第16話 決闘

「オージィ様」



 やっと俺の事をオージィと呼んでくれ……いやまて声が違う。

 ん? 寝ていたのか……? いや寝ると伝えたのだ寝ていて当たり前だ。


 俺が目を覚ますとメイドのメイファが起こしに来ていた。外の光は赤くなっており日暮れに近いのを確認する。



「オージィ様? お時間です」

「…………二度も呼ばなくて結構だ、この通り体も起きているだろ?」

「申し訳ございません!」

「気にするな……何度も注意はしたくない」



 メリファがいなくなると欠伸をかみ殺す。さて……夢は覚えてないがまたも酷く疲れた夢だったような気がする。

 腰に付けているポーチからセーブクリスタルを手に取る、一応一応セーブをするか。ここで俺が死ぬともう一度あの魔物と戦わないといけない。


 双剣のフェイス。

 俺が記憶してるのは7年に起こる帝国との最後の戦い、双方痛み分けに終わる戦争であるが、戦力差が5倍もある場所を守り切った英雄だ。

 クラリスの副官になり、その強さを求めた姿勢は俺の耳にも届いていた。


 そんな相手と戦うとなると俺も伯爵として挑まないといけない。血を垂らすと一瞬にごった石が透明に変わりだす。

 客間へと入るとクラリス、フェイス、エリカ、マーケティの4人が部屋にいた。俺の背後からメリファが俺を含めた4人分の紅茶を持ってくる。


 紅茶か……しょっちゅう飲んでいるはずなのに今は何か懐かしい感じがした。



「待たせたな……どうしたクラリス」



 紅茶を見つめたまま飲まないクラリスがいたからだ。



「毒でも疑っているのか?」

「え? いや……このカップの模様みていたら何かを忘れていた事を思い出しそうで……なんだっけかなとね」

「…………忘れていても困らない記憶なら忘れていた方がいいだろう、ボケ始めた隊長は置いておいてフェイス。その怪我で俺と戦う気か?」



 愛想よく笑う双剣のフェイスは「大丈夫です」と返事をした。



「で、何の勝負だ? チェスでいいか。最近はもっと簡単なリバーシというゲームもある。カードでもいいぞ」

「うっわ。最低」

「オージィお義父様……」



 冗談のわからない奴らめ。



「オージィ伯爵! 僕は剣で勝負をしたいと申し込みました」

「…………気持ちは変わらないようだな」

「はい! クラリス隊長からオージィ伯爵の功績を、その騎士にいた頃はと、嘘かと思っていたんですが先ほどの気合の入った一撃。並大抵の人間ではないと」



 俺はクラリスを見ると、クラリスはさっと視線をそらした。

 原因はこいつか。



「無敵であれば今頃は帝国と休戦ではなく支配していただろう。朝は俺もお前達を馬鹿にしたが、俺もまたの一員だ」

「オージィ……」



 クラリスが俺の名前を呼ぶ。



「それでも! 僕は強さを手に入れたい」



 若いな……。



「クラリス隊長殿の話は話半分に聞いたほうがいいな、今後の忠告だ」

「あのークラリスさん。オージィお義父様ってそんなに強かったのですか? エリカ、オージィお義父様の事をもっと知りたいです、そして役に立ちたい」



 ちっ、余計な事を聞くなエリカよ。

 お前が役に立つのはその肩書だけだ、後は俺を殺さない事、その二点だけである。



「そりゃ強かったわよ。当時の騎士団のメンツ顔負けってね」

「昔の話だ、それに負ける時もある」

「記憶にないわね、唯一負けるのは姉さまぐら…………」



 クラリスが途中で言葉を止めた。

 そこまで言うなら言い切れ、もしくは最初から言うな!



「隊長のお姉さまですが……? 確か病死――」

「フェイス君! ちょっとまって。ええっと、あのー――」

「クラリス、少しは黙っていろ。フェイスだったな庭に行くぞ」

「は、はい!」



 庭にはすでにマーケティによって円形の白線がひかれていた。

 ルールは簡単円のはじに立ち、それぞれ構える。

 試合開始とともに中央で軽く剣をぶつけ離れる、その後に場外に出されるか戦闘不能、騎士の不名誉である降参などだ。


 俺は久々に練習用の木剣を振り回す。

 木剣といっても中心部分に鉄が入っており重さは普通の剣と同じぐらいの重さだ。


 あれほど剣を捨て二度と持つまい。とおもっていても振り回していると手になじみだす。

 後は盾、これも木盾で剣と同様、本物と同じ重さである。


 俺はその両方を装着して前を見る、フェイスのほうは盾を持っておらず木剣を2本振り回しているのが見えた。



「いけーフェイス君! 最近クソ生意気なオージィ伯爵をぶっとばせー!」

「あ、あの! クラリスさんそれはちょっと……オージィお義父様がんばってください!」



 さて……どうするか。

 と、いっても作戦はある。クソ真面目な性格だ……これほどやりやすい相手もいない。問題はその後だな、殺されないように気をつけるぐらいだな。


 マーケティが近寄ってきた。



「オージィ伯爵様。試合の注意事項を」

「構わん、知ってる……フェイス、剣を合わせろ!」

「はいっ!」



 フェイスと剣をコツンと軽くたたきあう、相手は双剣なので2回俺は円のはじにいきマーケティの合図を待った。

 誰も喋らなくなる、懐かしい空気感が俺を包んだ。思わず顔に笑みが出るのを自覚する。



 さて……最後の確認だ。



「いいかフェイス! 

