第29話 いらない物の説明はどんな感じでも引く
結論から言うと青葉の勇気は無駄になった。
「あ、怪我ですね冒険者免許出してくださーい、はいー確認しましたー、ヒール、ヒール、ヒール、はいー手首動きますかー?」
若い女性職員が青葉と碌に目を合わす事も無く流れ作業で青葉に治療を施した。
多分この女性職員、日曜に相馬さんを嗤った奴らの担当をしていた人だと思うが別に俺と青葉に直接の因縁はないし向こうも覚えていないみたいだ。
「はいー次の方ー」
結構シャツが血だらけな俺を見て次の方で済ませるあたり、仕事への慣れとそれに伴う情熱のなさがうかがえる。
「あ、俺は大丈夫です」
「はいーじゃーお気をつけてー」
女性職員はそう言うと虚空を見つめただただ動かなくなる、おそらく早く定時にならねーかなとかで頭がいっぱいなんだろう。
おそらく業務上スマホをいじって過ごすことも出来ない彼女を可哀想と思うか、いざと言う時ここまでやる気の無い彼女を頼らねばならない冒険者を可哀想とみるか難しい所だ。
「ありがとうございました」
「はいーどうもー」
青葉が念入りに右手の調子を確かめた後、頭を下げて礼を言うがやはり女性職員は虚空を見つめたままだった。
「「…………」」
昨日の足立の気分が分かった気がする、俺たちは思春期で大人が鬱陶しいお年頃だけど余りにも無関心だと今度は寂しい。
俺と青葉は寂しさを抱えながら洞窟に戻る、俺は鼻血でテンション下がってるし青葉に至っては治ったと言っても骨折だブレイブソウルを持ってしてもテンションの降下は避けられないだろう。
「……あ、トンファー」
青葉はさっきキノコと戦った場所を通り過ぎて少し行ったところで自分が手ぶらな事に気づいた。
俺も自分がトンファーを無くしていることに気づいたがとりあえず引き返す青葉について行く事にした。
お互い無言で青葉の分のトンファーを探し始める。
「ああ!」
俺は一人で倒したキノコの落としたアイテムをそのままにしていた事を急に思い出した。
「あった?」
「え? ああごめん、ドロップアイテム忘れて来たなと思って」
「……そう」
またお互い無言になった。
「そ、そういえばさ青葉、今日貰ったどら焼きすげー美味かった」
これ以上無言が続く位ならと一番初めの作戦を実行してみた。
「でしょ! 私も家のお店の商品の中で一番好きなのがどら焼きで……あ、えっと、どら焼き渡すとき紙袋渡すの忘れててごめんなさい」
途中までは青葉も活き活きと喋り上手く行ったかと思ったがすぐに青葉のテンションは元の低さに戻ってしまった。
「大丈夫大丈夫、高林に袋貰ってそれに入れて帰ったから」
一応嘘はついていない、菓子折が無駄にパッツパツだった事実は胸にしまう。
その後普通に青葉のトンファーは2本とも見つかり、また少し気まずいまま洞窟の入り口に向かう。
骨折によるローテンションに勝てるテンション爆上げの話題なんて俺は持って居なかった。
「あ! おーい、チーちゃーん、明松くーん」
洞窟の半ばあたりで相馬さんたちと合流した。
「明松くん、トンファーとか置きっぱなしだったよ」
借り物なんだから大事にしなきゃと言いながら相馬さんは俺のトンファーと小さなキノコを俺に差し出した。
俺はトンファーだけを受け取り。
「あのキノコの方は、昨日のお詫びでどうぞお納めください」
「え、ええ、もう良いよ昨日の事は……、えっとほら私使い道ないし明松くんは何か作れるでしょ? あの私は本当に何もいらないから……」
どうやら相馬さんは本当に俺から何も受け取りたくないようで俺に無理矢理小さなキノコを受け取らせ距離をとる。
「本当にもう気にしなくて良いからねあの靴とかは明松くんの方で、ね?」
俺があのダサすぎる靴を昨日履いて小躍りしたと知ったら多分もう相馬さんは口をきいてくれないだろう。
「いや、あの靴は実は結構使える装備なんですよ? パーティーグッズみたいな帽子も両方スキル付いててちょっと性能低いけど本当に…………すいません」
何とか自作装備の印象を変えようとした説明は相馬さんの表情を余計引きつらせた。
俺はおとなしく謝って小さなキノコを素材ボックスにしまう。
「え? 収納系のスキル引いたんですか!? えっと明松くん」
さっきまで関わりたくなさそうな冷ややかな目で俺を見ていたショートカットの女子が昨日の俺と同じ勘違いをする。
「あ、ああ違っくてえーとこれもう取り出せない奴です」
俺の言葉足らずの説明を聞いたショートカットの女子は本当に理解出来ない物を見る目で後ずさった。
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