第16話 自称、肉を食せないベジタリアン

 可変する世界。

 俺たちは冒険者ギルドで登録することが出来たため、大迷宮に行こう賛同し合い、行くこととなる。


「八大迷宮ってどんなところなんですかねー」


「ふむ。ぼくもこの世界の迷宮を行ったことはないが、元のいた世界では魔物を倒してその素材を売るのを生業にしているものや財宝を求めて冒険するもの、戦闘狂なんかが多い印象があるなぁ」



 ◇


 第七の大迷宮、第一層。


 ◇



 ここが大迷宮か。


「そういえば、タマキ君は攻撃手段があるのだよね?」


「ありますよ。スキル【分解】【固定】」


 地面に落ちていた岩を手で触り分解。岩が砂に変化する。


「ふへー、すごいではないかっ! 砂になってしまったぞ。っ、おっ、おい。身体が動かないぞ! ど、どうなっているんだ! すごぉぉぉ!

 ……じ、実に、実に興味深いスキルだなっ!」


「いとおかしですよねー」


「いとおかし? 何だねその言葉は? さてはあれか、ぼくが動けず滑稽でおかしく見えるみたいな言葉か?」


「いえ、愛おしくおかしな顔で身体が固定されていて、第三者的に見ると頭がいとおかしいって意味です」


「嘘をつけ。ぼくはどんな表情でも可愛いに決まってるだろ」


「何ですかそれ。顔にかなりの自信がある感じですか? まあ、本当はとても興味深いって意味合いなので、俺はただ、ミント博士に共感しただけ何ですけどね」


「はへー、そうだったんだー。……ってもういいから【固定】を解いてくれたまえ。腰が痛い」


 ミントはよほど腰が痛かったのかお婆さんのように腰をトントンしている。


 その後ミントは俺が攻撃方法があると分かると、俺の後方に位置を整えた。


「さあ! 行け、タマキ君!」


「いや、何故後ろにいるんです? 発明家なら自分の発明品で頑張ってくださいよ。まあ、別にいいですけど……」


 そう、別にいいんだ。

 なんたって俺のスキルは最強だから。


 【固定】からの【分解】。それで無問題。

 シナジーの取れすぎたコンボスキルたちがあるのだから。


 もし俺が負けることがあるとするなら、【固定】の通用しない距離からの遠距離攻撃や視界外、疾すぎて目で追いきれなくて【固定】出来ないときだけだろう。


 つまりは最強。



 そして現れる敵――肉を食せないベジタリアン。

 緑色なことから緑葉色野菜が大好きをキャッチコピーとする魔物。


 ゴブリン。


 何故、ベジタリアンなのに人間を襲う理由はドリドリみどり学会も未だに分かっておらず、一説には痩せこけているだけで実は肉食な魔物ではという説も微レ存で存在する。



 ゴブリンの動きはアスリートのように洗礼されてはいないが野生動物と人間の知性と俊敏をフィフティフィフティしたか、してないか、ピンポンダッシュしたくらいとされている。



「【固定】。そして、【分解】」



 ゴブリンは動けなくなり、肉体だけが分解され、魔石だけがその場に残る。


 ふっ、完璧だ。

 俺は勝利の余韻を噛み締める。


「タマキ君。たった一回の戦闘で何、ラスボスを倒しましたみたいな雰囲気を醸し出している。今からそんなことをやっていては、次の層へ行くのにどれだけの時間が掛かる。さっさと行くぞ」


「はあ。ミント博士は何も分かってないですね。たった一回と言いましたが最初の一歩なんです。つまり、冒険の始まり。それを今全身で味わっているんです」


 俺は手を目一杯に広げ、世界を感じる。


「いやーね。確かにそういうのはあるよ。ただね、タマキ君。それって激闘の末だったりとか、ヒロインと主人公が出会うシーンとかだから感嘆するわけで、タマキ君は瞬殺。余韻もクソもないのだよ」


「はあ、何やってるんですか、ミント博士。早く行きますよ。こんなペースじゃ、いつになっても迷宮を攻略できませんから」


「調子がいいな、タマキ君」



 それから着々と進んだ。

 俺たちの行進はゴブリンたちでは止めることはできない。



「タマキ君待ちたまえ。ここに隠し扉がある」


「でも、ここって第一層ですよ。もうお宝は取り散らかしてるかもです」


「ええい! 御託はいい! 進め! 隠されし財宝がぼくの所有物になりたがっている!」


「博士のものになりたいかは定かではないですけど……まあ、行きましょう!」


 歩みを進める。俺たちに後退の言葉は存在しない。


「ほら、やっぱり俺が言った通り宝箱の中身はなかったですね」


 隠し扉の奥へ進み、宝箱は見つかったものの、既に開いており中身は空。


「ふむ。ま、まあ、仕方あるまい。次だ次」


「じゃあ戻りますよー」


「うむ」


「罠があるかもですから、気を付けてくださいよ」


 カチッ。


「ふむ。すまない。踏んでしまったようだ」


「何、落ち着いて『ふむ』ですか。言ったそばから。もっと反省する感じで言ってくださいよ。戦闘するのは俺なんですからっ!」


 あ、これって、モンスターハウスってヤツだぁ。


 四面楚歌。俺たちはどこを向いてもベジタリアン。魔物たちの巣窟というヤツだ。


 自称ベジタリアンなら、俺だけでも襲わないでくれないかなー、なんて。


「ギャッギャー」


 多くのゴブリンが俺たちに突撃。


「た、タマキ君! これってもしかしなくてもピンチってヤツではないのかっ!」


「【固定】。どう見たって絶対絶命ですっ!」


 俺は【固定】をし続ける。俺のスキルは背中に目玉がない限り後ろからの敵に固定を使うことが出来ない。かつ、一体ずつしか固定は使用できない。


「【固定】! 【固定】! 【固定】!」


 眼の前には緑色の固定された肉塊たち。

 その肉塊で俺たちの視界はどんどん埋められていく。


「逃げますよ! ミント博士! こ、【固定】!」





 それから俺たちは何とか逃げることが出来た。

 はあ、ベジタリアンなら農業やれよぉ。


「ふむ。よくやった、タマキ君。褒めて遣わす」


「いや、元と言えば…………ふ、ふうー、まあいいですけど。俺も慢心しているところがありましたし」


 その後迷宮を出て、初めての迷宮攻略は終わりを告げた。


「あれっ? 俺たち全然、お金稼げてなくない……?」

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