第39話 女児が漏らすと物語が動く

 六歳――


 村に置かせていただくにあたって、犯させていただきたくあって、まずは村人と良好な関係を築くためにと愛想を振りまき前向きな触れ合いを心掛け、積極的に仕事の手伝いを申し出ることにした。前世では無茶な仕事を振られてもイヤな顔を一つも見せず決してノーとは言わない、尻と愛棒を貸す以外の頼みなら快くうけて笑顔で従事する頷き超人イエスマンだった。あのときのつらい経験がこんな形で活かされるとは感慨深いものがある。


 何をするにもまずは情報の収集である。情報が集まるところと言えば主婦。バイト代を得ては遊技台で散在してを繰り返していた愚かな苦学生時代。バイト先のすべての情報を網羅していたのは店長でも社員でもマネージャーでもなく主婦の方々だった。店長のブツのサイズから迷惑客の個人情報にバイト内カップルの馴れ初めまで、どこで仕入れてくるのかわからない謎の情報収集能力と、情報の拡散能力を武器に男どもを顎で使う陰の支配者。

 手始めに湧き水を汲みに行くのを手伝い奥様方にごますりをして親睦を深めていった。はじめは警戒されていたようだが同時並行で進めていた子供たちと遊んで仲間意識を高め横のつながりを強化するプランが噛みあい、徐々に奥様方にも受け入れてもらえるようになっていく。慣れてしまえばあとは早い。村の仕来りや狼人族の在り方などを作業を手伝う合間に少しずつ教えてもらうことができた。

 ある日、温かい風呂だけがたまの贅沢だとボヤいていたのを俺の情報アンテナがキャッチ。依頼さえあればいつでも風呂を沸かしに各家庭を回ると約束し、実際その通りにもした。これが存外好評で、さらに副次的効果として疲れて帰ってくる大人の男たちにも受けがよくなっていく。

 仕事や作業も手伝いつつ昼も夜もなく村中を駆けずり回って火魔術を使う日々がしばらく続いたが、族長であるリンさんがこれをよく思っておらずある日を境に止められてしまう。続けて、子供に対して過重労働を強いるべきではないとの御布令が出され、村には子供に必要以上の仕事をさせてはならぬという新たな法が生まれてしまった。

 六歳の子供が自分たちよりも働いていたと知り大人たちはみな自らの行いを恥じた。しかし、納得はしても一度味わってしまった贅沢は中々身から離れてはくれないもの。オナニーを知った猿がシコりつくしてしまうように、夫以外の男を知ってしまった団地妻が夫の平凡なプレイでは満足できなくなってしまうように、奥様方は一度知ってしまった贅沢を手放せず、俺とすれ違うたびに欲しがるような目で俺を追いかけるようになった。何が欲しいかなど察しはついている。今まで駆けずりまわった分、パイズリ回してくれたら湯を沸かしてやろう――などというリスクしかない取引は行わず、体の湯洗いをスズ村の日常生活に組み込むため、村の中央に簡易銭湯を建てる案をリンさんに提出してスズ村の新たな憩いの場を生み出すことにした。


 困り顔のリンさんと前向きな大人たちの賛同を得て、何度も協議を重ね、挫折を乗り越え、失敗を積みあげながらも諦めず、試行錯誤し続けて一年近くかけた大工事を経てようやく完成したのが蒸し風呂である。温泉施設は諸々の理由から作れず断念し蒸し風呂になってしまったのだが、妥協したからと言って手を抜いたわけではない。狼人たち協力のもと魔術を駆使して岩をふんだんに使って建設し、風の抜け具合に四苦八苦し、熱のこもらせ方に苦労させられ、人族と狼人の叡智と情熱と魂がこめられた会心の傑作である。

