第40話 俺はロリコンじゃないけど~は危険なサイン

 八――十二歳


 魔術を操れるからといって狩猟が上手くなるほど甘い世界ではなかった。慣れるには時間が必要で何度も何度も怪我をして毎度チェリーのお世話になった。失敗を繰り返して、失敗した経験を糧にして、ようやく狩りが安定してきたのが八歳を過ぎたあたりだった。愚者は経験から学び賢者は歴史に学ぶとは言うが、俺は経験こそが一番の師だと考える。愚かなほどシコリ倒せばだれだって賢者になるのだから、愚者でも経験を繰り返せばいずれは賢者になれるはずだ。だから経験をつませてくれる女性を募集したい。アリーシャ、俺を賢者にしてくれ。


 狩りに出かけるときに限っての話だがベルは片時もそばを離れなくなった。レイはお漏らしを誘発させてからというもの村に戻るとくっつきまわっるようになった。

 レイは甘えたいだけなようなので好きにさせているが、ベルは過保護になりすぎている。心配性が過ぎるとは思うが、元をただせば俺の未熟が原因だ。一人前になろうと焦った結果の惨事で、周囲に多大な迷惑と心配をかけてしまったと反省している。


 とはいえ村の大人たちには腕を認められるようになり、ベルと二人一組で狩り場へと向かうことを許可されるようになっていた。


「ご主人様に何かあったら今度こそ喉笛を食いちぎってやるから」


 初めて二人で狩りに行く前夜にレイが放ったセリフである。

 愛が怖い形に育ちつつあるのをひしひしと感じる。そうする前に俺がレイの喉笛を舐め上げてやる……などと冗談を言える空気ではなかった。レイの目は本気で、ベルもつばを飲み込み喉を鳴らしていた。


 ベルは親友である――そう言っても過言ではない仲になったと思っている。

 俺だけが一方的にそう思いこんでいるだけかもしれないが、暇さえあれば隣にいて下らない話に付き合ってくれるのだ。そんな勘違いをしてしまっても誰も俺を責められまい。

 ベルのやや彫りの深い顔は十二歳にしては大人びて見える。全体的に凛々しく育ち。ただ伸ばしただけの長くボリュームのある銀髪を獲物の解体作業の時のみ後ろで結びなおすのだが、それがまた得も言えぬ色っぽさを醸し出す。

 筋肉も付いてきて締まった体に成長してきており、村の若い娘たちもベルが近くを通るとキャイキャイと姦しく騒ぎだすのだ。毎度のように行われるそのイベントを見るたび嫉妬の炎で森を焼き払ってしまいそうになる。そうなる前に小人になった精霊のチェリーが精一杯慰めてくれるので大森林は大平原や焼け野原にならずに済んでいると言える。 


 ベルは女に興味がないのか騒ぐ娘たちに挨拶すらせずに素通りをする。そんな塩対応をされた小娘どもは「媚びないところがかっこいい」だの「横顔を見ているだけで幸せが溢れる」だのと好感度が上がるから納得いかない。口からハートマークの卵子を飛ばしてきそうな勢いで騒ぐ女子連中に、「ベルは男色家だから男の尻と竿にしか興味ないよ」と吹聴して回ろうかと思ったのも一度や二度ではない。実際、女に興味がなく俺とばかりつるんでいるのだからそういう疑いをかけられても仕方がないだろう。同性愛者ではないのならすぐにでも童貞を捨てられるだろうに、今のところその気配はなく浮いた話の一つもきかないのだから疑いに対する信憑性に拍車をかける。

 だがそれを切っ掛けに開き直ったベルが俺に告白でもしてきたらイヤなのでなんとか踏みとどまっている。藪の中の蛇はそっとしておくに限る。ベルのパンツから蛇が出てきても対処に困るから。



 すっかり村人たちとも打ち解けて、気づけば俺は村の一員として受け入れられていた。狼人族は一度仲間だと認識すれば、社会性が余程破綻していたり常識の在り方がかけ離れていない限りは追い出したりはしない。むしろ魔術が使える戦士として重宝され、ハミコ様の伝承補正も付いてやたらと大切にされている。

 ベルのように大量の小娘を引き連れて村を歩くようモテかたはしていないけれど、レイが前以上に甘えてくれているので不満はない。


 モテると言えば、長年暮らしていて気付いたことが一つある。この村はどうも男女比がおかしいのだ。

 大人の男が妙に少なく、女性ばかりが多く見える。ベルにそれとなく聞いてみれば、どうやら以前あった他部族との戦闘で多くの戦士が死んだとのことらしい。故に村に残ったのは未亡人ばかりだとか。子供は今でも生まれてはいるが、大人が急に増えるわけでもない。狩りに出かけられる男が必要以上にもちあげられるのはその辺が関係しているようで、そういう点でも狩りに参加できる俺の存在はありがたかったようである。


