第6話 早くお家に帰りたいですわ

 二人が争う状況に挟まれた俺は言わなければならない言葉が存在するのはご存知だろうか。


 それはタンスの角に小指を当てて痛いと叫ぶように。

 コーヒーを飲んでたせいでひつじを数えても眠くならないように。

 この言葉を言うことは至極当然の行動だ。

 

 正直この場から一秒でも早くとんずらしたいが、この瞬間でしか使うことが許されないとされる言の葉を発していこう。


 魔王と魔法少女を挟まれる場所にいる俺。

 この黄金比率と言う他ない夏の大三角形。


 それは、


「わたくしのために争いごとのはめっ、ですわ!」


 俺はふっ、言ってやったぜという達成感に包まれる。

 達成感はあるが、魔法少女vs魔王の状況は変わらない。


 と、俺のテンプレ発言でか「おい、お前の知り合いか? ならどうにかしろ」と言わんばかりに魔王と魔法少女の目が交差し合い、お互いに困惑を覚えさせられているように見える。


「え、えっと。君は誰? こんなところにいたらあぶないから、早く逃げて」

「うむ、そうだな。さっさと立ち去るがいい」


 おい、何故敵同士のはずのヤツらが仲良く俺を追い出そうとしている。

 それだと俺が可哀想な子のようではないかっ。


「のーほっほっほ! 誰が馬鹿ですって、わたくしは貴方達を止めるためにここに来ましたのよ」

「いや、誰もバカとは言ってない……。それより、貴女って魔法少女でしょ。わたしが知らないってことは魔法省に登録していない野良の魔法少女だと思うけど。魔法少女なら、というか人間ならどうみたって魔王が敵でしょ」

「うむ。かかって来るがいい、挑戦者たちよ!」


 え、仲よ。怖いくらいに仲良しだな。もしかして舞台裏で口裏合わせている感じ? 空気読めてないのって俺? お前邪魔だからさっさとどっか行けっててこと? なら家帰るか。


「わたくしは【調停者】。貴方達を止めてみせますわ」


 おいい。なにが、止めてみせますわ(キリッ。だよ。

 勝手に俺の口が動くんだけど。こわ。それに舞台キャストに迷惑だろ。

 なにしれっと自分もキャストなんで入れさせてください、みたいな雰囲気作ろうとしてるんだよ。慎み持てよ。俺の口。


 と、考えたものの、この戦いは言わば兄妹喧嘩である。

 俺が止めちゃいけない道理はない。

 舞台に上がってしまったからには仕方ないので、


「スキル【ダンジョンマイスター】」


 そういえば、というか今頃だけどマイスターってのはあれでしょ、お米マイスター。国家試験に合格した人のこと。つまりあれか。俺はダンジョンのプロフェッショナルってことか。やったね、試験をせずとも合格したよ。


 俺が完璧な思考を繰り広げている間に、使ったスキルを警戒している二人。

 二人共警戒してるけど、スキル使って結構時間経ってるけど特に何も起きてない。


 鍵を出すだけのスキルだからね。

 俺に調停してほしいって割にサービス不十分だよね。

 例えば、安全地帯からの最強とか、モンスター軍団で蹂躙しつつ、俺は家。みたい能力になってほしい。



「これはどういう状況でしょうか。解説のシロさんどう思いますか」

「必殺技がなくなったー」

「そうなんです! 調停者と名乗る一人の少女によって二人の全力攻撃は消滅したのです。

 おっ! ここで魔王様による念話鑑定情報が入ってきました」


 魔王は何もない空間からモノクルを取り出して俺を見つめる。


「彼女はなんでも、魔王様の身内だそうです!」

「魔法少女ハウメアと同じー」

「昔は魔王様とハウメアさんは仲良かったんですがね〜。どうして喧嘩し始めたのでしょうかね」

「魔王様プレイの変態さんだからー」

「なら、仕方がないですね」


 魔王――兄、士和とわは俺に話しかける。


「ぷっ。 まあ、なんだ……。お前も我のように何か面白いことをしているようだな」

「うぅぅぅ……。恥ずかしい。兄さんたち頭おかしいよ」

「い、いや、わたくしはこんなことやりたくてやったわけでは……」

「ノリノリだな」

「わたし、早く兄さんたち殺してわたしも……」

「!? 落ち着いてくださいまし。と、取り敢えず、話し合いが必要ですわ」


 兄に笑われた。

 それは、俺の気持ちを無償にムカつかせる。


 何故だか、面白いことを愛する一人の変態が「ここまで来いよ」と言ってるみたいだったからに違いない。

 俺は変態さんにはならないと心から誓いを立てた。



◇◇◇



 望月家にて。

 家族会議の開催が宣言された。


 俺は金髪ロング、紺色の目。幼児の容姿ではあるものの紛れもなく美少女の姿の変身を解除する。


 兄は魔族がしていそうな謎の角に、謎の骨で作成したと思われる翼。ラスボスが着ていそうな衣装を着替える。


 妹は青白い髪、フリフリドレスにリボンを付けたどこか神秘的な服装の変身を解く。


 その会議ではこれからどうするのかについて議論された。


 内容として、兄と妹の目的が俺に告げられる。

 そして、俺はどうするかを語る番となった。


「俺はコスプレとか興味ないし、変身ヒロインもなりたくない。二人は好きに好きなことやっていい。俺はもう迷宮には関わらないから。

 俺に構わずやっていてくれ。こっちも好きに引きこもるから」


「えっと、わたしも変身とか興味ないし、これまでは仕方なく変身してただけで……し、仕方なくなんだからねっ! いい、たまき。そう、決して変身したわたしが好き、とかじゃないんだからねっ。わかった?」


「わ、わかった。うん。圧が強いな彩芽あやめ。ま、まあ、そういうわけだから、よろしく」


「えー、でも、わたしはともかく、環はせっかくかわいくなれるんだからやってよー」


「僕も彩芽の意見に賛成。すごくいいと思う。そのほうが面白いし」


「いやだから……」


 迷宮に関わるのを辞めようと言うところで、士和とわが話し出す。


「そうだ! 僕の仕事手伝ってよ、調停のお嬢様」


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