第18話 遊び気に来た万年姫

 王都に出発する日を延期した。

 ひどく悲しそうにするエリカを見て「そんなに行きたければ勝手にメイファと共に行け」と、怒るわけでもなく伝えると「お義父様と一緒に行きます!」と返された。


 なら悲しむようなを見せるな。と言いたい。

 これだから女は怖い……もっとも俺はそんな顔の一つで騙されたりはしないし怖くもない、本当に怖いのはあの古代種のエルフだ。


 この国は呪われているのか? あんなのが1人は入れる警備など……いや例外か? しかし過去に逃げてしまえは俺の勝ちだ。

 

 久々に死ぬと気が滅入る物があるな。

 何百人も死んだ。その中で俺だけが生き残ったのだ…………これは俺が選ばれた人間だからと言う事だろう。


 …………死んだけどな。

 いや! 卑屈ひくつになっては駄目だな、考えを遮るようにコンコンと控えめなノックが聞こえた。



「……要件」



 短く返事を返すと「オージィ伯爵様来客です」とマーケティの声が聞こえてきた。

 俺は扉を開くと、まぬけな顔で立っている。



「俺はお前に休日を与えたはずだが?」

「え。は、はい! しかしですね、オーサ家、オージィ伯爵様の執事として……」

「馬鹿か、執事がいないのだ会う必要はなかった」



 俺が休暇を与えた事がただ優しいから。と、思ったのかコイツは。

 お前が休んでいれば俺は無用な用から解放されるのだ。それぐらいわかれ馬鹿。



「で、では。今から追い返し――」



 ああ、そうしろ! と言いかけて言葉を止める。いやまて……俺に客人? しかもマーケティが相手の名前を言わない。誰だ? 不幸自慢ではないが俺の交流関係は現在は少ない。

