第15話 チョコミント味の飴玉
だったら、発信機を一度自分の世界に戻って取って来ればいいのではと言うと。
異世界転移装置はかなりのエネルギーが必要で現在は出来ない。ただそれ以前の問題に、異世界転移するための装置も発見機と同様に置いてきたらしく、新しく作ろうにも材料がないため使用も作製出来ないらしい。
「えぇー。じゃあ、これからどうするんです?」
「ふむ。そうだなぁ。ダンジョンでも行く?」
「いや、俺たち、ダンジョンに行きたくても冒険者ギルドに所属してないですし、登録出来ずじまいの無所属戸籍なしじゃないじゃないですか」
「ふっ、考えが庶民だな、タマキ君。そのくらいの技術はこの天才発明家ミント博士がカードを偽造するくらいわけじゃないのだよ」
「おおっ! よっ、ミント博士!」
「いやー、そんなに褒めても偽造カードしか出ないよ。まあ、インターネットのサーバーに自分たちの名前を登録するわけじゃないから使えても数回くらいだと思うけどね。それに見つかれば警察機関に捕まるのは避けられない事実になるだろう」
「なんですか、全然使えないじゃないですかこの人」
「おいおいタマキ君。そんなこと言うなら君こそ何か出したまえ」
「俺が?」
俺は発明家ではないからなぁ。
正直、偽造カードは絶対に使いたくはないが発明品として考えるなら普通にすごい。
何かないのかと両手をポケットに突っ込む。
「ん? 何だねそれは?」
出てきたのはスライムの
「スライスの核とチョコミントの体液で作られた宝石」
「……へぇ? はあああっ!? おいっ、何故そんなに、ぼ、ぼくの……を平然と持っているっ! ……い、いいか。ゆっくりだ。ゆっくりでいいから、こちらにその宝石を返したまえ」
ミント博士は動揺が隠せないご様子。それはそうだろう。自分の絞りカスみたいなものなのだから。
ダンジョン病は自分のエネルギーを外側へ放出し自分自身を守るように
言うなれば、汗とも言えるし、爪とも言えるし、涙とも言える。その他の排出物とも言える。
その慌てる様子を見た俺は追い打ちをかけるように。
「どーっちだ?」
両手を握り、チョコミントの前に手を出す。
その中には現在、先程ポッケから取り出したスライムの核と世界で一つしかないチョコミント液の宝石。
二つの大きさはそれほど変わらず、引ける確率は二分の一。
「さあ、天才発明家のミント博士。どっちだど思います?」
「ぐぬぬ。ま、まあ? ぼくくらいになると天才過ぎるがあまり幸運にも? 愛されているから? よゆーなのだよ、余裕。ええい、こっちだ!」
博士が指を指したのは左。
俺で言う右手。
右手の手の平を開ける。
「ブッブー、残念。不正解でーす」
「くっ。……べ、別にハズレたから何だというのだね。いいからそれを渡したまえ。その宝石は元を辿ればボクの所有物のはずだ」
「わかりました。ふざけてすいませんでした。はいこれでいいですか?」
渡す直前、背中で見えないようにして右手と左手の中身を入れ替える。
「ああ、ありがとう。そ、その、なんだタマキ君、ダンジョン病から助けてもらったのに怒鳴ってすまなかったね…………ってこれスライムの! ええい! 返せ! だから変態って言われるのだよ!」
「いや、ここで変態は関係ないですよね!?」
その後、流石に長く触っていたくなかったので返した。
「ふむ。なんとも不可思議な石だ。実に研究し甲斐のありそうで心弾む気持ちだ!」
「あのー、それ売りましょう? ご飯奢りましたよね」
「はて? 今、幽霊現象が起きたかね?
……ああ、なんだ幻聴か。ぼく、耳は悪くない筈なんだがねぇ」
「ご飯奢ったんで、お金返してください」
「ふむふむ。興味深い石だなぁ」
「お・か・ね!」
「うるさいよ。聞こえているとも。だから大声は勘弁してくれ」
チョコミント博士が宝石を調べ始めた。
その結果、石には「願いの力」が込められていることが分かった。
俺は「願いの力」についてまったく知らなかったので説明を求めると、
「願いの民と呼ばれる種族が持っている力さ」
博士は続けて話す。
「願いの力はこの世界にない異界の力。それがこの世界に流れたということは、間違えなくぼくの発明品もこの世界に流れていることだろう」
俺は言い回しがしっくりこない
「まあつまりは、ぼくの世界の何でも叶えることができる力の宿った石が君たちの世界に……目の前にあるということだよ」
何でも願いが叶う? だって……?
ということは、お金持ちになれたりも?
「うむ。可能だよ」
うぉおお! 流石はファンタジー世界。
なら、俺の願いを聞いてくれ。
「俺を男にしてくれないか」
「……な、何故だね。君は生物学的に女性のはずだが」
「いいから、いいから」
「や、やめたまえ、タマキ君。笑顔を見せて盗もうとするのはやめたまえ。普通に怖いから」
俺たちは取り合いになり、お互いの体力が尽きるまで続いた。
お互いに体力不足だったため想像よりも長くじゃれ合ったというわけではないが。
それから話し合いをすることに。
結果「願いの力」は俺たちがこの世界に戸籍があり、今まで普通の一般的な日常を送っていたという改変を願うこととした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます