M-Zero1 あの日、ボクはまだ中学生だった。 

 その頃、13歳のボクはまだ空手と出会ってなかった。

 田舎の師匠じっちゃんと離れて織江ばあちゃんと暮らすことになったボクは、都会のキラキラした生活に憧れる純情少女だった。

 う、うそじゃないって……えっ、夢見すぎ? それも失礼しちゃうわ!


 だけど入学した中学校に、ボクは初っぱなからがっかりさせられるコトになる。それは同じクラスにいた海老塚琉生えびづかるいのせいだ。

 通称エビルは虎の威を借る狐にたかるダニ、親の金や不良同士のコネでやりたい放題のクズだった。中でも学級委員で頭がいい葉田あゆみちゃんは毎日のようにいじめられていた。自分は7の段から先があやしい馬鹿のクセに。

 彼女をかばったら、次の日からいじめの的がボクに変わった。

 ボクは元々そういうのが許せなかったし、自己紹介のときに田舎者ってばれてるから、あゆみちゃんの次はボクの番なんだろうとも思ってた。そのせいでこれで彼女がいじめられなくなればいいかな、なんて気持ちも少しあった。


 それから定番の上履き隠しや教科書の落書きや無視とかに始まって、セクハラからえっちなイタズラまで色々やられたけど、体操着に落書きされて、男子トイレに放置された時はさすがに困った。ばあちゃんが買ってくれたものだし、他に替えがないし。

 どうしよう、ばあちゃんに怒られる。味噌汁にパクチー入れられる! だったら自分で何とかしなきゃ! って、変なスイッチが入って、ボクは放課後、エビルのお屋敷に行って門柱の横のチャイムを鳴らした。

 カメラに向かって、お宅の息子さんが盗んで汚した体操着を弁償してほしい、って言うと、聞き返されたので2回目はちょっと・・・・大きな声で言ってみた。通りがかりの人たちがぎょっとしてこっちを見てたけど、その時は弁償して貰うことしか考えてなかったし。

 顔を真っ赤にしたエビルの父親が出てきて、「証拠があるのか!」って言うから、乳首のところをハサミで丸く切られて、エビルの字で「↑注目」と書かれた体操着を見せると、「金は払うからそれをよこせ!」とか慌て出した。でも今思うとこれ、女子中学生の体操着を買う変態おじさんに見えちゃうよね。

 近所のおばちゃんに「警察よぶわよ!」って言われて、変態おじさんが家に逃げ込んだため、体操着は弁償して貰えなかった。

 そのあとボクの留守中に、家に使いの人が来てお金を置いていったらしいんだけど、そのせいでばあちゃんにボクのやったコトがばれて、「危ない事はするんじゃないよ!」と怒られた。その日の味噌汁にはパクチーが入ってた。もう! だから自分で言いにいったのに!


 それに懲りもせず、エビルが今度は「これお前だろ?」とボクの顔を合成したきわどい紐ビキニの女の子の写真をニヤニヤしながら見せてきた。ボクが泣くところが見たかったのかもしれないけど、言い返すのも馬鹿らしいので無視して家に帰った。その写真をばあちゃんに見せると、ばあちゃんは怒り心頭で警察と弁護士に電話した。

 その結果、お屋敷と事務所に警察の立ち入り捜査が入って、仕事のやつを含めた家中のパソコンを押収されたらしいけど、エビルもここまでになるとは思ってなかったんだろう。テストで鳥取の県庁所在地を砂丘とか書くくらいの馬鹿だから。


 そのあと写真のコピーを別の男子が手に入れてボクをからかってきたけど、ボクの胸はそんなだらしなくない! と言ったら、泣いて謝ってくれた。でも「強く生きろ」って何だろう? 意味が分からない。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る