エピローグ

 王宮に避難していた民に加え、別の町に逃げ込んだ民も故郷の街タチアナに戻って来ると、セラン侯爵の指揮のもと復興が進められる。街の損害は大きく、王宮からも支援が届いた。

 後日、クリストバルとレイラの婚約が発表された。侯爵領の街タチアナの悲劇は各地に伝わっており、その功績を認められたレイラは、誰からも歓迎される未来の国母となった。


「ハッピーエンドで何よりだわ」

 セーフハウスで子どもにもらった花のお守りを手元で遊ばせながら、復興の進む街を見下ろしてベアトリスは言った。

「一時はどうなることかと思いました」

 ニーラントがそばで言う。やはりジャケットのほうが似合っている。

「あなたもよく頑張ったわね」

「あまりお力になれなかったように思います」

「あら、そんなことないわよ。あなたがそばにいてくれて心強かったわ」

 微笑むベアトリスに、ニーラントはどこか照れ臭そうな顔になる。

「それにしても……」

「なんですか?」

「隠しエンディングにいかなくてよかったわ」

 ベアトリスがしみじみと言うと、ニーラントが首を傾げるので肩をすくめた。

「隠しエンディングでは、私とファルハーレンがくっつくの」

「……はい?」

「死んだと思っていた悪役令嬢が実は生きていて、助けられた恩のためにベアトリスがファルハーレンを婿に取るのよ」

 この隠しエンディングは賛否両論だった。悪役令嬢ベアトリスが生きていたことを喜ぶ声もあれば、悪役令嬢が攻略対象と結ばれることに反発を覚える声もあった。そもそもこのゲーム自体が賛否両論なので、結末に関する評論はあまり重要ではない。

「……確かに、助けられていましたね」

「助けられたからって、あんな頭の固い男は嫌だわ」

 ヒロインを操作していた頃は、真っ直ぐで騎士らしいその性格に惹かれたものだが、実物を前にしたいまではぜひ遠慮したい。

「ですが、お嬢様が生き延びてよかったです」

 ニーラントが薄く微笑んで言う。ベアトリスはもともと悪役令嬢として死ぬつもりでいたため、こうして生き残ったことはなんとも不思議な気分だ。

「きっとあなたのおかげね、ニール」

「……そうでしょうか」

 ニーラントは自信を持つことができないようだが、おそらくベアトリスの運命を変えたのはニーラントの存在だろう。ベアトリスはそう思っている。

 大変な戦いだった、と頭の中でエンディングを流していると、明るい声がそれを遮った。

「ベアトリス様! ニーラントさん!」

 ふたりに駆け寄って来るのは、レイラだった。その後ろに、優しく微笑むクリストバルの姿がある。

「レイラさん。あなた、未来の国母なのだから、そんなみっともなく走るんじゃないわ。こんなんじゃ先が思いやられるわね」

「はい! 頑張ります!」

 明るく笑うレイラに、ベアトリスはひたいに手を当てた。

「街の復興が進んでいるんですね」

 忙しなく民が行き交う街を見て、レイラが静かに言う。

「王宮の支援も賜って、順調に進んでいるわ」

「何か必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ」と、クリストバル。「きみは大きな功績を立てた。称えられるべきだ」

「お心遣い、痛み入りますわ」

 街は隅々までゾンビに破壊されたため、物資はほとんど王宮に頼っている。ベアトリスが戦わなかったとしても、おそらくセラン侯爵が遠慮することはなかっただろう。遠慮していたは、街の復興は叶わないのだ。

「……私、ベアトリス様に出会えてよかったです」

 街を見下ろし、レイラは静かに言った。

「ベアトリス様がいらっしゃらなければ、あんなふうに戦うことはできなかったと思います」

「そうね。どこかで死んでいたでしょうね」

「はい! ベアトリス様は命の恩人です!」

「…………」

 レイラの眩い笑顔にめまいがして、ベアトリスは目頭をつまんだ。ニーラントは相変わらず苦笑いを浮かべている。

「ベアトリス様のおかげで、私でもお役に立てることがあるって思えるようになったんです。本当にありがとうございます」

「貴重な光の魔法使いだもの。役に立ってもらわなくちゃ困るわ」

「はい! これからもお役に立てるように頑張ります!」

 にこにこと微笑むレイラに、ベアトリスは呟いた。

「私、嫌味を言ったはずなんだけど」

「悪役令嬢はお役御免ですからね」

 ニーラントが朗らかに言う。その安心しきった笑顔に、ベアトリスは重く深い溜め息を落とした。






 おわり


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サバイバルホラー乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのでホラゲ知識で無双します 加賀谷イコ @icokagaya

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