 ☆


「ご主人様」


 レイが背筋を伸ばし姿勢を正して正座をしている。これが彼女の待てのポーズである。歳も十二になり、依然より落ち着いてきた印象を受けるのは母親であるリンさんがそのように躾けたからだった。

 見た目や普段の振る舞いは変えられても性格まではそうそう変えられるものではなく、偶然俺を見かけたときなど作業の手を止めて尻尾を千切れんばかりに振りまくって寄ってくる。さらに感情が抑えきれなくなると体を押し付けてマウントを確保し甘えてくるなど、人前では抑圧されている分、二人きりになれば以前と変わらぬどころかそれ以上のレイの姿を楽しめることも。

 俺はそれをありがたいと感じている。けっしていやらしい意味で感謝をしているわけではなく――もない。単純に性的に感動しているだけかもしれない。

 真面目な振りをしているが二人きりになると甘えん坊になるなんて、素晴らしい情緒の不安定さではないか。レイの不安定なあり方が俺の心の安定剤だ。いつか互いに全裸のままマウントポジションを取っていただきたいものである。


「朝になりました。今日も雨の匂いのしない絶好の狩り日和ですよ」

「おはようレイ。そうか狩り日和か……レイは今日も可愛いね」


 ブンブンブンブンッ――と、激しく尻尾が揺らしている。


「可愛いですか? そうですか。では主人の務めとして可愛がらないといけませんよ」


 掛け布団を捲って上半身だけ起こすと、レイは手を床について頭を撫でろと言わんばかりに上目遣いでにじり寄ってくる。可愛いなどと挨拶の様に口説けているのはレイがペットのような存在だからである。存分に可愛がれば、可愛がった分以上の愛情を返してくれる。何年も一緒にいれば信頼を置いてくれているのも態度でわかる。

 家族の定義は難しいが、レイと俺の関係で当てはめるならば何をされても嫌われない関係――だろうか。イヤなものはイヤだと言うがそれで嫌うことも憎むこともない。無論わざわざ嫌がることもしなければ、どこまでが許されるラインなのかを理解しており、互いを尊重しあえる関係を維持している。


 嬉さが限界突破したらしく寝起きの俺に抱きついて頭を胸に擦り付けてくるレイ。俺にはこれぐらい甘えても許されると知っているのだ。最高に可愛い。愛玩動物まっしぐらだ。だがリンさんの躾けのせいで以前のように顔を舐めなくなってしまったのは残念である。あのマニアックな温かさが癖になっていたのに。まあよい。いずれ愛棒を舐めるように躾け直せばいいだけのこと。朝起こしに来たらまず愛棒に挨拶をして俺が目覚める前に舐めるのが大人の礼儀で俺の流儀だと教えてやろう。いや、それを広められてほかの狼人……たとえばベルなどが真に受けてしまっては困るな。狼人の距離感は異常に近いため、あいつはやられる側だろうに率先してやってきそうで怖い。


「ハァハァハァ……ご主人たま」


 しばらくレイを撫で回していると、膝の上に乗って腹を見せて俺をうかがっている。

 無防備に腹をさらして寝転がるのが狼人の服従の証である。

 毎朝服従の証を見せられているので気持ちは十分に伝わっているのだが、記憶力のない馬鹿だと思われているのだろうか。レイが俺を信頼しているのはよく理解しているつもりなのだが――いや、わかっている、レイは全身を撫でてほしがっているのだと。期待に応えてレイの腹を手のひらで回すように撫でてやると、待ってましたとばかりに痙攣して女の子がしちゃいけない顔をする。

 これがまだ少女だから耐えられているものの、女らしい肉付きの成人女性にやられていたなら、辛抱たまらん芯棒たマラん珍棒玉乱と朝から一発手合せ願って胸に手を伸ばしてまさぐりシャツをひん剥いて胸に吸いつて、「いいか、お前はペットだ。ペットはペットでもオナペットのほうだがな!」と、獣欲を解き放ち独りよがりの性衝動を押し付けて獣のようにファックしているところだったろう。

 しかし俺はロリータコンプレックスを患ってはいないのでそんなことはしない。その気はあるかもしれないし潜伏期間の可能性も否定できないが、まだ発症はしていない。間違ったふりして乳首ぐらい指ではじいてもいいかな――そんな危険な思惑が脳裏をよぎることも多々あるがけっしてロリコンではない。据え膳くわぬは男の意地だ。この状況を据えられた膳だと思っているがけっしてロリコンではない。


