

凌〇モノの小説読んでいる場合では、ないだろう。

「仕事や家庭の都合で妊娠を見送りたい女性と、あとパートナーが見つからなかった男性に好評です」

なんか申し訳ない! パートナーが見つからなかった男性の方々!


それはさておき……。

「あの……自分で書いといてなんですが、女性にも売れてるんですか、コレ?」

「ええ、それはもう。いつも強気なオーク大帝が聖女の言葉に影響を受けて徐々に感化されていくところがたまらないと評判なんですよ」

「はあ……」

「ウチの編集長も『新しい客層だ』って喜んでまして、それ用の新レーベル立ち上げようか、企画しているところです」

意外なところに需要があるものである。

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