 完成を喜んだ俺は調子にのって蒸し風呂施設をユノ湯と名付けた。どちらから読んでもユノユをキャッチコピーに誰でも入れる社交の場として親しまれていくことになるのだが、あとあとになってこれを後悔する。というのも狼人たちはこの施設を使うことをなぜか「ユノに入る」と表現するのだ。これがまあきつい。ガチムチのおっさんたちがぞろぞろと「さあて今日もユノにはいるかぁ!」などと叫びながら尻を叩く音が蒸し風呂の周囲に響くのである。誰でも入れるというのを拡大解釈してユノの肛門を拡大して入ろう――と、そんな輩はいないのが救いだったが、ほかの理由で極力人の多い時間は避けることにしている。避けずに肛門を裂かれても困るというのも勿論あるが、狼人は男女問わずに距離感が近い。パーソナルスペースが極端に狭いのだ。そのため懐いてくると風呂場内でも全裸で密着するほど寄ってくるので、それが俺の肌には合わなかった。

 倫理観の違いから理解はされなかったが一応男湯と女湯はわけているせいもあって男ばかりが寄ってくるのも痛恨だ。どうせなら俺だけ女湯に入れるようにすればよかったと後悔しきりである。



 七歳――


 ときには張り切りすぎて頑張りが空回ることもあったが、ハミコ様の補正もあってか好意的に受け入れられていった。ハミコ様が何者かは知らぬが心から感謝申し上げる。

 狼人の男の主な仕事は狩りである。様々な仕事がある中で狩猟は花形ポジションであるらしく、大物を狩って帰ってきた男たちへの女子からの歓迎はすさまじい。モテないよりはモテたほうがいいに決まっている。ということで、蒸し風呂関連の仕事もひと段落ついていたので狩りに同行しイノシシや鹿の狩猟方を習い、血抜きや解体の仕方を教わることにした。

 針仕事や機織り料理などは女の仕事だというので説明すら受けられなかったのは実に残念である。機織りはともかく料理ならば多少の心得はあるので腕前を披露してみたかった。レイの女体盛りとかワカメ酒とかをな。 


 狼人族は弓等の飛び道具を好まず武器も使おうとはしない。罠や獲物を持ち運ぶための道具は使用してもかまわないらしいが、狩猟のために武器は一切の使用を禁じている。基本は四人一組でチームを組んで体のみを頼りに――つまり素手で獲物を倒すことを尊きとする超武闘派集団。それが狼人族スズ村部隊の在り方なのである。

 ベルを襲ったおっさんは手斧を使っていたが、正直使う意味があったのか疑問に思うほど狼人族の身体能力は飛び抜けていた。イノシシの頑強な脚を一発の蹴りでへし折った老齢の狼人がいた。交錯する瞬間すさまじい音が響き、地面をすべるように転がるイノシシ。蹴りを放った狼人は嬉々としながらとどめを刺していたのが印象的だった。

 一方俺は身体強化をしてもそこまで強くはなれないようなので、岩で道を塞いで逃げ場を限定するなどの後衛に回った立ち回りっで支援に徹底していた。飛び道具を嫌う狼人たちだが魔術は自己鍛錬自己研鑽の賜物であるとして快く受け入れてくれたので、臆することも恥じることもなく堂々と使わせていただいている。


 初めて経験した解体作業は慣れない光景の連続にしばらく夢にも出るほどの心的外傷を負わされたものだ。腹を裂いて内臓を取り出している時の臭いなど中々慣れるものではなく何度も吐きそうになった。

 魔術も単に使えばいいというものではなく。岩でふさぐにも自然を破壊しない範囲でおさめ、使う魔術を都度選んで環境を破壊してしまわないように心がけていた。攻撃するときにも威力を調整しないと食べれる部位が吹き飛んでしまうし、それこそ流れ弾で森を壊してしまうので攻撃時が特に神経を使う。

 環境破壊については狼人が嫌がっているわけではない。エルナト先生に厳しく言いつけられていたのでそれを守っている次第である。たった一日の出会いで、長い人生の中ですれ違っただけの一人。もう二度と会うこともない一期一会の他人なのかもしれないが、それでも命の恩人であり魔術の基本を教えてくれた師であるのは変わらない。こうして教えを守ることで精神的なつながりを保ち、一方的に縁を守っている気になっていればいずれは再会できるかもしれない。会った際にちゃんと守っていたと言えば頭を撫でながら愛棒も撫でてくれるかもしれない。そんな思惑のもとに約束を守っている。これが引き寄せの法則の亜種、引き寄せ精神的ストーキング法である。


