第31話 杵島クレアはバカじゃ無い

「どうです? 似合ってます?」


 世の中には二種類の人間がいる、テーマパークでマスコットの耳とかつけて歩けるタイプとそれが出来ないシャイで奥ゆかしいタイプ。

 どうやらショートカットの女子は前者だった様でファンガスハットを平気な顔してかぶって見せあまつさえ感想を求めてくる。


「あ、さっきの腕生えたキノコ、ラッシュファンガスって名前みたい」

「何が作れそう?」

「あー結構種類多い武器は無いっぽいけど防具一式あるみたい素材めっちゃいるけど」


 俺はさも聞こえなかった様に振る舞い武装作成の画面を開きさっき放り込んだ新しい素材をチェックする、青葉が作れる装備に興味を持っている事が地味にうれしい。


「ちょっと、無視しないでくださいよ! 私バカみたいじゃ無いですか!」


 ジャージにキノコのかぶり物というコント衣装みたいな格好で今更バカに見えるかを気にするショートカットの女子は吠える。


「いや、なんかそれ似合ってるよって言うの、なにかしらのハラスメントにならない?」

「あなたが作った装備でしょうがぁぁ!」


 何だろう自分が作った装備を使うユーザーからの声なのに、こんな格好の人にダンジョンとはいえ公共の場で話しかけられている現状が恥ずかしい。

 現状の恥ずかしさを物語るように相馬さんは少し離れた位置で目立たぬようにキノコを叩いて他人のフリをしている。


「ところでその帽子はどんなスキルが付いてるの?」


 青葉は本当に強くなれれば良いのだろう似合う似合わないなんてみみっちい事に何の関心も無いようだ。


「あ、えーと潜伏Lv1です隠れた時に気配を薄く出来て見つかり難くなるみたいです」

「こっちの靴は逃走Lv1だからセットで使えば格上と出くわしたときの保険って感じね」

「この帽子MND+2も付いてるんで地球産の防具じゃ絶対つけようが無い分結構貴重ですよ」


 青葉とショートカットの女子が建設的な話をしている、俺の賢さは筋力の半分しかないみたいだから自分の装備の話なのに口を挟めなくても仕方ない。


 俺からしたら潜伏と逃走って負け前提のスキルじゃんとしか思わなかったが、2人は活用方法で盛り上がっていく。


「暗殺者系のビルド組むなら2つとも必須になってくるんじゃない?」

「うーんそれより採取に役立つと思うんですよね、戦闘を避けて自分のレベル帯より少し上のフィールドとかで活動しやすいわけですから」


 青葉が物騒な事を言ったかと思えばショートカットの女子が現実的な使用法を提案する。


「森エリアに入って薬草とか取ってくればそれなりの収入になりますよ、森に入れるレベルの冒険者はモンスター狩った方が利益になるから薬草は需要の割に供給少ないってネットに書いてました」


 ネットって便利なんだな、大型モンスター討伐動画やダンジョン産装備をみて妄想を膨らます以外の使い道ってあったんだ。


「と言うわけで明松くん商談もとい相談があるんですけどー」


 ショートカットの女子は胡散臭い笑みでこちらを向く。


「青葉が帽子欲しくてえーと……あなたは靴が欲しいと」

「…………申し遅れました私は、き・し・まって言いますー」


 とうとう杵島さんに名前を覚えて居ない事がばれてしまった、なんとなくごまかし切れると思ってたのに。


「すいません」

「いえいえ、影が薄いってよく言われますからお気になさらずー」


 杵島さんの表情は明るく笑っているが目が笑って居ない。


 あれ? でもこいつ俺がラッシュファンガス倒してガッツポーズするあたりまで俺のこと存在すら忘れてたよな? 一回だけの自己紹介覚えてない俺の方がマシじゃね?

 

 こう言う時は下手に出ては駄目だ、とりあえずさん付けと敬語はやめておこう。


「う、ううん、まあ帽子と靴なら――」

「すいません、話がそれちゃってーそれで相談って言うのはですね――」


 杵島は俺の言葉の隙間を狙い撃つ様に言葉を挟む。


「――私たちのパーティーに入りませんか?」

「「え!?」」


 突然の杵島の申し出に俺と相馬さんの声が重なった。

 

「いやーまあ私一人で決められる話でも無いし、明松くんもソロで行こうとしてるわけですから今日の所は私がパーティーに入って欲しいと思ってる位に思って居てください。 すいませんがチャットのアカウント教えて貰っても良いですか? 組まないにしても明松くんお力はお借りしたいので」


 杵島がまくし立てる様に話を転がしていく、俺は気がつけば杵島のQRコードを読み込んでいた。


「あ! 私とカヤはそろそろ帰りのバスの時間なんで失礼しますね」


 そう言うと杵島は相馬さんと青葉を連れてダンジョンから足早に去って行った。


 一体何が起こったのかは分からないが多分この話には簡単に乗らない方が良いだろうと言う事だけは分かる。

 

 俺も今日は帰る事にして杵島たちに追いつかない様にゆっくりとダンジョンを出る。


 さすがの俺もこんな見え見えの企てに乗るほどバカじゃ無い。

 女子3人の中に男子1人じゃまずもって肩身が狭い、しかも相馬さんは杵島が俺を誘った時驚いていた多分俺と組むのは嫌なんだろう。

 あれ? 今までの行動で相馬さんに好かれる箇所は微塵も無い事は理解しているが何だろ泣きそうだ。


 まさか告白もしていなけりゃ直接フラれても居ないのになんだかフラれた気分に成れるとは。


 俺は肩を落としたまま受付にトンファーを返し、駐輪場に向かっている途中スマホにチャットの通知が来た。


 杵島からのメッセージだった。


 カヤの説得完了

 青葉さんは歓迎するって


 向こうは俺がパーティーに入る前提で話しが進んで居るようだが、しかし俺はここでホイホイ話に乗るような軟派な男では無い。


 さらにメッセージが届く。


 明松がパーティーに入るなら青葉さんと付き合える様に協力する


 そんなメッセージがおそらく既読が付いた事を確認したのだろうすぐに向こう側の操作で取り消された。

 そして。


 どう? 


 とだけ送られてきた。

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