 町にいる主だった奴は俺も名前を知っているしマーケティだって覚えているはずだ。



「興味があるな。客間へ通せ……後お前は今から安め。突然に裏切られてもかなわんからな、3日後に必ず戻ってこい」



 部屋に置いてあった金貨袋をマーケティに無理やり渡すと裏口からさっさと出て行け! と追い出した。


 4階の窓からマーケティが外に行くのが見えた。そうだ、それでいい……さて、どんな奴が会いに来たのか暇つぶしに会ってやろう。



「なんだったら、殺された俺の怒りをぶつけてもいいしな。どうせ俺の所に来るような奴らは金の融資を受けたい奴ばっかりだ」



 1階の客間のドアを開け一歩中に入る。



「待たせたな。俺が鉱山地区の領主、オージィ=オーサだ! だれであろうが――」

「うそつきのおじさん…………探した」



 俺は勢いよく扉を閉めた。

 見間違いだろう、あの恐怖が残っているのに違いない。

 俺とした事がなんたるざまだ。


 もう一度客間の扉をゆっくりと開ける。古代種の女が俺をじーっとみては動かない。


 もう一度扉を閉めた。



「オージィ様どうなされましたか? 先ほど執事がお休みになると言われお客様に飲み物をお持ちしたのですが」

「っ!?」



 心臓が飛び出るとはこのことか、メイドのメリファが軽食と飲み物をいれたカートを押していた。



「いや……いい! 俺がやる」

「そうですか……子供の口にも合うようにと色々と――」

「俺がやる! その、怒鳴ってはいない……古い友人の子だ、当時赤ん坊だったのに大きくなったなー…………」

「そうですか、では用事があればわたくしに」



 メリファの言葉を手でさえぎる。



「いや、エリカについていろ。俺とあの子供の事は気にするな」

「…………わかりました。エリカ様には内緒にしておきます」

「そう……そうだな」



 メリファが離れていく。とりあえずは時間稼ぎだ、なんとか機嫌を取り続けないと領地が、いやこの世は地獄とかすだろう。


 何度も深呼吸をした。

 ゆっくりと扉をあけると、微動だにしない古代種が俺をみている。



「誰だ……お前みたいな子供に用はない」

「…………いしみせて」

「石か。ああそうだな魔石の事か? ゆっくりとみるが良い」



 俺は小さく赤い魔石を見せた。

 よし、前回と同じだ。



「これじゃない、これまえもみた」

「はっはっはっは、面白い事を俺とお前は初めて会う」



 古代種は黙って首を振った。



「10にちごまちであった」

「嘘を言うな」

「しょうこみせる……」



 ………………預言も出来るのか? ここまくるとシラは通せない。

 それにコイツは手を上にあげた。



「ま! 待てっ!! 先に用件をいえ用件を!」



 俺が制しすると古代種は手を下げた。

 危ない……この地域一帯が地獄とかす所だった。



「セーブクリスタルみせて」

「…………断る! 今さら返せとは無視が良すぎるだろう? これは俺が手に入れた物だ、大体だなそんなに大事なら名前と説明書をつけるべきだろう」

「んんんーーべつにいしはほしくはない」



 俺が返したくない一心で文句をつけると、意外な言葉が返ってきた。



「…………本当か?」

「うん」

「…………その嘘ついたら殴るぞ……」



 思わず子供に約束事をさせるための文句を言うと、古代種女は首を縦に振った。


 しかし、俺のゲンコツが役に立つのか? 相手は化物だぞ……まあいい。腰のポーチからセーブクリスタルを取り出し古代種女の手のひらに置いた。


 古代種女はそれを日の光に照らして見たり匂い嗅いだりをする。匂いを嗅いで両目と口を開くと一瞬そのまま固まった。

 そしてまた匂いを嗅ぎ始める。


 俺は感じないが、そんなに臭いのか?



「かえす」

「お。おう……」



 古代種女は立ち上がると、扉の方へ歩いて行く。



「ま、まて!」

「……なに?」

「どこにいく」

「ようじすんだから、そと?」



 なぜに疑問形なんだ。

 そもそも名すらしらんぞ? こいつが出てってどこに行くのかも……待て、なぜ俺と10日後にあった。と断言した?

 ああ、なんなんだこいつは!!


 俺が考えている間に扉に手がかかり半開きになっている、おもわず手を引っ張ると体を後ろへと引っ張った。

 古代種女は軽く、そのままソファーまで吹き飛ぶ。



「べち」



 効果音を自分で口に出しているのか? けがはないようだな。



「まぁまて……先ずは名ぐらい名乗ったらどうだ。いや伯爵である俺から応えよう。オージ=オーサだ!」

「クイン」



 短いがハッキリとそう名乗った。

 クイン、フ……少し似た言葉で女王と意味を持つ言葉があったはずだ。



「なるほど……まてまてまて帰るな!」

「じゃぁ、かえらない」

「本当に何しに来たんだ」

「それのにおいかぐだけ」



 まじか。

 思わず若者が使う言葉になってしまった。

 俺は部屋の中をぐるぐるぐると無意識に歩いていた、意識して止まってクインの顔を見る。



「たしかあの馬鹿エルフはセーブクリスタルを作ったのはクインって言っていたような」

「……?」

「もしかして、お前……いやクイン。これを作ったのはお前か?」



 変な質問になるが仕方がない。

 俺の質問をもう一度小さく復唱し、クインは「うん」とだけ返事をする。



「しつもんおわった? じゃぁ」

「まてまてまて! だから帰るな!」



 俺は乱暴にクインの手を引っ張ると、ソファーのほうへと強引におした。クインはソファーに倒れてだらしない恰好で天井を見ている。

 まるで人形のようだな。



「オージィお義父様、お客様であればエリカも挨拶を――」

「エリカお嬢様今は開けてはだめ――」



 女二人が客間の扉を開けた、もちろんエリカとメリファである。

 その二人は俺とクインを見て固まった。

 すぐにメイファが「申し訳ございません!」と謝り扉を閉めた。


 なんなんだ一体。


 振り返るとクインが呆然と足を開いたままだ。行儀の悪い奴め。



「足を閉じてちゃんと座れ! 前回の事が無かったら屋敷から放り出してる所だ全く!」



 俺はクインの横に座ると、もう一度セーブクリスタルを見せる。クインは無言で鼻を近づけると匂いを嗅いでは、目を見開き固まる。


 確か犬や猫が強力な匂いを嗅いだ後、さらに嗅ぎ続ける行動があった気がする、それに近いな。



「でだ。これの使い方を知りたい」

「くさい……でもやめられ……いいよ、おれい」



 クインは俺の胸に手をあてた。

 なんだ、本来の使い方があった――――!


 ボンッ!!


 俺は突然ジャンプした、そう思ったのは一瞬で最後に移ったのは俺の体がブドウの様に爆発した。

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