第14話 リコーダーと便座カバー
はあ、午後も暇になってしまった。
どうすっかな。
バイトがなくなり、俺は一週間後に喫茶店から出ていくこととなった。
よって無職。ニートである。
大迷宮に行くには冒険者ギルドで登録しなくてはいけないので、行くことが出来ない。
では、ダンジョンはどうか。
ダンジョンの中でも危険度が高いものはギルドが取り締まるらしいがだいたいは危険度が低く、小さな子供でも魔物に勝つことが出来るため見張りの人はおず、誰でも入ることが出来る。
それにダンジョンは大迷宮とは違い、場所や時間は関係なく生み出される。
生み出されたダンジョンは場所によっては放置されるが、八割の確率で宝石の中に眠る人間ごと破壊される。
残った宝石は高値で売れることもあるためダンジョンが残っていることはまれである。
現在の科学では解明出来ない病気だ。
俺は戸籍がないので大迷宮に行けないがいつかは行ってみたいと思っている。
「
「ぼ、僕はあそこ以外知らないです。ダンジョン病になる人自体が多いわけではないから……。うぅぅぅ、あの、僕はこれで失礼します。……女の人と話をしちゃったよ。うっ、は、吐きそう……」
ん-、やっぱりダンジョンは珍しいものなのか。
まあ、ダンジョンに行くくらいなら大迷宮に行くしな。
俺はやることがなくなって暇である。暇ならバイトしろってね。
出来たらやってるよ。うん。
でも、バイトを探さなくてはその日暮らしで路上ニートだ。
早めに探さないと。
「おや。君は……。ダンジョン化してしまったボクを助けてくれた、ええーっと、名前は……そう! タマキ君だったね」
「そうですけど……く、君ですか?」
俺、一応外観は女の子ですけど。
「ああ、これはぼくの癖でね。あまり気にしないでくれたまえよ、タマキ君。それとぼくの名前を教えてなかったね。
ぼくはチョコミントだ。よろしく頼むよ」
冗談みたいな名前だ。何を考えて両親はその名前を付けたのか。
チョコミントは手を出してきたので、握手する。
「よ、よろしくお願いします」
「うむ。それでね、タマキ君。ぼくはね。この世界の住人ではないんだ。そんな忙しいボクがわざわざこの世界に来た理由あってね。
ぼくの発明品がこの世界にあるみたいなんだよ。君は知っているかね、この世界で言うところのリコーダーと便座カバーを」
俺はこのちみっこい少女の発明品をこれっぽっちも知らない。が、既製品のリコーダーと便座カバーなら知っている。
とりあえずそれではないのかと、自分もバイト探しに忙しいからと突き放すように言う。
「あそこで売ってますよ」
「おお! それは本当か! ならば行くぞ、タマキ君!」
何故か、どこにでも売っているであろうリコーダーと便座カバーを買いに俺までショッピングモールに行くことに。
俺はチョコミントという少女が真の異世界人であるか信じれなかった。それ以上に年齢が中学生くらいに見えるのでそういう勘違いしたお年頃なのだと思われる。
まあ、俺は転生者だし! 主人公補正のようなもので導かれたのかもしれないので今は彼女について着いて行ってみようと思う。
「ふおお〜! ここが噂に名高い日本人のショッピングモールとやらか〜! ん? まさかこれは!」
「えっと、なにか珍しいものでも?」
「こ、これは〜! ふぃ、ふぃぎゅーあではないか!」
「フィギュアですね。そこまで珍しいものでもないと思いますが……」
「何を言ってる、タマキ君」
「えっ」
俺、おかしいこと言ったか?
