第5話 俺、兄妹の仲介人に進化しそう

 俺は失敗した。冒険者を、というか人間を信じていた。信用していたんだ。

 それがいけなかった。俺の稼いだ金返せよ。


「いや、あれは私のよ」

「お盗まれた、ですわ~。くぅうう、悔しいですわ」



 冒険者。迷宮が出現したことによりその仕事は出来た。


 迷宮が現れたことで人々は混乱するかに思えたが、魔法少女や闇の侵略者との聖戦のおかげか驚くことはなかった。


 冒険者の仕事を担うものは名誉が欲しいだけの自殺願望か。はたまた迷宮を神の試練だと思考した、危険を顧みず冒険し続ける武者修行者か。それとも迷宮の宝、一獲千金を求めるものか。


 現代で冒険者になるためには冒険者ギルドと言われる政府公認の民間企業で登録しなくてはならない。そうしなければ迷宮に入ることは出来ずスキルを手に入れることはできない。


 俺は登録はしていたものの味噌漬けのように置物と化していた。


 冒険者は一般人よりは暴徒に走りやすいが、時代は現代。異世界ではない。そこまでの荒くれものがいるわけではない。

 しかし、大いなる力というのは人の惑わす。


 そう、あれは俺が変身を解除してガチャで出た、聖剣エクスカリバー、八咫鏡やたのかがみ、ミョルニルハンマー、銅剣を売りに出そうと冒険者ギルドに行く途中のことだった。


「おい、兄ちゃん。いいもん持ってるな」


 手に抱えられた武器たち。布で包まれているが、隙間から見える明らかに値打ち物の数々。

 目をつけられた。変身前の俺はハッキリ言って滅茶苦茶に弱い。夏休み中は家から出てないくらいだしな。変身後の俺も、身体スペックについては定かではないが。


 あと人前で変身したくない。男が女になるところなど誰が見せたがるものか。

 それに変身したとて、勝てるかも分からない。


 結果、盗まれた。

 うぉぉぉ。俺は叫んだ。未来のパラダイスを想像しながら、訪れるであろう楽園を考えていたんだ。

 で、俺すごくね、と持っている物を自慢するように、チラチラ周りに見せびらかしながらゆっくりと歩いていた。

 働いたら負け。負けなんだ。そう思いながら道を進んでいた。

 すると、イカツイ兄ちゃんたちに絡まれたと言うわけ。


 ん? 待て。俺は今、伝説宝具を盗まれそうになっているが、それでもいいんじゃないか?

 だって、あの兄ちゃんたちは働いたら負けと思っているいわば同類だ。そう考えると俺のガチャ強盗も同じ盗みであるが。

 じゃ、ま、いっか。偶然手に入れたものだし。最高の同士に物が渡った。それでいいじゃないか。

 俺は無理矢理その状況を許容し、今この状況を極力思考しないで別のことを考えることにした。


「あ、そういえば。私、アンタの家に住み込みに行くわ」

「何故ですの?」

「何故ですの? じゃない! 私が生活する上で必要なポイントをっ! あれはいわば私にとってのお金だったの! それを全てアンタがガチャで使ったからでしょうが!」


 後から知ったことだが、ミソラはダンジョンマスターだったらしい。だったというのは俺がその権限をはく奪したから。それで、ダンジョンマスターはダンジョンポイントというダンジョンシステム内にあるポイントで生活をしている。



 ◇◇◇



 あの同士の邂逅から数日が経過したある日のこと。


「アンタってホントに何もしてないわね。アンタが男だったことには驚いたけど、今となってはどうでもいいわ。それより、出かける準備をしなさい。面白いところに連れてってあげるわ」


 えー、これからアニメが始まるのに。


 あの日から俺はまだ迷宮に潜っていない。俺の決意はチョコレートである。



 俺が連れ出された場所はなんと、六つの塔の中心。遊乃宮市に建造物を構える漆黒の神殿迷宮の地下五層。

 五層はコロシアムになっており、この迷宮の最下層である。


「さあ! 今週も始まりました! 魔王様VS魔法少女のお時間です。実況はお馴染みの赤石アカと~」

「白石シロちゃんでーす」

「いや~、この戦いも見飽きる程見てきましたね」

「そうだねー」

「既に戦いは始まっています。おおっと、魔法少女が攻める、攻める。だが届かない。激しい攻防線です」

「魔王様、避けるねー」


「まあ、ここではいつものウォーニングアップのようなものですからね〜。その間に恒例となった二人の能力を説明をしていきましょう」

「まずはー、魔法少女ハウメア」

「救世の英雄様ですね。相手が魔王様じゃなければ強いんですよ。ハウメアさんは無属性魔法、単純な魔力の塊を扱うのが得意な魔法少女で、数多くの敵を倒してます。収束魔法をよく使うイメージがあります」


「次に魔王様でーす」

「魔王様は元勇者で能力は【次元収納】【限界突破】の二つです。元勇者なだけあって、いかにもな能力ですね」

「魔王プレイしてるコスプレの変態さんだけどー」

「魔王様は魔王プレイの一環として、異世界から持ってきた”魔王の玉座”に座り、その玉座に対して【限界突破】を使用することで、闇属性魔法を使用できます」

「何言ってるのー」

「私にもわかりません。きっと玉座にしみ込んだ記憶を能力に昇華させたのでしょう」


「そもそもの話、何故戦っているのでしょうか」

「それはー、忘れた」

「そうですね。忘れやすい設定です。ですが、この闘技場で最後の敵を倒せばありとあらゆる願いを叶えるという設定が存在します」


「でもー、英雄様が叶えたい願い、ある?」

「それが一つだけあります。迷宮を消す事。正しく言うなら、空中に浮かぶ魔法陣――欲望の顕現装置の消去」

「魔法少女ハウメア、何故それをー?」

「それは魔法少女が討伐した世界破壊者――闇の侵略者の復活の阻止」

「なるほどー。その装置の破壊を目的としている訳かー」



「でー、戦闘の実況」

「おおっと、そうですね。私たちが話をしている間に戦闘も最終ラウンドに突入中です!」


 俺は実況を右から左に流しながら、一般人の観客として息をひそめて魔法少女vs魔王を見ていた。


 その迫力は映画ならポップコーン待ったなし。

 現実なら、どうにか関わらないように他人のふりをすることだろう。


 俺の手には手紙が握られている。


 これは調停者になったときにズボンのポケットに入っていたものだ。


 内容を要約すると――


 俺の兄妹の調停をしろ、である。

 俺には三人兄妹。

 つまり、二人の兄妹がいる。


 長男は異世界帰りの元勇者。

 妹、現役の魔法少女。

 俺、ニート。今は家族の仲介人に進化しそうです。


 差がっ。現代の平等主義はどこへ?

 はあ。ほんとため息が出る。

 はい、おつかれ。今日はかいさんでーす。解散。解散。

 まあ、そんな感じで家族格差を感じるのだが……。



 【――調停システムを開始します――】



「来ました! 魔王様の必殺技、【七武限界解放セブンス・アンリミテッドオーバー】です。明らかに魔王の技ではない! 続くように魔法少女も収束魔法の発動です!」


「ぴゅーーーー」

「救いは達成された。顕界せよ! 終息せよ! プラネット・バースト!」


「あれー、いつもならこれでおしまいなのにー」

「ですね。これまでは魔法少女が力尽きて終わるのですが……。……どうやら、乱入者がいますね」


 なんかここ爽やかだな、鼻につく匂いだが。


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