 狩りは魔力操作の練習にもなり村にも貢献できるので一石二鳥であった。魔術が上手くきまれば皆も褒めてくれるので気分もいい。そうして調子に乗っているうちに自分を自分以上のものであると錯覚し始め、取り返しのつかない大失態をしでかす。



八歳――


 興奮したイノシシの突進で大怪我をして多大な迷惑と心配をかけてしまった。魔力を体に流して強化魔術もどきをしていなければ確実に即死していたであろう大怪我だった。そういう時々にエルナト先生の師事をうけておいてよかったと、彼女との少ないが濃ゆい思い出に包まれる。歳が増すごとに彼女との記憶が色を持ち始めている気がするのは、体が成長して性欲が増していっているからか。もしも六歳ではなく成長した姿で彼女に出会っていたなら。大人として成熟した性を完備していたなら……まず間違いなく出会い頭に勃起していただろう。礼儀にはうるさい愛棒のことだ、主である俺が目覚めて起き上がるよりも先に立ち上がり、うら筋をピンと伸ばして挨拶をしていたはずだ。

 愛棒の目覚めのよさは三国一で、必ず俺よりも先に起き上がって朝の準備ぼっきをしている。布団の重みを下半身の一か所に感じて目覚めるのでいい目覚まし機能にはなっているのだが、毎朝起こしに来るレイにバレてしまうのは恥ずかしいので最近は横向きで寝るようにしている。俺のぎこちない起床に何かを感じ取っているのか怪しんでいる様子もあるのだが、もしも愛棒の朝勃起ちがさとられたなら、そのときは責任をもってレイに処理してもらおう。いや、レイの献身性を考えると冗談で言っても本気でやりかねないので、寝ぼけて余計なことを言わないように気を付けよう。あの子は頼まれると尻尾を激しく振る。間違っても毎朝ヌイてくれなどと口を滑らせないようにしよう。意味を理解できなければリンさんに尋ねるだろうし、そうなると村から追い出されてしまうかもしれない。やるとしてもそれはお互い分別のある大人になってからだ。狼人族は早いと十二歳には大人の仲間入りらしいが俺はそれを認めない。好きな戦国武将は前田利家だが、倣ってレイをおまつの方にしてはならないのだ。絶対に取り返しのつかないことになるから。


 レイの献身性から狂気めいたものを感じとったのは、狩りの最中に油断をして酷い怪我を負ってしまったときのことだった。過去に類を見ない巨大なイノシシが現れたときのこと、興奮しているイノシシは俺を狙って突進をしかけてきた。一番弱そうに見えたのか、一番腹の立つ顔をしていたのか狙われた理由は定かではないが、もし俺がイノシシでもなんとなく俺を狙うだろう――という感覚はわかってしまう。わかったところで腹が立ち、愚かにもイノシシの突進を真っ向から受け止めようとして当たり前のように当たり負けして腕をへし折られてしまった。


 その日に限って狩場が遠かったことと子供の身で体力がなかったため、村に到着するころには半死半生の衰弱しきった状態で運ばれた。腕には応急的な添え木をされている俺を見たレイは半狂乱になって悲鳴をあげた。悲鳴なのに可愛いじゃないか――そんなことを考えながら俺は意識を失った。


 意識が戻ると布団の上に寝かされており、すぐ横では珍しい光景が繰り広げられている。レイがベルを叱り倒しているのだ。叱られているベルは耳を萎れさせて目に涙を浮かべながら伏せをしており本気の反省をうかがわせる。何をそんなに怒っているのかと聞き耳を立てると、俺に怪我を負わせたことを責めているような内容だった。

 ろくな医療施設も医療技術もない森の中での骨折は正に致命傷となり、小指一本を折っただけでも死ぬことはある。それをわかっているのでレイは感情を抑えきれずに怒鳴ってしまうのだろう。その怒り方も可愛くて素直に勃起なのだが、怪我をしたのはどう考えても俺の責任でありベルを責めるのはお門違いである。ただただ謝っているベルが不憫で気の毒この上ないのでレイを宥めてやろうと頭を撫でるために腕を伸ばすも尻をがっつり掴んでしまう。