 少しでも自発的に動いて性的に手を出そうものならば、それは村に置いてくれているリンさんの信頼を裏切ることにほかならない。それだけは出来ない。恩を仇で返すなどあってはならないのだ。唇を噛んで血が流れようとも血の涙を流そうとも愛棒が充血して破裂寸前になろうとも耐えねばならないのだ。だから、けっしてロリコンではないが俺は毎朝この幸せな拷問に耐え続けている。


 リンさんは俺を無条件に信頼してくれている。得体の知れない人族である俺に対して村人達が優しく接してくれるのも族長であるリンさんの働きかけがあったからだろうと、それぐらいの事は言われなくても察っしている。俺が好かれるためにやった努力など部打ではないにしても些細で微力なものだ。リンさんはそういう人なのだ。言葉には出さず裏で支えてくれる、行動でしめしてくれる人なのだ。あんな奥さんが千人は欲しい。


「おはようございます。本日も狩り日和ですね」


 するりと玄関からイケメンが暖簾を押して入ってくる。銀髪の少年、ベルだ。

 基本この村にはノックをするという風習が無い。いるかどうかは入って確かめるのだ。では処女かどうかも入って確かめればいいのだろうか? よおしそういうことならば、レイちょっとこちらにお尻を向けて伏せしていなさい。暖簾があるか愛棒で押して確かめるから。


「おはようベル。今日も可愛いね」

「フッ」

「むっ」


 さすがにレイのように甘えてはこなかったが笑ってくれた。しかしレイのほうの反応がおかしい。嫉妬をしているのか兄を見て俺を見てを繰り返し、止まった手を掴んでもっと撫でろと腹に当ててくる。

 やめろ、それ以上はやめろ。それ以上可愛い行動をしないでくれ。俺がロリコンになってしまうかもしれないだろ。


「フッ、朝から調子がよさそうでなによりです」


 口角を上げてニヒルな笑顔を浮かべる。ベルは昔より表情と感情の変化が増え、最近では頻繁に笑うようになった。鼻で笑っているがベルがやると嫌味がない。これがイケメン補正というやつである。俺のような凡顔がやれば「お前なに笑ってんだよ」と胸ぐらをつかまれて謝罪を要求されるだろう。実に不条理だ。


 何をしても様になり、何をしても格好のつく男。きっとベルレベルになると母子物で床オナをしているところを親に見つかるとかいう最悪な場面シーンでもキラキラしていてかっこいいのだろうな。


「狩りの時間にはまだ早いので、まだゆっくりしておきますか?」

「まだ時間はありますよご主人様! まだ撫でれます、もっと撫でませんか!?」

 

 では尻を出せ。時間の許す限り撫でてやる。舐めてもいいなら延長も辞さん。


「いつも思うんだけど、二人は時計もないのによく時間がわかるね」

「あぁ……俺の場合は日時計によってある程度の感覚は掴んでいますので。森の奥に住む者たちならばさらに感覚が鋭いと聞きます」

「ふーん。体内時計がロレックス製なんだろうな」

「ろりっくす?」 


 ロリとセックスでロリックスか? これは一本取られたな。

 俺はけっしてロリコンではないのでロリックスしないが、そうまでレイが求めるなら考えてやらないこともない。レイももう十二歳だし、孕ませ危険セックスで前田利家しとくか?


「ううん、なんでもないよ。ほら、撫でてあげるから手を離しなさい」

「きゃーんっ」

 

 しかし目覚ましもなしによく起きれるものだ。俺なんて前世ではスヌーズ機能をオンにして、5:00、5:30、5:55、6:30、7:00で目覚ましをセットしていたのにそれでも無駄だったし、だいたい7:00のアラームで布団から出ていた。


「では先に広場にいってます。レイもほどほどにしておけよ」

「まだほどほどのほどぐらいだし……ぁッ」

「レイを可愛がり終わったらすぐ行くよ」


 気兼ねなく話せる数少ない友人となってくれたベル。

 二人の会話は以前よりほぐれていると思う。仲が良くなりすぎて尻穴の具合までほぐれてしまっては困るので、過度な接触は避けている。過度な接触をするのはレイだけでいい。

 ベルも無口なようで意外と喋る。好きなタイプは白い毛並みの子だとか、果物より肉が好きだとか、アナルは入れるより入れられる方が好きだとか……いや最後のは村の女の子たちからの好感度を下げる時に使おうと用意していたセリフだったな。



