第3話 魔王ダーナ・ウェル

『魔王ダーナ・ウェル 営業時間AM9:00~PM5:00 営業中』

扉にはそう書かれていた。

ここはダーナ・ウェルの迷宮最深部の玄室の一つ、その扉の向こうでは……。


「我がダーナ・ウェルの迷宮によく来た! 冒険者よ!!」

マントを翻し、迷宮主ダンジョンマスターたる有翼雄尻系魔族デモニックの女性、ダーナ・ウェルは高らかに宣言した。

迷宮運営部プランナー、スペクト・プラウスに向かって……。


「何やってるんです? 貴女は」

「練習! 冒険者を迎え撃つ時の!!」

豊かな褐色の胸を大きく弾ませて答える。

大きく胸元の開いた悪の魔術師のローブスカーレットローブが少々目の毒のため、つい視線を逸らす。

だがしかし、両肩のドクロの装飾が古き良き魔王の雰囲気を出していて、個人的には好みではある。

「あっ! 今ちょっと良いなって思ったでしょ~!!」

「思ってません」


それはさておき……。

「遊んでいる場合じゃありませんよ」

このダーナ・ウェルの迷宮に運営プランナーとして出向して1ヶ月、まずは現状の把握に努めてきた。

1日あたりの入場者ぼうけんしゃは減少傾向が続いている、場当たり的な施策を入れるも効果なし。

入場者ぼうけんしゃが支払う血と魂HPとMPが収入源となる迷宮にとっては、死活問題である。

結論、このままではダーナ・ウェルの迷宮は半年ももたずにサービス終了。

原因は、『月刊迷宮都市探訪』でも指摘されている通り、極端なゲームバランスだった。


報酬をはじめ冒険者に有利となるコンテンツが少なく、迷宮内のモンスターとトラップの難易度が高い。

なぜそうなっているのかというと……。


「ええ~、だってモンスターが強くてトラップもスゴイほ~が絶対楽しいよね!」

この魔王のせいだった。

「まあ百歩譲って、難易度が高いのはいいでしょう。現にその点を評価している一部冒険者もおりますし……」

「えへへ、もっと褒めて褒めて~」

「褒めてません、それより各種コンテンツ不足はいただけません、これでは新規冒険者は減る一方です」

「こんてんつ?」

「訓練場や酒場、冒険者の宿や商店のことです」


迷宮都市は、迷宮のみでは完結しない。

拠点となる都市の各施設があっての迷宮都市。

迷宮で手に入れた宝と経験を、各施設を巡って自らの力とする、そして強くなってさらに深く迷宮を潜る。

それこそが迷宮都市のサイクルなのだ。


「え~、でも訓練場も酒場もみんなちゃんと有るよ~」

「存在するだけではダメなんです。十分なサービスがなければ」

「えっちなサービス!?」

「違います」


ハァと、ため息を一つついてから続ける。

「いいでしょう。ちょうど今日は挨拶回りの予定があります。視察がてら一緒に各施設を見て回りましょう」


玄室の扉の文字が音もなく、書き変わる。

『魔王ダーナ・ウェル 営業時間AM9:00~PM5:00 ごめんね、外出中♡』

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