第28話 最後は事実を認める勇気

 俺を走らせた感情に名前をつけるならきっと、野次馬根性が関の山だろう。

 今日の昼休みに封印したスキルを早速使っている事実がまずインパクトがあるし、ブレイブソウルが戦闘面でどんな役に立つのかもこの目で確認したかった。

 

 実際俺は現場に着いたとき自分の選択は正しかったと確信した。


 青葉は俺がさっき戦ったのと同じキノコにバックマウントをとられ、何とか手でガードしている物の後頭部を連打されていた。


 青葉に勇気を与える碧い光を宿したまだ折れていない瞳は勇気だけではどうしようもない場面があると教えてくれる。


「あ、あの、手伝おうか!?」


 心の底からそんな言葉が出た、きっと総合値で言うと俺より強そうな青葉でもこの状況からの勝ち筋が思い浮かばなかったから。


 「…………、お願い」


 どうやらブレイブソウルは人を頼る勇気も与えてくれるらしい。


 俺はどっちが前か後ろか分からない見た目をしているキノコを後ろから羽交い締めにして引っこ抜く勢いで持ち上げる。

 

 結構な重さで暴れるキノコを何とか抑えていると立ち上がった青葉がその場で飛んだ。


 ドロップキック。


 第三者として見慣れたありふれた技が間近で見るとここまで恐ろしい物だとは思ってもみなかった。


 それよりも青葉はキノコを攻撃するつもりだろうが多分、衝撃が俺にも伝わるとかそう言う細かい事は考えていないと思う。


「グウゥ、…………こいつあんま打撃効かないこうやった方が――」


 俺は何とか衝撃に耐えキノコを捕らえ続けた、しかし青葉の両足の足跡が残ったキノコはまだあまり弱った様子は無く元気に暴れていた。

 俺はさっきの戦いで得た経験を生かしキノコにかけていた羽交い締めをフルネルソンにかけ替えキノコに親指を刺し引き裂こうとした。


「あっ!? 畜生!」


 俺は失念していたキノコに関節などあるわけが無いのだから羽交い締めよりフルネルソンの方がキノコには逃げやすい。


「大丈夫、そっち持って」

 

 青葉は俺の拘束から逃れたキノコの片腕を左手で握りこちらに背を向けた。


 それはまるで何度も練習を重ねたかの様に上手くいった。


 俺はキノコの反対の腕を右手で握り青葉に背を向ける、そしてキノコの腕を肩に担ぐようにしてお辞儀をした。


「びぎゅあっ」


 短い断末魔の後、つかんだキノコの腕が塵と成って崩れていく感覚で俺は勝利を確信した。


「やったな青葉、って大丈夫か!?」

「ふ、ふ、ふ、折れてる、かも?」


 俺が振り返ると目の光が消えた青葉は右手首を押さえ短い呼吸を繰り返していた。


「え!? あっ、そういえば昼休みテーピングしてたよな?」


 俺はこんな時に思うべきじゃ無いのだが、怪我した状態でトンファーの練習したりモンスターと戦うって馬鹿じゃねーの、と思ってしまう。 


「あれは、家で回復ポーション飲んで治したから違う、さっき蹴った時の受け身失敗してボキって」

「あ、ああうん、そっか」


 失礼な勘違いを口に出さなくて良かった、しかし馬鹿じゃねーのとは引き続き思ってしまう。


「えーと、歩けそうか? 肩貸そうか?」

「いい、ただ今動きたくない」


 まあ怪我してるの腕だしなとは自分でも思った、しかしもはや何も出来ない。


 応急処置の心得は冒険者免許を取るとき一応習ったがあれは止血の仕方とかだった、しかももうあんまり覚えていない。

 

 出来る事も無くただ蹲り痛がる青葉を見ているだけの俺という地獄みたいな状況で俺は1つの妙案を思いつく。


「そういえばこの洞窟出た先に回復魔法使える職員さん居るらしいから治して貰おうぜ、な?」

「もうちょっと待って、考えたい」

「あー、保険入ってないと高いんだっけ、でも多分後払いとかも出来るだろ」

「保険には入ってる、けど…………自爆で怪我したって言いたくない」


 馬鹿じゃねーの。


「馬鹿じゃ……ねーんだからそんなのどうでも良いだろ? 絶対治して貰った方が良いって」

 

 ギリギリ本音をかくして説得を試みるが青葉は首を縦に振らない。


「良くないから、考えてるの」

「別に理由とか言わずに治して貰って終わりで良いだろ?」

「キノコしか出ない洞窟で骨を折ったって思われるじゃない」

「いやそれはしゃあねえだろ事実だし、そこ変えるのは絶対無理」


「これしきの事で諦めてたら最強に成れない」


 額に脂汗をかきながらキメ顔でよく分からない事を言う青葉に俺は困り果てた。


 しかし数分後、目を碧く光らせて青葉は洞窟の出口に向かって歩き始めた。

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