「も、もちろんです!」



 マーケティのほうを見ると、小さくうなずく。



「か、開始!!」



 マーケティが開始の宣言を叫んだ。

 フェイスは左右の剣をバラバラの起動で振り回すと俺に狙いをつけてくる。

 俺は剣と盾を構えて円のへ出て、そのまま武具を投げ捨てた。



「え?」

「は?」

「オージィお義父さま……かっこ悪い……」



 別に何と言われようが別にいい。



「マーケティ! 俺は円の外で武器もないぞ? 敗北だ」

「えっ……ああええっと。勝者フェイス…………さん…………」

「よかったなお前の勝ちだ」



 呆然としているフェイスが我に返ったようで大声を上げてきた。



「納得がいきません!!」

「ちゃんと確認したはずだ。。と」

「言いましたけど! けどです! 貴方は騎士としての誇りはないのですか!」

「…………そういうのは騎士に言ってくれ。俺はだぞ?」

「ですがっ!」



 俺がクラリスを見ると、クラリスは物凄い俺をにらんでいる。が……ああ言う時の顔は頼りになる顔だ。



「フェイス君。諦めたほうがいいわ……一応は約束は守ってるわけだし、あの時に『全力で戦え』も追加しておくべきだったわね」

「試合をする。とだけ約束したからな」



 しかし危なかった。

 最初は勝敗によって魔石すらとられる所だったんだ。俺ながら機転が利いた。

 それにだ、こんな奴と勝負をしてみろ、こっちは10年以上、戻る前をいれると30年近くまともに剣を握っていないんだ。良くて打撲、下手したら死だぞ。

 いくらやり直せるからといっても、あのアイテムにはまだまだ未知数な事が多い、そう簡単に死にたくはない。


 背後から来る殺気に振り向く、フェイスの無表情な顔が見えたかと思うと今にも飛び掛かってきそうだ。

 これはあぶないな。



「フェイス! お前のやるせない気持ちはよくわかる。だが……約束は約束だ。それにお前だって、こんな老いぼれに勝ってもしょうがないだろう。それとも過去の栄光にしがみ付いている俺に恥をかかせるつもりが?」

「それは……」



 別に過去の栄光にしがみついていないがな、なんだったら捨てたいまである。

 よし、殺気は無くなくったようだな。あとは畳みかけるだけだ。



「それでも俺と勝負したいというなら、まずはクラリス隊長を倒す事だな。アレなら俺と違って全力で勝負もしてくれよう。俺も久しぶりに剣を握り興奮したアレに勝てるぐらいに強くなれ、その時は俺も降参はせずに試合をしよう」

「ホ、本当ですか!?」



 クラリスが、すごい嫌な顔をしているが。これは本当に嫌なんだろうな。俺には関係ないがな。



「まったく、口だけ男。私が全力で勝負して負けたら貴方も全力で勝負するのね。後で公文書送るからサインして送り返して、さてフェイス君、こんな嘘つきに構わないで町にいくわよ。まったく飲まないとやってられないわよ」



 クラリスはさっさと町に行くのに消えていく、クラリスはなぜか俺に頭を下げて一緒に消えていった。



「疲れた……なんだ? 用件」

「はい! エリカ、剣を習いたいです!!」

「…………一応理由を聞いておこう」

「はい! 弱いオージィお義父様を守るために!」



 はっはっは。殺される女に守られるとは、何て愉快な冗談だ。

 ……ふざけるな!

 弱いだと? じゃぁお前は俺より強いのか! …………強いかもしれんな。少なくとも剣の試合をみて歓声を上げる、目をつぶる、などそういう事は無かった。


 おれが重罪人をつかって人体実験していた時も、平気な顔をしていたな。



「後、ご気分を害して……ええっと……メリファなんだっけ?」

「ご気分を害して申し訳ございません。です。エリカお嬢様」

「ご気分を害して申し込みます!」



 メリファに訂正された言葉がすでに違うだろ! いや、今はそんな事を言う事ではないな。



「ダ……」

「だ?」



 まて、こいつの頑固さは俺は知っている。

 マーケティを追放した後、メリファを処刑した後など抗議するのに突然に首都に通うようになった。

 何をしているかと思えば体にきく薬草の研究と、その研究で倒れる事もあり「俺が伯爵家の娘にしては貧弱な体だな」と、言っても辞めなかった。今思えばあの頃から俺を暗殺する準備をしていたのだろう。


 いっその事監視したほうが対応しやすいか?



「わか…………わかっ……」

「メリファ! 許可貰った!」

「エリカお嬢様。オージィ伯爵様はまだ最後まで――」

「わかっまで言ったよ?」



 言ってない! 言ってないがぐぬぬぬぬぬぬ。

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