Count 21 異財と恩恵(巫子芝安里)

「また見てるの? あんまり見てると、上に着くころに溶けて無くなっちゃうわよ」

 そう言ってタツコさんがボクをからかう。でも気がつくと指輪に目がいってしまう。

「階段踏み外して転んでケガなんて笑えないわよ。そのぐらいにしておきなさい」

 だ、だけどこんなの貰ったことないから仕方ないよ。さっきも思わず円東寺クンに抱きついちゃったし。思い出してきたら……や、やっぱり恥ずかしい!

「もう、またニヤニヤしちゃって。夏祭りの夜店に来た小学生カップルじゃあるまいし、微笑ましすぎるでしょ。それにしても最初のプレゼントが魔装具なんて。要くんもどうしようも無い子ね、全く。あとでみっちり指導おしおきしてあげなきゃ」

 えっ、そんなことしたら円東寺クン大ケガしちゃうよ!

「あら、組み手とかじゃないわよ。それに要くんがケガ? あはは、無い無い」

 手をぱたぱたと振るタツコさん。ボク何か変なこと言った?

「格闘技は護身術程度だろうけど、要くんも異財ギフト持ちの魔法使いなんだから、本気を出されたら私も勝負にならないわ。全然当てられない・・・・・・・・のよ」

 異財ギフト? 何それ、攻撃が当たらないってどういうコト?


「そもそもは魔法使いが持っている魔力の特徴を異才っていうんだけど……そうね、ワタシたちのいう足が速いとか、持久力があるとかの肉体的特徴が魔力に置き換わったような感じかしら。それで異才の中にはレアなお宝、財宝のような価値を持つものを異財ギフトと呼んでいるのよ」

 よくわからないけど何かスゴイ! じゃあ円東寺クンのは?

「彼の異財ギフトは【偏在】よ。そしてリングを通して安里ちゃんにも恩恵シェアがあるはずから試してみるといいわ」

 へっ? 詳しい説明はなし? それだけ? 考えるな感じろとかブルース・リー的な?

「こればっかりは個人差があるし、私にも説明が難しいのよ。うーん、じゃあ基本的なところをかいつまんで説明するわよ。認識における物体の存在確率は一定では無くある種の振動を伴っていることは知っている? それをさらに魔法で増幅し認識領域を故意にゆがめることで……」

 あわわ、ごめんなさい! ボクが悪かったです!


 「さて、ここからならよく見えるわ。天竜海竜の戦いをよく観察しておいて頂戴」

 タツコさんの言葉にボクも外の戦いに意識を集中する。

 ボクたちは魔力塔の2階から、あいつらと五星王たちの戦いを見ている。五星王には悪いけど、何の情報もなしでぶっつけ本番というワケにはいかない。

 戦況はやっぱり五星王側が不利。残っているのは体力の多い木星王と土星王の2体だけ。やっぱり属性は使えないみたい。直接攻撃にも魔法の効果がついてるから、ダメージが半減してしまうようだ。天竜鬼が魔法を吸収しているの? だったらグローブは外したほうがいいのかな? そうすればボクの攻撃は単純に物理だけになるし。 


 不思議に思ったのは戦っているのは天竜鬼だけというコト。海竜鬼は牽制して距離をとるだけ。そしてダメージが一定量になると、天竜鬼が海竜鬼に触れ、体力を回復している。海竜鬼はただの回復役? それだけじゃないよね?

「安里ちゃんも気づいた? でも、完全回復じゃ無いわね。回復するのは受けたダメージの半分くらいかしら。ただでさえ体力があるのに厄介だけど、少しずつでも削っていくしかないわね。だったら回復でき無いように海竜鬼を分断して、天竜鬼を孤立させられれば……」

 タツコさんの目も恩恵シェアをもらっていて、相手の力量や体力の残りなんかが分かるらしい。半分は経験のおかげよ、って言うけど。


 そして天竜鬼の戦闘スタイルを見てもう一つ気づいたことがある。天竜鬼はガードをしてこない。五星王はプレイヤーが感情移入しやすいように、性格づけや痛みや疲れといった感情を組み込まれているけどそれがない。天竜海竜は殺戮兵器なんだと改めて痛感させられる。

 相手に好きなだけ攻撃をさせ、疲れたり体勢が崩れた時に一気に攻めに転じてくる。そして相手の腕や脚を無造作に掴み、可動部つまり関節を狙ってくる。技で倒すというより暴力的で効率よく人を壊す、そんな感じの戦い方だ。はぁ……。


「あら、今度はため息? ワタシなんか言っちゃった?」

 ううん、そうじゃないよ。ごめんね、タツコさん。

「要くんのことなら大丈夫よ。きっとうまくやるわ」

 うん、それもあるけど……ボクの中に、いつもみたいに戦いたいという気持ちが湧いてこない。


 それは天竜鬼の姿が、アーリだったころのボクに重なって見えるから。そして今のボクはあんな戦い方はできない。 【三なし】なんて呼ばれてるけど、巫子芝安里になってからのボクはずっと弱くなってしまった。

 ……タツコさん、ボクは天竜鬼に勝てないかもしれない。

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