第13話 オージィ伯爵の演説

 ラッパの音が聞こえて飛び起きた。

 慌てて廊下から外を見ると、玄関前に兵士13名と、その前にクラリスが立っている。

 その横でフェイスがラッパを吹いているのが見えた。


 俺が窓から下を向いた時クラリスが俺のほうを見て来た。にこりと笑うその笑顔は、いつまでも寝てる俺への当てつけだろう。

 こっちはもう38歳だぞ? 寝不足はつらいんだ。


 さすがにもう一度寝る。と、言う事は流石に俺もしない。軽く着替え外に出る。マーケティに帽子を手渡されて外への扉を開く。



「あら。もっとゆっくり寝ていらして大丈夫なのに、ねぇフェイス」

「目覚めの音としては少々大きいがな」



 俺は淡々と事実を述べると、クラリスの隣にいた男、フェイスが申し訳なさそうな顔をしてくる。



「僕は命令通りラッパを吹いたままです!」

「だろうな。コイツのイタズラは今に始まった事ではない」

「酷い言い方ですこと。あら、じゃぁどうぞオージィ伯爵様。命令と激を」



 …………なんだその前振りは。

 そんな事すると約束した覚えはない。



「ほら、エリカちゃんも目をキラキラして見てるわよ」



 隊列のはじにエリカとメイドのメリファがこちらを見ていた、視線が合う。



「ちっ……諸君! 遠方からこの鉱山区までご苦労である。現在鉱山区に魔物を封じ込めてある、諸君らの活躍で再び鉱山区が解放される事を領主である私は疑う事はないだろう。なんせがいるのだからな。せいぜい俺の小遣いのためにがんばってくれ」



 俺の激で場の空気が悪くなる。

 中にはにらむ隊員さえも出てきた。

 事実を言ったまでた、無敵の王国騎士隊だからな。王国兵士は無能だ! というと捕まるので比喩する時によく使われる言葉だ。とな



 俺は一歩引いてクラリスに後は任せる。

 小さい声で、嫌味ったらしいわね……とあきれた声が出ているが、他の隊員からそんな事はない。



「仕方がない。はいはい! 騎士たるもの任務には忠実。そして臨機応変! どこぞの伯爵様が嫌味ったらしいとか、そういうのは置いておいて。その伯爵様も結局は。昨夜に命令は伝えていると思うけど成功報酬は飲み食いお土産代も……そうね、1人金貨10枚ぐらいまでなら出してくれるそうよ」

「っ!?」



 そこまで出す。と約束した覚えはない。

 


「とはいえ。魔物の数は不明。おそらくは中規模の巣、気は緩まないように! 作戦開始!!」



 クラリスが最後に言葉を閉めると、綺麗よく啓礼をしだした。すぐに全員が小走りに馬や馬車に乗り出発の準備が整った。

 俺がため息とともに屋敷に戻ろうとすると、クラリスが「どこに行くの?」と、聞いてくる。



「どこって屋敷以外あるのか?」

「現場だけど?」



 クラリスが不思議そうに俺の顔をみているが、俺も同じような顔だったのだろう。



「何不思議そうな顔してるのよ、領主が前に立って動かないとダメでしょ? ましてや人手不足なんだし」

「…………正気か?」



 俺が聞き返すと、いたって真面目そうだ。

 ああ、そうだったなコイツはいつもこうだ。



「悪いが現場についても遠くにいるぞ……マーケティ! 少しでる、ええっとだな。屋敷のほうを」



 エリカを頼んだぞ。と言おうとしてエリカの姿がない事に気づいた。先ほどまでメイドのメイファとともに近くにいたはずだ。屋敷の方には帰った様子もない。



「オージィ伯爵様。エリカお嬢様であれば既に馬車で出発されましたが」

「…………何の話だ?」

「オージィ伯爵様の許可を得て社会勉強と、クラリス兵隊長様いいえクラリス第二王女様がご命令を」

「ちっ! お前は誰の執事だ!」



 マーケティが、大変申し訳ありません! と頭を下げてくる。

 裏切られる前にクビにしたほうがいいだろうと思っていたが、まさかこんな早くクビにするとはな。



「お前はクっむぐう!」

「まさか、オージィ伯爵様。第二王女より権力を持っていると勘違いしてません事? 私が本気になれば領地の頭何て取り換えられるのですけど? この執事は私の命令を聞いたのですよ? もう一度いいますが勘違いしてません? おーっほっほっほ」