「もしも……もしご主人様が死んだら一生ゆるヒャーン!!」


 ヒャーン。


 尻を掴まれただけで尻尾を丸めて飛び上がるレイ。

 彼女のステータス画面に尻が圧倒的に弱いという項目が追加された瞬間である。まだ尻が弱いの一文だけだが、いずれはサイズから打撃耐性の有無や刺突攻撃に対する反応、肛門の皺の数や肉質値などの詳細な情報が書き込まれていくことになるだろう。


「レイ……ベルは悪くないんだ。怒らないであげて」


 いや全然お尻なんて触ってませんよ~というポーズで「心配をかけてごめん」と素知らぬ顔で謝ると、レイは大粒の涙を流しながら顔を隠すように土下座した。ワンワンと大声を上げて泣きつづけるものだから、俺に尻を触られたのがそんなにショックだったのかとしばらくしょげたが、土下座したまま器用に進んできてさり気なく布団に侵入し最終的には抱き着いて甘え始める。怒られまくったあげく何も言われず放置されたベルの切ない表情が印象的である。



 骨折も治り感染症の心配もなく直ぐに体調を戻せたのだが、そうなるまでの経緯にまた一つ悶着あった。

 森で大怪我を負うというのはそのまま死を意味する。前世のような医療技術がこの世界にあるはずもないので病気一つ、怪我一つでも命を脅かすには十分な理由になる。それこそただの軽い風邪ですら細心の注意が必要なほどにだ。その点、狼人族は体力もあり頑丈な体をしているのでそうでもないようだが、平凡な顔をした平凡な人族である俺はそうもいかない。


 だが俺はたったの一日で骨折を治してしまった。というのも精霊おっぱいが俺を助けるためにためていた魔力をすべて使い切って治癒してくれたのである。

 精霊おっぱいは俺が無事なのを確認するとくっついたまま静かになったそうだ。そうと気付いた時には衰弱しきっており何があったのかとレイに尋ねると以上のような説明を受けた。


「――精霊は精霊としての死を迎えようとしているんだと思います。魔力が空っぽになっているので……もう無理かもしれません」

「む、無理ってそんな。どうにか助かる方法を知らないの!? だってっこんなの――また助けられて、まだ何もしてあげてないのにこんな形でさよならなんておかしいでしょ!」


 八つ当たりに近い慌て方をしてしまった。心のなかの四百歳が必死に己を宥めて抑えようとしているが、自分でも思った以上に大切にしていた精霊おっぱいが自分のせいで死ぬという現実に耐えられるはずもなく。冷静さを欠いたまま、レイが首に手を回して抱き着いたまま立ち上がる。


「もしかしたら母ならば、族長のリンならば何か知っているかもしれません」

「ありがとうベル!!」

「いえ――あのレイが……!」


 力のない精霊おっぱいを両手で胸に抱え、離れるタイミングを逸して背負われたままのレイを連れてリンさんの家へ駆けこんだ。


「あらあら――え? レイ?」

「やはぁー……」


 リンさんは少し驚いており、レイはばつが悪そうにしている。親子の戸惑いなどお構いなしにリンさんのもとへ駆け寄った。この程度で臆していては親子丼も楽しめない。

 狼狽する俺を落ち着かせるように身振り手振りで制し、いつまでもくっついているレイを叱責するリンさん。すぐに状況を察したのか精霊おっぱいを助ける方法を教えてくれた。


「魔力が尽きて精霊としての死を迎えようとしているのですね……」

「はい、だからなんとかなりませんか。以前にも精霊に救われていて、そのときの礼もちゃんと済んでいないのにまた自分のために無茶をして。俺だってこいつを守るためなら何でもできるのに、何もする前にこいつが死ぬなんてあっちゃいけないんです!」


