第4話 訓練場のケイティ・ルゥ

「調子はどうかですか?……御覧の通り、閑古鳥が鳴いてます」

街外れの訓練場、丸メガネの受付嬢、森妖精エルフのケイティ・ルゥが淡々と答えた。


「そもそも訓練場の役割が少なすぎるんです、現状では新規冒険者の登録と転職だけなんですから」

「あ~そうだね~、あんまり訓練場って来たことないかも」

魔王ダーナ・ウェルが能天気に答える。そりゃ確かに魔王が訓練場に来る用なんかないだろう。

ちなみに悪の魔術師のローブスカーレットローブは目立つので、普通のローブに着替えてもらっている。


とはいえ、訓練場の役割が2点のみというのも問題だ。

しかも、そうそう頻繁に利用することのないコンテンツということもネックとなっている。


「加えて就職できる職業が少ないのも問題です、基本職の戦士、僧侶、盗賊、魔術師と、上級職の侍、君主、司教、忍者の合計8職だけですから」

8職というのは、他の迷宮都市と比べ、かなり少ない。

ほぼ最低限の職にしか就けないと言ってもいい。

これでは閑古鳥が鳴くのも頷ける。


「新しい職業の追加も必要ですね」

「お、お~! 新しい職業!! ショーグンとか! カイトーとか! オートマタとか!」

オートマタは職業ではなく、種族だろう。

どこかの迷宮都市でオートマタという機械種族に、冒険者としての登録が可能になったと聞いたことがある。


「いえ、そういうオルタナティブなものではなく、神女や狩人、錬金術師といった他の迷宮都市でもメジャーになりつつある職業が先決です。特に錬金術師は最優先で実装したいですね」

「れんきんじゅつし~? なんで~?」

「後ほど説明しますよ。他のコンテンツとの兼ね合いもあるので」

ここで説明すると長くなってしまう上に、本筋から外れてしまう。


「錬金術師ですか、すぐには難しいですね。教育できる講師も招かねばなりませんし、何より錬金術師用の研究施設が必要になります」

「ですよね。とすると、他の職業の追加から着手するか……」

「ああ、神女なら。私が教えられますよ」

「え? ケイティちゃん。神女なの? てっきり魔術師かと思ってた」


神女ヴァルキリーとは、槍を主武器とする攻守に優れた女性だけ就ける職業である。僧侶呪文も扱えるが、分類としては戦士系職業にあたる。

「あら? そんなにか弱く見えますか? では、お見せしましょう」

ケイティが丸メガネを外す、そして……。


「フォォォォォォ!」

呼気と共に、受付嬢用の制服が弾け飛び、その下からビキニアーマーブレストプレートオブグッドネスに覆われた八つに割れた腹筋が現れた!!

「ひっ! 筋肉ムキムキマッチョウーマンの変態だ!」

登録に来たと思しき、新人冒険者たちがケイティを見て逃げ出した。

「アんだとゴラァ! そのひ弱な根性叩きのめしてやる、貴様ら全員再訓練だ!!」

筋肉ムキムキマッチョウーマンの変態は、ひ弱な冒険者たちを追いかけて走り去っていった。

閑古鳥が鳴いているのは、何もコンテンツ不足のせいだけじゃないような気がする。

「あはは~! 待て待て~♡」

待つのはお前だ、魔王様!

なんであんたも一緒になって追いかけてるんだ!?

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