 俺の口がクラリスの手で塞がれる。

 怒気のこもった声ではあるが…………口を押えている手を跳ねのけた。簡単に外れる。



「だったら、さっさと俺を首にするべきだったな」

「ほっほっほっほ。王都に戻ったら王にぜひ進言してみますわ。って冗談はいいとして社会勉強の一つよ。じゃっ」



 クラリスが手を振りながら離れていく、近くにとめていった馬に乗ると屋敷の敷地からでていいた。

 残されたのは俺と執事とフェイスという男。

 そのフェイスが申し訳なさそうに話してくる。



「クラリス隊長がすみません。でもたぶん大丈夫と思います、本当はもっと人を集めてくる予定でしたけど、周りの反対もあり本来は、正式な許可も得ずに兵を動かすのは駄目と」

「ほう」

「怒ったクラリス隊長は国や民すら守れない兵士は休暇よ。といって……」



 凄い嫌な予感がする。



「おい」

「はい、一応ここにいる兵は全員休暇中で、偶然にオージィ伯爵の領地で偶然魔物が出たので排除した。と言う事に」



 屁理屈の固まりかアイツは。

 まぁ俺も人の事は言えないか……まったくこれ以上立場を悪くしてどうするんだ、仕方がないな…………アレがいなくなると俺も好き放題がやりにくくなる、何か考えておくか。



「出発する」

「ではいきましょう」



 前日の下見とは違いゆっくりと進む、途中の町で見物人が俺達をみてはぎこちない笑顔で手を振っているのが見えた。

 ささやく声からは、討伐隊。鉱山を守ってくれる。さすが領主様まで聞こえてくる。


 よくいう、先日までは悪役伯爵。まで言っていただろうに。


 鉱山の出入り口までつくとキーファが迎えてくれた。

 それぞれ準備に取り掛かる、俺としては一切やる事がない、そもそも作戦としては部外者だ。



「あの……」

「要件」



 俺の横に立っていた義娘のエリカが何かしゃべりかけて来た。



「はっはい! ご迷惑をお、おかけしてます」

「…………何の話だ?」

「いえ、あのーエリカ、鉱山に来て迷惑じゃなかったですか?」



 ふう…………いったいどんな教育を。俺か?

 そもそもだ。本当に迷惑であればどんな手段を使っても連れてこない。それはアレクラリスだってそうだろう。

 馬鹿でも実力なしに隊長までなった女ではない。

 それにだ、ここで俺が迷惑だ。と、いったら帰るのか? 帰らないし俺が帰らせたら、またアレが怒るだろう。


 さらにいうとお前が怪我をしようが死ぬだろうか俺が欲しいのは義娘。義息子だ。義娘にしたのは寝首を取られないようにしただけ……結局殺されたがな、最悪死んだら別の義娘を買うだけだ。



「オージィお義父様笑ってます?」

「そうだな。別にお前が心配するような事ではない」

「あっありがとうございます……」

「それより始まるらしいぞ」



 クラリス含め兵士達が鉱山の中に入っていく。

 俺はその出入り口近くで急遽用意された椅子にすわった。



「っ!?」

「どうなされました、オージィお義父様」

「いや……」

「あっクラリスさんが手招きしてるのでちょっと行ってきます!」

「あ、ああ……」



 腰のポーチにいれていたセーブクリスタルが尻のほうに移動していた。座る時にめり込んだ痛さがあったのだ。


 ……………………いや。


 おもわず長考する。

 長考とは長く考える事で、そんな話ではないな。

 今回は、最後にセーブしたのは5日前だ。このセーブクリスタルの欠点は最初のセーブに戻れない所だろう。


 死ぬことがないとは思うが、おれとてはやりなおしたくはない。


 この討伐が正しい正しくないは別にどうでもいい。何度も無駄な時間を使う方が問題だ。



「ちっ!」



 俺は席を立つ。

 幸いキーファなどは兵士と共に鉱山の出入り口で忙しそうだ。

 俺は近くの小屋影に行くと、小さいナイフで指先に傷を作る。

 数滴の血をセーブクリスタルに塗り込むとセーブクリスタルは一瞬で赤くなり、またすぐに半透明な色に戻った。


 戻ってみるとエリカは椅子に座っている、クラリスが用意したのだろう俺の席もあるみたいだ。その横に座ると作戦を眺めた。

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