 思ったことを整理せずに早口でまくし立てる。一人称を偽ることもできないほど焦ってしまっていた。

 お落ち着かせようと宥めてくれるリンさんと背中から腰に足を回して抱き着いて離れないレイ。レイに離れるように怒るリンさんと、腕に力を込めて意地でも離れようとしないレイ。傍から見れば抱き着いて離れない子供の霊に取りつかれた俺と、除霊をしている巫女に見えるだろうか。


「精霊はユノ様の怪我を治すために魔力を使ったのですね?」

「気を失っていたのでわかりませんがそのようです。そうだよねレイ」

「その通りです。ご主人様の怪我を治癒してからぐったりしてしまいましたから」

「でしたら精霊はユノ様を心より信頼していますので契約を受け入れてくれるでしょう。精霊に名前をつけて契約をすれば、契約者が死なぬ限り精霊も魔力を安定してもらえるので死ななくなりますよ。契約とはそういうものですからね」

「名前をつければいいんですか!? それでなおるならばいくらでもつけます!」

「焦ってはいけません。契約した精霊は生涯を共にする自分の半身となる存在ですから、ユノ様に深く根ざした名――その生涯に関係を持たせる名前でなければなりません。例えば私でしたらスズ族の生まれであることは生涯変えられない絶対不変の事実ですので、スズとつく名をつけるでしょうね」

「な、なるほどっ……じゃあ――」


 状況も状況なだけあって突然自分の根っこの部分と言われてもすぐには思いつかない。悩んでる間にも精霊おっぱいの体からは光りの粒がこぼれ落ちており、今にも消えてしまいそうだった。


「チェリーだ……。今から精霊おっぱいの名前はチェリーにきめた!」


 焦ってつけた名前は『チェリー』だった。我ながら酷いセンスだと思ったが無事契約が完了してしまう。童貞が俺に根ざしていることを精霊と世界に認められた瞬間である。


「うーん……うん、大丈夫そうですね。魔力が精霊に流れているのがわかります」

「ぼ、僕にはさっぱりわかりませんがそういうものなんですか?」

「男性にはわかりにくいかもしれませんね。でも安心してください。ちゃんと魔力は流れていますから。もし不安なら魔力を直接流してあげてみてはどうでしょう。受け取る意思があるなら問題なく吸ってくれるはずですよ」

「そういうことならばッ!!」

「えっ? キャンッ!?」


 搾りだすように魔力をくみ上げて手のひらに全力で集中し、両手に包んだチェリーに魔力が流れるように意識する。魔力のみを放出するのは初の試みだったので加減がわからず結構な量が漏れ出ていく気がした。


「キャアーン!!」


 背中から女児とは思えない艶めかしい鳴き声が聞こえたが気にしてはいられない。


「アッ! なに、これっ、お股が、あっああっああっ、熱いっ、ひぃいっッ、クァアアアン!!」

「二人は相性がぴったりなのねぇ」


 リンさんの意味深長なセリフとレイの嬌声。ほとばしる魔力と色艶を取り戻していくチェリー。背中に感じる温かな何か。

 徐々に光を放ちだしていたチェリーがひと際眩く輝く。アリーシャが俺を治癒してくれた時と同じ光景だった。ゆっくり瞼を開くと、両手にいたはずの丸いおっぱい状の精霊は姿を消しており、どういう事なのか小さな人間が立っている。


「すごい……精霊が大精霊に変化しています。こんなこと生まれて初めて見ました」


 珍しく興奮気味に語るリンさん。状況を飲み込むのに苦労をしている低スペック脳な俺。

 チェリーらしき小人は自分の身体を確認して回転したり飛んだりしている。見上げたところで俺と目線がかちあうと、両手を頬にあてて満面の笑みを贈ってくれた。


「チェリー!」

「チェリ……え!?」


 そう言って胸に飛び込んでくると俺の体に入るようにして姿を消してしまう。どこへ消えたのかと探していると、背中が軽くなっておりいつのまにかレイが除霊されていることに気づく。


「あれ、レイもいなく――」

「あらあら」


 ――いた。





 レイは大股を広げて床に倒れていた。盛大にお漏らしをして床に聖水をひろげて気を失っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る