第13話 へい姉ちゃん。ウェーイ、アテンションプリーズ / 植え付けられた記憶と忘却せし思い出
午後。
俺は初めての喫茶店アルバイトをする。
「あら~、新しいウェイトレス? 可愛い子ね。お仕事頑張って頂戴ね」
「は、はい! 頑張らせていただきますであります!」
「あらあら、緊張しているのかしら」
つッ〜、初めてのバイトだから仕方がない。そう、最初は失敗の連続があってこそ成功へ導けるのだ。
一つの失敗でくよくよしてどうする。始まったばかりだぞ。
「それじゃあ、注文お願いするわね。サンドイッチとコーヒーを一つずつお願いします、ウェイトレスさん」
「わかりました!」
俺は、注文用紙に書くことはなく謎のテンションのまま喋り出す。
「マスター、サンドイッチ一丁! インスタントコーヒー入りましたぁ〜!」
それを聞いた店内のお客様は「おいおい、コイツ正気か!?」と思ったそうだ。
それはそうだろう。寿司でもなければラーメン屋でもない、喫茶店なのだから。
俺が過ちに気づく頃にはとき既に遅し。
このとき思ったね。
俺のテンション、アテンションってね。
震度五弱くらいの警報音が俺の頭に鳴り響いたね。
ウェイトレスでウェーイみたいな気持ちだったよね。
例えるなら、子どもが新しくオモチャを楽しみにしてるときだったり、深夜テンションでラーメンを食べながら麻雀の国士無双で一人勝ちして喜びのあまりモニターをぶっ壊したときの気持ちだったね。
あ、店長! おっと違った。へい、お頭! 違うそうじゃない。
マスター、こちらへなんの御用で?
俺は両手を悪徳セールスマンの如く合わせ、スリスリと動かす。
それを、
店内にいた勉強中の学生、子連れの主婦、仕事先のためのレポート作成者、今日が初見の若者、すべてが二人の状況に固唾を呑んだ。
「ど、どうしましたでしょうか、大将。……いいネタ上がってますね。マス、マスター」
◇
「とほほ、俺は悲しい。何故、クビにされたのか……」
最後の追い打ちがまずかったか?
俺、ゲームの喫茶店RTA走ってた?
寿司のネタからのマスのダジャレ。いいネタだと思ったんだけどなー。
まあ、人には食べ物と同じように好き嫌いがあるし仕方がない。
マスターは口がまだまだお子ちゃまなんだろう。
◇
深夜のラーメン。
それは人類悪の中で究極にして最悪。
人間が冒した罪で最も責められるべき罪である。
その罪はあの七つの大罪より重い。
更にはあの伝説の極悪。
縄文時代の遊び「俺、竪穴式住居持てるんだぜっ」事件以上とされている。
それでは、一口。
「ズズッ。ズズッズ〜。こ、これは! 太麺のコシのあるモチモチとした食感。太麺によって絡まる汁。喉越しの良さ。なにより、この時間帯による背徳感! 俺は今、世界で誰よりも幸福だっ!!!」
この例から分かるように、深夜帯での興奮物質の放出。糖分と脂質を求め続ける無意識的洗脳。
ここまでの罪を何故!
国は野放しにしているのでしょう!
革命の時です!
立ち上がりなさい皆のもの。
ん? ……何故、何故立ち上がらないのですか。
え? 重くて動かない?
んー、なら仕方ないですね。
では、私だけでも!
えーっと、私。
テヘペロッ。
公務執行妨害で罪貰いました。
※このキャラは環ではなくモブキャラです。
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