 しばらくベルのことを考えながら朝のぼんやりタイムを貪っていると、その間も撫でまわされ続けていたレイが気絶一歩手前の虚ろな目をしてアヘってしまっていた。やりすぎたことを反省しつつ、軽く頬をぺちぺちと鳴らすように叩く。


「あ~……ハッ!? あまりにも心地よくて、気持ちよくて、いい匂いで飛んでしまっていました……」

「それは何より」


 レイは慌てて立ち上がり「服をご用意します」と背を向けて家の中を移動する。その足取りは撫でられすぎて千鳥足になっている。

 まだまだ青い果実ではあるが中々に良い尻してんじゃねーか、と心のなかのロリコンが顔を出す。

 尻尾が揺れているのも可愛いから好きだ。だが尻尾に触れるのは危険だ。可愛いからと尻尾を撫でてやったことがあるのだが瞬時に蕩け顔になって目が潤んでしまうから。いつものだらしないアヘ顔とは一線を画す明らかにアダルトな表情だった。レイも理解していないのか半分は驚いたような、半分はつづきを求めるような、それでいて倫理的にまずいことをしているということだけは直感で理解している……そんな大人になりかけた顔を俺に見せた。

 あれ以来極力尻尾には触らないようにしている。あの気まずい空気に二度は耐えられない。二度目は恐らく俺の自制心が持たないだろう。悪戯半分ではじめて取り返しのつかない結果をもたらしてしまう気がする。たとえばベルに姪や甥をプレゼントしてしまうようなロリックス的な何かが起きてしまう予感がするのだ。

 レイの発情スイッチは尻尾。それだけわかればいいじゃないか。きっといつか役に立つ知識なはずだ。


 尻尾をしごかれて体を跳ねさせるレイをみて真っ先に思い出したのはアロワナだった。あの規格外の感じやすさではさぞ男にモテることだろう。

 アロワナは元気にしているだろうか。元気にしてたらいいけど、元気に男とシてたらイヤだな。

 ほんの数時間をすごしただけの小さな人間の子供のことなど覚えているはずもない。俺だって前世で同じマンションに住んでいたご家庭のお子さんの顔など一ミリも覚えていないもの。


「服はこちらに置いておきます」

「本当にいつもありがとう」


 感謝してもし足りない。この恩はいつか快楽でお返ししてやるからな。今ので12367回目の恩なので、最低でも12367発はお返しいてやりたい。利子もつくので20000発はお返ししよう。これは夜が忙しくなりそうだ。


「もったいないお言葉……報酬は甘やかしてくださればそれで!」


 すっかりメイド犬になってしまったが、それもまたグッドで逆から読むとドッグ。

 メイド犬の目がある中、服を寝巻から着替える。この時間は何を言っても出て行かないので慣れてしまった。


 生唾を飲む音が聞こえる。俺がそんなに美味しそうかいベイビー。股に隠れんぼしている果実さくらんぼは、君にはまだ早いかもしれないな。君がもう少し大きくなったら、大きくなった肉果実の果肉を頬張らせてやろう。


 狩りを行うには体力が絶対だ。魔族領からダンクルオスに行く事も想定しているので体作りはやっておいて損はないはずだと考える。

 なのでベルと一緒に体作りをほぼ毎日している。子作りをではなく体作りだ。ホモ毎日でもない。ほぼ毎日だ。


 自重トレーニングしかなくともそれでもやらないよりはましだと繰り返していたが、ある日、岩の魔術を応用してトレーニング器具をつくればいいのではと思いつき、簡単なダンベルやバーベルなどを生み出してからトレーニング環境は一変した。割れた腹筋と丸い肩はちょっとした俺の自慢でもあり、着替えるたびにレイがくぎ付けになっているのを見てはちょっと興奮している。


 この村の一般的な衣装、肌着は紺色の洒落乙なものをいただいており、上着には着物のような衣服を羽織る。

 こんな格好で動けるのかと最初は思ったものだが、足の可動域はズボンを履いている時よりもよっぽど自由がきくので今ではお気に入りの衣装である。


 魔術師らしくローブも欲しいと、それとなく言ってみると、ちゃんちゃんこの生地を薄くしたような上着をリンさんがくれた。「これはこれで悪くないな……」と、大はしゃぎしたのだが、完全にこの村の価値観に染められていることに気付いたのは、随分後になってからのことだ。


「では行ってくるよ、レイ」


 出掛ける時はちょっと偉そうに言うのがコツだ。


「行ってらっしゃいませご主人様」




 帰ったらご主人様のご主人様からご種神様をぶっ放してイッてらっしゃいしてやるからな。

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