第2話 ダーナ・ウェルの迷宮

「ダーナ・ウェルの迷宮? あそこはダメだ、やめとけ」

「あ~、あそこね~。宝箱の中身がショボくてさ~、潜っても実入りが少ないのよね~」

「モンスター強すぎ、蘇生費用だけで大赤字だよ!」

「強制移動床の先に強制転移床置いて『いしのなかにいる』は、性格が悪すぎる!!」

「生か死か、ギリギリの戦闘。一瞬たりとも気を抜けない迷宮探索。便利さなんぞ一切省みない迷宮内設定。ハアハアハア……これだから迷宮都市は辞められない」


これが迷宮都市アーガインに住む冒険者に聞いた『ダーナ・ウェルの迷宮』の評判の一例である。

乏しい報酬、厳しい戦闘バランス、理不尽な罠。

これらに加え迷宮都市の各施設も不便さが目立つ。

高評価をつけているのは、一部の迷宮都市中毒者のみである。

確かに昨今珍しいシビアな戦闘バランスは、玄人冒険者向きであり、彼らが評価するのも理解できる。

しかしながら、現状これでは新人から中堅の冒険者の生活が成り立つとは思えず、決してお薦めはできない。


文/草陰(ダンジョンアナリスト)


シェリグの酒場のカウンター、その隅に座っていた魔人族デモニックの青年、スペクト・プラウスはスクエア型の眼鏡を外し、眉間を揉む。

中空に浮かぶ半透明の魔術窓ウィンドウ、そこに描かれた魔術書籍『月刊迷宮都市探訪』のページを閉じた。

ため息をつき、コーヒーの残りを飲み干して、勘定を置き店を出る。

行く先は、ダーナ・ウェル迷宮運営部だった。

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