第15話 閑話・21年前 友達の任務

 屋敷に帰りひと眠りをする。

 試合は夕方に1回きりの勝負だ、時間になればメイファが起こしにくるだろう。

 とても疲れた、ツルハシとはいえ剣を握った感力を思い出したからだ。剣をすて25年だぞ……良く体が付いてきた。問うべきだ。

 むしろ若くなった分ついてきたのかもしれない。なんにせよ休息だ、ベットへと背中を預けた。



「ねえ聞いてる?」



 懐かしい声がして思わず目を見開いた。

 馬鹿な……いや……シャテナ!?



「ちょっとオージ! 私の話、聞いてないでしょ」



 俺は何を呼び捨てにしているんだ、場所はどこだ……王室の中庭か。いつもどうり白いテーブルセットにシャテナ様が座っている。手元には紅茶があり、それと同じ物が俺の前にも置いてある。



「いえ、聞いています……それと。俺の名はオージィです、シャテナ様。オージで発音を止めないでください」



 第一王女であるシャテナ様につきまと……いや。友達。という任務に命令されてから1年は過ぎた。何かというと俺の事をオージィではなくオージ! というので。アールスカイには影の王子がいるな。と比喩されるぐらいだ。


 本来の王子であるアルバート=スカイ様は俺よりも年上で「妹の言う事だ、いっその事本当の王子になってもいいだぞ?」とよくわからない事を言ってくる。



「とにかく! 無事でよかったです……」

「何の話? ここ最近はどこにもいってないわよね? あっもしかしてクラリスと一緒にどこかいったのかしら? 内緒で?」

「……いえ。なぜでしょう。なぜかそう思いまして……」



 さっきまで凄い遠い所にいたような感じがしたからだ。

 そうだ、確かここは王族専用の中庭だ。花畑もあり周りには俺とシャテナ様しかいない。

 少し離れた所に窓があり王族の住居スペースだ。


 一緒に食事でも。と命令されたのだろう。

 無茶苦茶な命令は日常茶飯事だ。


 青い空にさえずる小鳥。ああ、なんて平和なんだろう、これで研究もしなくて済む……あれ、俺は何の研究をしていたんだ? 剣のだろうか。



「またうわの空」

「申し訳ありません」

「きっとオージは私よりも剣のほうが好きなのね」

「別にそういうわけでは……いえ、そうですね、それと俺はオージィです」



 あぶない、誘導尋問だ。

 これでは否定をするとシャテナ様が好き。という事になってしまう。



「しかし、剣もさほどです。父上から趣味でも見つけたらどうだ? という事で始めた事でもありますし」

「と、言う事は私はその『さほどの剣』よりランクが下なのね」



 これも不正解の答えか。

 気分を害されても後々が面倒だ。



「そういう意味ではありません」

「もう、友達になったのに、オージは堅いままねぇ」

「そうですね」



 友達ではなく友達の任務だ。

 シャテア様が紅茶を飲み終わると、今日の友達の任務時間も終わりになる。



「飲み終わられたようなので、俺は兵士の時間に戻ります」

「えーまだ紅茶残っているわよ?」

「ど……」



 どこに?

 と言おうとして口を止めた。



「ど?」

「どちらでしょうか?」

「オージ貴方の分よ?」



 普段は俺が残していても終わるのに、今度は俺も飲まないといけないのか。カップを掴むと一気に流し込む。



「ふふ、そんなに私と居たくないのかしら?」

「滅相もないです。凄くいたいです」

「行動と言動がここまであってない貴方はやっぱり面白いわ、友達になって本当によかったわ。今度の試合がんばってね」



 がんばれ。というが普段の試合とは違い年1の試合だ。去年は新兵部門で優勝できたが、今回は無理だろう。



「善処を尽くします」

「相変わらず、はい。とも、いいえ。ともわからない言葉、そうだわ……少しこっちに来てくれる? 良い物があるのよ」



 シャテナ様はワンピースのポケットに手を入れた。

 なんだ? ポケットに入る良い物? まさか毒薬……は行き過ぎか、下剤とかではあるまい? 相手に飲ませれば俺が勝つだろう。

 そんな馬鹿な話は無い。とはいえないのがシャテナ様だ。



「なんでしょう?」

「はいこれ、よく見て」



 よく見ても何もシャテナ様が開いた手には何も見えない。肉眼では見えにくい何かでもあるのか? 俺が顔を近寄せてみたとき耳元から頬にかけて柔らかい物が、ちゅっ、と音がなりあたった。



「なっ!? シャ、シャテナ!?」

「ふふ、私貴方の驚く顔初めて見たかも」

「シャテナお前と!! ………………シャテナ様! 突然なにを」



 赤い顔をしてるシャテナ様は笑顔だ。



「何ってその、オージわからなかった? じゃぁもう一回よね」

「いや、まて! 違います。待ってください今のは――」

「ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅ!」


 っ!?


「「えっ!?」なっ!?」



 俺とシャテナ様が同時に驚くと足元からクラリスの声……クラリス様の声がしたからだ。



「クラリス様……何時から」

「クラリス何時から!?」



 俺とシャテナ様はまたも同じような言葉を同時に喋る。

 言われたクラリス様は気にもしてないようだ。



「ぱぱがおひるどーするのーって、よんでこいって! ぱぱー! しゃてなおねーちゃんが、おーじいーとち――もご!?」



 駆けだすクラリス様をシャテナ様は捕まえひざに乗せる。その手はクラリス様の口を押えてぴったりと離さない。



「も、もう! クラリス。駄目よ変な事いっては」

「そうですね。クラリス様、目の錯覚でしょう……いいですが! 友達同士ではキスはしません。偶然、偶然に当たっただけです」

「オージ、その否定はどうかと思うの」



 なぜここで俺が怒られる。



「しかしですね……」

「しかしよ。偶然じゃなく故意って事もあると思うの」

「その場合はシャテナ様が俺にと言う事になりますが……」

「ええ、そういう場合の事も考えるべきと思うのよね」



 お互いになぜか他人事のように話が進んでいく、これではクラリス様も混乱す……いや静かすぎないか?



「シャテナ様! クラリス様のお顔が」

「ええ、この子は将来綺麗になるわよ。え、違う? きゃー! あ、泡拭いてる!?」



 クラリス様を床に寝せると必死に蘇生作業を試みた。

 直ぐに息を吹き返したが危なかった……クラリス様はシャテナ様の機転のよって数分間の記憶が無くなっていた。

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