第12話 閑話・22年前出会い

「まぁ御強いんですね」



 中庭で行われていた訓練試合。そこで俺が勝ち進み、部隊長までを倒した時に声が聞こえた。

 振り向くと小さい子供を連れたシャテナ様がそこに立っていた。


 シャテナ様とはアールスカイのゼン王の第一王女様。おそらく手を引いているのは妹のクラリス様だろう。1貴族の息子の俺は何をしゃべっていいが迷う。無難に頭を下げる事にするか。



「も、もったいないお言葉です」



 そう返すのが精いっぱいだ。

 シャテナ様は何がおかしいのか俺をみては笑う、何か変な事をしただろうか。



「あら、ごめんなさい。ふてくされないで……私と同じ年齢の子がいると聞いてね。興味がでましたの」

「こ。光栄でございます」

「お城では子供がいないでしょ? だからお友達になってほしいの」



 どう返していいか。

 返事を間違えれば鉱山地域にいる小さい貴族である父の地位も俺の首も物理的に飛ぶ。兵士になった以上命は国のため、と教えられているが、死に場所ぐらいは選びたい。



「光栄でございます」

「はい。とも。いいえ。とも言わないのね。困ったわぁ」

「おねーちゃんをイジメるな!」



 小さいクラリス様が俺の足をポカポカと叩いてくる。可愛いを通り越して少しイラっとするな。でも反撃するわけにいかない。

 痛みは弱い、少し味の軸を動かすとクラリス様は転びだす。



「大丈夫ですがクラリス様。怪我は無いようです」



 笑顔を作りクラリス様に話しかけるときょとんとしている顔だ。



「あらあら、顔は笑っているのに、怒っていらっしゃいますね。クラリス叩いてはだめよ?」

「むーー」

「怒ってはいません」



 女神のように微笑むシャティナ様と違ってクラリス様の表情はコロコロ変わりだす。

 いつまでもこの場で時間をつぶすの面倒だ、俺とて練習もしたいし他にもやる事はある。



「あの!」

「はいっ」

「………………周りの仲間も動揺しています。俺に何の用でしょうか」

「先ほど伝えた通りですけど?」



 冗談だろ? どこの世界に第一王女と友達になるような一般騎士がいるのだ。



「であれば、俺よりふさわしい人物は沢山いるかと。キリル隊員や女性であるルウ隊員。隊長のベルフォ様も」

「あらあら……その3人はだめだわ」



 なぜだ?

 キリルは貴族で家柄は真ん中ぐらい、性格も温厚で俺のような下級貴族にも優しい。ルウは一般から入った珍しい女騎士。女であるから善戦よりよ飯炊きに回される方が多いが実力はある、ゆくゆくはシャテナ様やクラリス様の護衛隊に入る可能性がある。

 ベルフォ隊長は空気をよまない筋肉馬鹿であるが、それゆえに憎めない。無口な俺よりは楽しいだろう。



「だって、その3人は私を王女として見てるもの、キリルさんは誰にでも優しいですけど、私には恐れを抱いていますし、ルウさんは私よりクラリスのほうが合いそう。ベルフォさんは筋肉は素晴らしいです……筋肉は……部下としては優秀でもお友達にはなれないわ」



 俺と同じ目線で人物を見ていて思わず言葉を失った。

 



「…………それは当たり前かと、それに俺もですけど」

「いいえ。貴方は心の底ですべてをどうでもいい。と」



 そんな事はない。



「ふふ、表情がコロコロ変わって面白い」

「お言葉ですが、変えてませんが」

「わかるの。でもファーストアタックはいい返事が貰えなくて残念ね」



 シャテナ様はクラリス様を抱っこし俺から離れていく。

 直ぐに同僚が俺の肩を叩き何を言われた? など聞いてきた。俺としてはあった事をそのまま話すしかない。


 にしても。

 ファーストアタック……え、また来るのか?

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