第7話 調停者としての宿命
いつもの変わらない毎日を享受しようとしていた朝。
その毎日に変化をもたらしたのは一通のメッセージ。
兄 : 外を見ろ、出番だ
一文しかない普通の文章。家族でよくある業務を伝えるだけ伝えて放置するような一文。たったそれだけで、俺は既に家に居るにも関わらず、家に帰りたくなっていた。
それは何故か、それは俺の物語に変化を起こしてくれそうで吐き気が止まらなかったからに違いない。
俺は変化する日常が好きだ。だが、変化していく宿命的環境の変化は大嫌いであった。
しかし、宿命から逃れることはできない。
例えば、小学生が中学生になる。いつの間にか二十歳に成っていて、社会人としての行動を心掛ける。
といった、時間が原因の運命的出会いのような。避けることは出来ても因果が巡ってしまう。そんな感じだ。俺の人生に課せられた宿命という変化を忌嫌い続けていた。
◇◇◇
家を出ると城があった。大きな大きなお城があった。
ちょっと俺も何を言っているか分からないが、昨日までなかった筈の王城と呼ぶべき建造物が立っていた。
王城へ向かう途中。
俺は公園で一休みを、
「みてみて、まほうのじん! ふたつになってる!」
「あら、ほんとね」
「ふえた! ふえたらどうなるの?」
「ふふ、きっと王様になれるわよ。紗希ちゃんは前からなりたがっていたわよね」
「えー! ほんとー! やったー! おうさま、なる!」
微笑ましいな。俺にもこんな時期が……あった気がする……?
「何、幼い女の子を見て笑ってるのよ。ロリコンなの? ねえ、ロリコン。早く城に向かうわよ」
「俺はロリコンではないが、誰しも守るべきものがある時、紳士となるのだよ」
「いいから行くわよ。日常異常者個性解放紳士」
『第二の魔法陣』
パンケーキを二段乗せたような見た目の陣が二つ。
その影響か定かではないが城が誕生していた。
兄から聞いた話によると、陣が増えていく事に「願いの力」が増加するらしい。
願いの力はスキルや職業をもたらす。つまりは、創造の具現化。魔法陣の最後はきっと、あんなことやこんなことができるようになってしまうのだろう。R-18にならないよう願うばかりだ。
◇◇◇
どうもこんにちは。こんばんは。今、俺とミソラは牢屋にいます。
「兵士がいるのに、城に入るのは捕まえてくださいって言ってるもんだろ」
「仕方がないでしょ、私たちの目的が城にあるんだから」
「その前に捕まってどうするよ」
「アンタの『鍵』で開けなさい。そのくらい朝飯前でしょ」
【ダンジョンマイスター】発動。
すると、いつの間にか鍵が握られている。
鍵で手錠をアンロックっと。
「ほら、問題ないじゃない」
「なあ、もしかして脱獄する感じ?」
「当たり前でしょ。さっさと行くわよ」
えー、脱獄かー、と牢獄の中を進む。
ふと俺は思う。
「この王城、迷宮になってないか?」
「そ、そんなわけないじゃない」
いや、普通に魔物が居るぞ。
「いやいや、いるわけないじゃない。ここは王城よ。警備兵もいたんだから幻覚でも見たんじゃないの? アンタ、目悪そうだし。……って、ホントに魔物がいるじゃない。それじゃあ、もしかしなくても迷宮になってる?」
「最初からそう言ってる」
「それならアンタ、ダンジョンシステムに接続しなさい。で、万事解決よ。よかったわね。早く終わりそうで」
確かに、ダンジョンシステムに接続すれば攻撃は効かなくなり、レッドカードを振り回すことができる。
ただ――
「俺、どうやってダンジョンシステムに接続するのか知らない」
「はー!? じゃあ、前回はどうやったのよ! 説明してみなさいよ!」
「あのときは無我夢中で……」
「しょうがないわね。いいから、とりあえずやってみない。やってみないことには分からないわ」
ん-。んー? っと、とりあえず唸ってみたが変化なし。
まったくわからん。ほんとに前回どうやったのだろうか。
そういえばその時、死にそうになっていた。俺はミソラの攻撃魔法で殺されそうになっていたはずだ。
「ミソラ。俺に向けて攻撃してくれ」
「どうしてその考えに至ったのかは謎だけど……。いいのね、全力でやるわよ」
俺は頷く。
よしこれで俺の無意識が何とかしてくれるだろう。
「じゃあ、いくわよ。カース・オブ・ライトニング!」
あ、あぶねー。
今度こそ死ぬかと思った。
「何避けてんのよ! それじゃ、意味ないでしょうが!」
いや、普通に避けるって。怖いから。
「あ!」
思えばあの時、変身してたじゃん。
チータブに鍵を挿し込んで。ってことはチータブが知ってるかも。
「なあ、チータブ。どうやってダンジョンシステムに接続するか知らない?」
『あれをやったのは自分です、マスター』
「えっ、そうなの。無意識のうちに身体が動いていたとかじゃなくてチータブがやってたのかよ。それじゃあもしかして、ですわ高笑いお嬢様になっていたのも?」
『……。……いえ、あれは仕様です、マスター』
おい。その間はなんだ。助けてくれたことには感謝してるけど、あのキャラ付けはなんだ。趣味か。趣味なのか。
もういいけどさ、救われたし。俺もゴミ以下の転生チートとか思ってたし。
さっさとダンジョンシステムにコネクトして家に帰ろう。
『では、変身してください、マスター』
アンロックっと。
【調停システムを開始します】
「のーっほっほ。わたくしは調停者。世界の意思をここに。可変する世界から解放して差し上げますわ!」
また、勝手に俺の口が喋る。しかも、決め台詞まで。
あのさ。俺に対してのいじめか何か? 正直言ってやめてほしいんだけど。ダサいから。
『マスター、これは仕様です』
うおっ。話せるのかよ。しれっと心読むのやめてほしい。
「いいからさっさとやりなさい! 早く。魔物がすぐそこまで来てるーっ!」
『では、マスターの持つ鍵をダンジョンシステムの核の鍵穴がそこにあると想像しながら迷宮オブジェクトに挿して開錠してください』
鍵穴を想像。そこにはダンジョンシステムの核があると。鍵穴、あな。アナザー。アナザーワールド。異世界。転生。転生チート。ゴミ以下。
おっと考えが脱線した。核。鍵穴。よしっ。
確かな硬い感触と差し込まれた感覚がある。
俺は鍵を回した。
◇◇◇
「まさかお城が砂になっちゃうなんて。私、玉座に座ってみたかったのに」
「魔王様に頼め、ですわ」
「いやよ。あの人、魔王プレイしているだけの変態じゃない。本物ではないわ」
「いえ、玉座は異世界魔王の物らしいですわ。ですから本物だと思いますけど……」
何故か俺が鍵を回した後、大きな大きな城は壁、床、玉座、すべてが砂となった。つまり、迷宮化していなかったということだろう。コネクトできなかったので。
ま、これで家に帰れるな。よかった。よかった。
「待て! オレ様の城を元に戻せ!」
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