第30話 勇気があればそこそこの事は出来る

「ああー生産系のスキルってそう言う機能があるんですね、で作った物しか取り出せないと」


 俺はこれ以上傷つかないうちに今日も逃げ帰ろうと適当な言い訳の準備をしたが、相馬さんがショートカットの女子にちゃんと素材ボックスの仕様を説明してくれて事なきを得た。


「そのスキルってどんな物作れるんですか?」

「ちょっ、クレアちゃんそれは――」


 しかし、相馬さんが俺の作った装備品を話題にしてはいけないと思っている事実が俺の胸をえぐる。


「昨日のあのダサ、変、じゃなくてえーと……あ、変わった靴とかを作ったんでしょ?」


 青葉が言葉を選びながら改めて確認してくるが、そもそも形容詞をつけなければ良いと言う結論には至らなかった様だ。


「そうだよ、ダサい靴も、変な帽子も、キモい盾も、全部俺の作品だよ」


 俺は少しすねた答え方をするが青葉は続けて質問した。


「あれってスキル付いてたの?」


 どうやらさっき相馬さんに一切響かなかった俺のプレゼンは青葉には少し響いていたようだ。


「うん、多分素材にしたモンスターのスキルが付与されてるみたいで装備すると使える感じ」


「え!? それってめっちゃチートじゃ無いですか?」


 ショートカットの女子がことごとく勘違いをする、まるで昨日の俺を見ている様だ。


「いやあ、まずステータスに対する性能がしょぼくてスキルもラーニングでとれる奴だし」

「ラーニングでスキルをとって性能の良い装備を使った方が強いってこと?」


 青葉が俺も姉ちゃんも思いつかなかった俺のスキルの身近な上位互換をあっさり思いついた。

 

「そ、そう、成る、な」


 自分のスキルにガッカリしすぎて危うく膝が笑いそうになったが何とか抑え精一杯耐えた。


「キノコ、叩く?」


 青葉は少し哀れみが混ざった目で壁際のキノコを指さす。

 青葉もついさっき勇気でどうにも成らない場面を経験して俺にシンパシーを感じたのだろう。


「叩こう、キノコ」


 俺はうなずきながら壁際に向かいキノコを叩いた。



 そして俺がさっきレベルが上がった事を思い出し、ダッシュファンガスを狙うより派手な腕の生えたキノコを狙った方が効率が良いことに気づいたのは、皆ダッシュファンガスをそこそこの数倒して結構な量のドロップアイテムをどうにかして帰ろうと言う空気になった頃だった。


「別に明松くんがボックスに入れちゃえば良いじゃ無いですか、買い取りして貰えないからって置いて行くのも勿体ないし」


 ショートカットの女子が消去法でそう提案してくる。


「私もそれが良いと思うよ、でも本当にお返しとかいいからね、自分の為に使って」


 相馬さんはまるでお返しがほしいフリの様な言葉を本当にいらなそうな表情で言う。


「…………私の分の素材を全部あげるから装備作ってほしい」


 青葉はしばらく考え込んだ後、決意した目でそういった。


「…………本気か?」

「ええ、少しでも強くなれるなら」


 俺は速やかに武装作成を発動する、青葉の覚悟に応えたいその思いのままに動くと指は自然と一番コストの高いダッシュファンガスプレーヌを選んでいた。


「あのーそのー私も装備貰えるならそっちが良いんですけど、そんなに見た目悪いんですか?」


 ショートカットの女子が何の覚悟も無くそう尋ねてくるが、青葉が見てれば分かると制した。


 ダッシュファンガスプレーヌを自動作成すると昨日の様に青い光の粒が宙を舞って靴の形をなしていく。

 作成による虚脱感はレベルが1つ上がっただけでずいぶんましに成っていたがやはり息切れはするちょうど朝のランニング終わりみたいだ。


「ハァハァ、これが今の俺の限界だ」

 

 俺は落ちてくるダッシュファンガスプレーヌをキャッチして青葉に差し出す。


「ブレイブソウル」


 青葉は瞳に碧い光をともしクソダサい靴を受け取りゆっくりとスニーカーから履き替えた。


 どうやら俺の作る装備の見た目と青葉のブレイブソウルは相性が良いらしい。


「凄い、体が軽い」 


 青葉はその場で足踏みしたり軽く飛んだりして調子を確かめた後、ステータスを開いた。


「ありがとう明松くん、良い靴ね」


 向けられた青葉の笑顔に俺はつくづく単純な人間だと思い知らされる、さっきまで自分のスキルを少し疎ましく思っていたのに今はこのスキルで良かったと心底思っている。


「あー、もうちょっと見た目ましな装備って作れたりします?」


 ショートカットの女子が横から水を差して来たので、ファンガスシールドを作ってやろうかとも考えたがさすがに相馬さんの手前ファンガスハットを作る事にした。

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