陰キャ現代ダンジョン録 (旧 現代ダンジョン生産職)

第32話 支配者としての器が違う

　世の中には知恵と工夫で人を支配する人間がそこら中に存在する。

　おそらく杵島もその類いだ、俺の武装作成を利用する為に青葉と付き合えるかもしれないと言う可能性、つまり払われるかも分からない報酬を餌に俺を使う来なのだろう。

　協力する、つまり付き合える付き合えないの結果に関わらず過程の段階で青葉に「明松くんが青葉さん好きだって言ってたよー」とか無責任に一言言えば達成される程度の条件だ。

「だから、この話に乗っちゃ駄目だって思うんだけどどう思う？」

「あんたね血だらけの服で帰って来た弟が急にわけの分かんない相談してきたこっちの気持ち考えなさい」

　俺は杵島からのメッセージを既読スルーしたまま、ダンジョンからの帰り道色々考えた結果出た結論を姉ちゃんに答え合わせすることにした。

　俺が出かけた時と変わらぬ姿でソファーの上で寝転びながらテレビつけっぱなしでスマホをいじって居た姉ちゃんは起き上がりながら1つ1つ確認してくる。

「まず、なんで服血だらけなの？　また殴られた？」

「え、ああ、モンスターに殴られた」

「……まあ、昨日よりマシな理由か、で杵島ってだれ？」

「青葉と相馬さんとパーティー組んでる女子」

「その娘が自分たちのパーティーにあんたを誘って来て入ってくれたら青葉さんと付き合える様に協力してくれるって言ってるってことで良い？」

「うん」

「そんであんたからしたら、協力がどの程度か分からないし自分のスキル目当てなのが見え見えだから警戒してる、と、……別にこの話あんたにデメリット無いって理解してる？」

「え！？」

　姉ちゃんは驚く俺を悲しい目で見てくる。

「あんたねえ……、単純にこの話あんたの方が主導権を握れるの、だから杵島って娘も青葉さん出しに使ってあんたをパーティーに入れようとしてるわけ」

「んー？」

「向こうが考えた儲け話の内容あんた覚えてる？」

「えーと、逃走と潜伏のスキル使ってー、モンスターと戦わず薬草集めて儲けるって感じ」

　俺がうろ覚えの儲け話を伝えると姉ちゃんはスマホを操作して情報収集に入る。

「あー、隙間産業で稼ぐ感じね、それであんたの作る装備を使えば誰でも出来ちゃうから買うんじゃ無くてパーティーを組みたいと」

「あ、じゃあ色んな奴に装備売れば一人勝ち？」

「青葉さんや相馬さんにパーティーの誘いを蹴って一人で儲けに走った奴って思われて良いならそうすれば？」

「うっぐ」

「パーティーに入れば薬草集めの収入がプラスで素材集めも楽になるでしょうね、あげく杵島さんの協力は別として青葉さんと合う口実が出来て普通に付き合える可能性もちょっとは出てくるわけ、であんたの考える入りたくない理由は？」

「えーと…………」

　何も思い浮かばない、さっきまで断るのが最善だと思って居たが今となっては断るとむしろ損な気さえしてくる。

「まあ、あんたはその儲け話をもって他の人とパーティーを組むって言う手もあるけどそれは今回の誘いに乗ってみて上手く行かなかった時でもとれる手段だから、まあ今回は気楽にパーティーに入ればいいのよ」

　姉ちゃんはソファーから立ち上がり俺の肩をポンポンと叩きながら柔らかい笑みを浮かべる。

「それで、その薬草集めで困った事やこうしたら良いって気づいた事があったら逐一お姉ちゃんにおしえなさい」

「え？」

「実践でのノウハウとあんたの作る装備さえあればマニュアル化してあんた達が薬草集めより次のステージに行った時お姉ちゃんがもっと儲かる形にしてあげるから」

　当たり前のこと過ぎて失念していた、俺の姉ちゃんは知恵と工夫で人を支配する事が心の底から大好きでこう言う時目の奥から本当に笑える人種だと言う事を。

「大学に入って良かったー、人集めるのにこんな便利な場所と身分ないもの、未熟で暇な人材があふれてるなんて本当にもう最高、早速下地作らなきゃ」

　姉ちゃんは上機嫌でスマホを操作してメッセージを何件も送信している。

「姉ちゃん合法の範囲でね」

　俺の言葉が届いたかは知らないが少なくとも我が姉は自分の利益になる人間には優しく自分の敵に回らない人間には無害だ。

　とりあえず俺は姉ちゃんのメッセージを受け取った人々の安寧を願いながら血だらけのシャツを着替える事にした。