「タマキ君。見たまえ、この造形を。無駄に洗礼されているだろう。そして何よりも絶対領域に込められた無駄にして無駄のない技術。素晴らしいと思わないかね」
「はあ」
「ぼくはね。こことは異なる世界でふぃぎゅーあを初めて見たんだ。見たときぼくは思ったんだ。
これは非人道的に小人族を固めたものなんじゃないか、何故そんなに自慢気に見せびらかしているんだと。でもそうじゃなかった。それは人形。人が作ったものと後から聞かされた」
「はあ」
「ふむ。まあ、つまり、この世界のヤツらヤベーなって思ったわけさ。便利のための開発ではなく、暇を持て余した発明家たちの変態技術にね」
「な、なるほど」
「ぼくも発明家の端くれとして負けてられないなと言うわけさ」
えっ、それだけ?
まあ、すごい技術なのはわかったけど、途中の自分語り必要だった?
「よし、次へ行くぞ!」
「まあ、行きますから、そんなにはしゃがなくても付いていきますよ」
◇
「何だこれは! ぼくの発明品にすら及ばない贋作ばかりではないかっ!? ふむ、タマキ君。的外れも良いところだぞ。ぼくの発明はこんな量産型ではなくてだな。ぼくがまごころ込めた一点張りの発明品たちだぞ、舐めているのか」
「いや、俺は発明品を見たこともないので。リコーダーと便座カバーの売り場まで案内しただけなんで……そんなに怒らないでもらえます?」
「ま、まあ……そうだな」
ぐぅぅ〜。
今の音は俺ではない。
「っ、い、いやな? ぼくはね? 昨日から飯抜きのダイエットを始めたのだよ。だからな、決してお金がなくお腹が空腹を感じているわけではなくてだな……」
「そうですか。じゃあ俺だけファミレスでご飯食ってきてもいいですか?」
「まあ待ちたまえよ、タマキ君。こんなに助けを求める音が聞こえるのに見捨てるのかね。慈悲の心はないのか、異界の者よ」
「あー、俺って今、金欠どころか奢る金すらないケチな女なんでね。他をあたってください」
「まあまあ。待ってくれたまえ。そうだな、君はなにか困っていることはないかね。このチョコミント博士が解決してやろう」
「そうですね。現在、頭のおかしい中二病の少女に付きまとわれてることですかね」
「ふむ。それは大変だな。よし、ミントお姉さんが環君の悩みをぱぱっと解決してみせよう」
「それは嬉しいです」
「それでその少女はどこにいるのだね。どこにもいないみたいだが……。ん? 何故こちらに指を向ける? ぼくは天才発明家のチョコミント様だぞ。そのー、ちゅうにびょーという病気は患っていないからなっ! ……だからな?」
「はあ。まあどっちでもいいですけど、頼むメニューは一品だけですからね」
「!? ああ! もちろんだとも」
◇
「う、美味い! さ、流石だ、変態の国」
「ミントさん。その言い方だとですね。俺まで変態ってことになりますので『変態の国』というのはやめてくれません?」
「はて? ぼくは事実を言ったまでだが?」
「なっ!?」
「だってそうだろう。ダンジョン病という病気はこの世界の技術では治すことができないとされている。だが、君は僕の病気を治してみせた。それを変態と呼ばずしてなんと表そう」
「いや、それだったら聖女とかでもいいじゃないですか」
「それだと、本物の癒し手が可哀想だろう」
「俺はいいってことですか!?」
「まあ落ち着けよ、タマキ君。実はな、発明品を探すついでにダンジョン病を少し調べてみたのさ。そしたらなんと驚きの事実が判明したわけさ」
「そうなんですか」
「それは四日前の出来事。ダンジョン病がどこからともなく、誰にも気づかれることなく自然にこの世界の一部であったかのように、ぼくや君の記憶に刷り込まれていたのさ」
「なるほど?」
よくわかんないけど、この人すぐに自分語りするなぁ。
「簡単に分かりやすく言うと、四日前に世界は一度改変されたのさ」
「はあ、だから何なんです?」
「つまり、ぼくの発明品はその犯人が持っているに違いないっ!」
「じゃあすぐに見つかりそうで良かったですね」
「わ……なぃ」
「えっ、なんですか?」
「だから! 分からないと言っている! 元いた世界に発見機を忘れて来ちゃったから犯人分からない!」
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